第2話 田舎村
ここは異世界?
馬鹿なありえん。けど、テムロが見せてくれた大陸の地図を見ると、俺の考えは妄想だとは言い切れない。
それにテムロの話を聞いている限り、いくら田舎だからと言って俺の知っている国の事を全く知らないのもおかしい。
ここは一度冷静になって調べた方がよさそうだ。
「なあ、テムロ。外に出たいんだがいいか?」
そうテムロに聞いてみる。するとテムロは「それは、構わないが」と言ってくれた。
しかし、構わないと言ってくれたテムロは直ぐに心配顔になる。
「けどソウジ、大丈夫なのか?まだ痛むんじゃないのか?」
そう言って俺の体を心配してくれる。
何だ、テムロ、いい奴じゃん。
猪に追いかけられていた時に俺を囮にしようとした奴とは思えない。
まあ、あの時はテムロも必死だったからしょうがないと言えば、しょうがないか。
「大丈夫だ。少し痛むけど、歩けないほどじゃないからな」
それよりも、今この現状を確認する方が第一優先だ。
「分かった。なら俺が案内してやるよ。ソウジ一人で外に出て倒れられたら困るからな」
と、微笑みながら提案してくれる。
案内をかってでて、しかも俺の心配までしてくれるなんて。思わず胸が暖かい気持ちになる。
「ありがと」
「いいさ。ソウジには助けられたからな。じゃあ、外にでるか、とその前に・・・・」
テムロはベッドの脇にある籠に目を向ける。
そこにはボロボロになっている俺のスーツが置かれている。
「まずは着替えだな」
そうだった。
♢ ♢ ♢
テムロから服を借りて外に出ることに。
幸い俺とテムロの体格は似ていたお陰で、服のサイズ問題なかった。
しいて言うなら俺の知っている服の素材とは違うのか、多少着心地に違和感を覚える程度だ。
靴は自前のがあるからそれを履く。
だが、服がTシャツみたいなラフな上着に革のベストを着て、これまたラフなズボンなので、スーツに合わせた靴がやけに浮いてしまう。
まあ、それもそのうち気にしなくなるだろう。
「それじゃあ、行くか」
俺の着替えが終わると、待っていたテムロと一緒に外へ向かう。
「おぉ・・・・・」
思わず感嘆の声が出てしまった。
外に出て目に飛び込んできた光景は、今まで見たことのない光景だった。
木や土壁で作られた家。舗装がされていない道。その道を歩くオッサンは農具を肩に担ぎ、主婦と思しきオバサンは野菜などを入れた籠を片手に歩いている。
その光景に呆然としている俺をテムロは苦笑した。
「何そんな顔してんだよ。こんなのどこにでもある田舎村だろ?」
変な奴だな、とテムロは言うが、俺には『どこにでも』ではない。
何故なら現代の気配が一切しないのだ。
いくら田舎とはいえ、普通電子機器や車、家に使用する部品、そう言った現代ならあって当然と言える物がどこかには有るはずだ。
だが、見る限りそれらが一切見当たらない。
俺の知っている『どこにでも』に一つも当てはまらない。
あえて例を挙げるなら、昔見た中世の時代をモチーフにしたファンタジー映画の田舎村に似ている。
まあ、どう考えてもここが映画のセットな訳がないし。
仮にこれがドッキリだったとしても俺一人のために、こんな手の込んだ仕掛けなどするわけがない。
「ほら、いつまでもボケっとしないで、行くぞ」
呆然となっていた俺を置いて、テムロが歩き始める。
「お、おい待てよっ!」
俺はそれを慌てて追いかけ、テムロに質問する。
「なあテムロ、案内してくれるのはいいが、どこに行くんだ?」
「そうだな、とりあえずこの村をぐるっと歩いてみるか。心配すんな、そんなにデカい村じゃないから」
♢ ♢ ♢
家から出て数分、テムロはノザル村の中央広場まで案内してくれた。
「ここが中央広場だ!・・・・・と言っても大して広くもないんだが」
いきなり自虐ネタかよ。しかし言われてみれば、確かに広いとは言い難い。
一応人の行き来はある。数人だけだけど。
「まあ、ここが単に村の中心で、何かあった時はここに村人が集まることになってるんだ」
「ふ~ん」
広場はそれほど広くない。ここに何かあた時に集まったとして、全員入れるのか?
「この村って何人ぐらい人が住んでるんだ?」
「・・・・・・・・・50人くらいかな」
少なっ!
いや、村なんだから当たり前か。
「昔はもう少し居たんだが、みんな王都まで出稼ぎに行ったりして、今は歳取った爺婆が大半。まあ、若いのもいるけどな」
気になる単語が出てきたぞ。
「王都?」
「お前、本当に何も知らないのか?王都って言えばシンジアレ国の王都ロクサリアだろ」
知らんがな。
しかし王都か、いよいよ異世界臭がしてきたぞ。
「とにかく、今はこの村は人口が少ないんだよ。だからこの村に住んでる皆は家族みたいなもんさ」
村の皆が家族か。それはそれでいいものだな。なんか心が暖かくなる感じで。
「じゃあ、次行くか」
「次はどこに行くんだ?」
「そうだな・・・・・この村にある店を案内するよ。店の数もそんなに多くはないけど」
まあ、この村の規模ならそうだろうな。
「ちなみに何軒?」
「・・・・・・・・三軒」
うわぁ~・・・・・・
これはまた、何とも言えん数だな。さすがザ・田舎。
「何屋なの?」
「この村には雑貨屋、鍛冶屋、宿屋兼飯屋。以上」
一応生活する分には困らないのかな?
「食料はどうしてんだ?」
「それはもちろん、畑で採れた野菜とか、後は近くにある森の動物に木の実と、森の中にある小川にいる川魚とかだな」
なるほど。絵に描いたような自給自足なわけね。
となると、他には家畜を育てたり、牛の乳を搾ったりかな。
なら金はそれらを売ったりして生計を立ててるってことか?
あれ?金ってあるよな?
「金はどうやって稼いでるんだ?」
「採れた野菜とか、森で伐採した木材とかを近くの町や、定期的に来る行商人に売って金にしてるな」
やはりか。金もちゃんとあるのな。
自分たちで売りに行く以外にも、行商人なんてものもあるんだな。
「ソウジの国だって同じだろ?」
また当たり前みたいに言ってくれるな。
「そ、そうだな。大体そんな感じだよ。ハハ・・・・」
ヤバいな。俺が何も知らないってことを、あまり不審がられると、色々やりにくいぞ。
ただでさえ、ここが異世界でした、なんてことならここで不信を買うのは後々困ったことになる。
何せこの世界の事は、当然だが何も知らないのだから。
何かいい言い訳を考えておかないと。
とりあえず今はこの話の流れを変えておかないと。
「そ、それより、次を案内してくれよ。店を紹介してくれるんだろ?いや~この村がどんな店を開いてるのか楽しみだな~」
ちょっと露骨過ぎたか?
「そうだな。次行くか」
ほっ。よかった、話が流れてくれて。
しかし、何時までもこのままじゃよろしくない。
自分の状況を上手く誤魔化せる言い訳を考えておかないと、そのうち致命的なボロがでる。
そんなことを考えながら、俺は歩き始めたテムロの後をついて行った。
♢ ♢ ♢
「ここがうちの村の雑貨屋だ」
テムロに案内されること数分。着いた先は周りにある家と同じ、木造の家の前だった。
「小さいな」
ここに来るまでに見てきた民家とさして変わらない大きさだ。
俺の勝手なイメージだと、一回りは大きいものだと勝手に思っていた。
「お前それ、中に入って言うなよ?カジルおばさんに殺されるぞ?」
「カジルおばさん?」
「ここの雑貨屋の店主だよ。怒ると怖いんだから、変なこと言うなよ?」
まあ確かに、いきなり店を小さいなんて言ったら誰でも怒るわな。
「それと、ファミリーネームは名乗るなよ?」
「え?何で?」
「馬鹿、ファミリーネーム何て名乗ったら俺みたいに要らない誤解を招くだろ?」
ああ、そっか。ファミリーネームは貴族が名乗るのが普通だったな。
「了解。気を付けるよ」
俺も余計なことでトラブルを起こしたくないからな。
テムロが店の戸を開けて中に入る。
俺もそれに続いて中に入ると、手狭な店内に商品棚らしき棚や台にランプやら蝋燭、縄に服なんかまで、色々な物が商品として並べられている。
「へぇ~こんな風になってんだ」
店内を物珍し気に見ていると、店の奥から50代と思しきおばちゃんが顔を出した。
「あら?テムロじゃない。何か入り用?」
「こんにちは、カジルおばさん」
どうやらテムロが言っていたカジルおばさんらしい。
カジルおばさんは俺を見つけると、しげしげと俺を見てきた。
何だよ、熟女の趣味はないよ?
「テムロが連れてきた子だね?気を失ってた割には元気そうじゃないか」
「あれ?何で知ってるんですか?」
俺ってもしかして有名人?そんなわけないか。
「この村は小さいからね。噂とかは直ぐに広まるのさ」
「ああ、そういうことですか」
まあ、五十人程度の村ならそんなもんか。
「それでテムロ。何か買い物かい?」
「いや、こいつにこの村を案内してやってたんだよ」
「そうかい。ああ、自己紹介がまだだったね。アタシはこの雑貨屋をやってるカジル。よろしくね」
カジルおばさんが愛想よく自己紹介してくれる。
「はじめまして、総司です。よろしくです」
「よろしく。ところでテムロ。もう村は案内し終わったのかい?」
「いや、まだ途中だよ。後はガヤルさんとコークおじさんとこに行って、教会にも顔を出そうかなって思ってる」
また知らない人の名前が出たな。てかこんな小さな村に教会なんてあるんだ。
「教会に行くのかい?なら、ついでにこれを持って行っておくれよ」
そういってカジルさんは店の奥に一度引っ込み、戻ってくるとカジルさんの手には一つのランプが握られていた。
「この前シェスタがランプが壊れたって言っててね、うちに今は使ってない古いランプがあるから、持って行ってやっておくれよ」
そう言ってランプをテムロに渡す。
「分かった。シェスタに渡しとくよ」
「よろしくね」
「ああ。それじゃ、俺たちそろそろ行くよ」
「頼んだよ」
ここでの顔見せも終わったし、次に向かう。
「ああ、ソウジ」
と、外に出ようとしたところでカジルさんに呼び止められた。
「もし何かあったら、遠慮なく言いな?」
「は、はい。ありがとうございます。何かあった時は頼らせてもらいます」
カジルさんはそれだけを言って、笑って手を振り見送ってくれた。
見ず知らずの俺にこんなこと言ってくれるなんて、カジルさん、いい人だ。
♢ ♢ ♢
カジルさんの店を出た俺たちが向かった先は、カジルさんの店からはす向かいに位置する、土壁で建てられた家の前だった。
「ここが鍛冶屋だ」
テムロが言うには、この村の金物などが壊れたりしたらここで修理してもらうらしい。
「ガヤルさんは口うるさい人だから、初めての奴には誤解されやすいけど、根は他人思いのいい人だから」
鍛冶屋の職人さんにありがちな感じの人だな。まだあってないからただのイメージだけど。
テムロが前に出て戸を開けようと手を伸ばすが。
「あれ?開かない。留守なのか?」
今度は戸をノック。コンコン。
「ガヤルさ~ん。テムロだけど、居ないの~」
・・・・・・・・・・。
中からの反応はゼロ。どうやら噂のガヤルさんとやらは現在留守のご様子。
「いないか」
残念。生の鍛冶場ってものに興味はあったが留守なら仕方がない。
「いないものはしょうがないさ」
「だな。じゃあガヤルさんの紹介はまたの機会にして、次に行くか」
俺は残念に思いながらもテムロの案内で次に向かうことにした。
そうして辿り着いたのは、この村の案内をしてもらって初めて目にする二階建ての木造建築の前に案内された。
「ここが、この町唯一の飯屋兼宿屋だ」
「へぇ~。しっかりした宿屋だな」
他の民家に比べて頑丈そうな作りに見える。
「そりゃあ、客を寝泊まりさせんだから、多少頑丈に作っておかないとダメだろ」
それもそうか。台風などで吹っ飛んでいては泊り客も落ち着いて居られないもんな。
テムロが戸を開けると、戸に付けてあるドアベルであろう鈴がチリチリと音を立てる。
先にテムロが中に入り、俺はそのあとを追うように中に入る。
そこには調理場とカンター席、それと三、四人が座れるテーブル席が並べられ、直ぐ脇には二階へ続く階段がある。
どうやら一階が食堂、二階が宿になっているようだ。
中々広いし雰囲気も悪くない。
しかし、そんな店でもやはり小さな村だからか、店には客が一人しか見受けられない。
その客はカウンター席に座り豪快に飯を食っている。
見た感じ中年のオッサンの様だがよく食うな。
俺の位置からはテーブル席に座った背中しか見えないが、その背はがっしりとしていて、服の上からでもわかるほど筋肉がついている。
けど、中年のオッサンよりも、オッサンの隣に立てかけられている、大ぶりな剣に目を奪われた。
あれ、本物か?本物の剣なのか?
本物だったらちょっとテンション上がる。
その男は俺たちが店に入ってきたことに気が付き、こちらに振り返る。
「おお、なんだテムロじゃないか。どうした?飯でも食いに来たのか?」
短く切りそろえた髪の男は、厳つい顔には似合わない人懐っこい笑みを浮かべて話しかけてくる。
「いや、今こいつに村の案内をしてやってる最中なんだ」
そう言ってテムロは後ろに控えていた俺を指さす。
それに釣られて男が食事の手を止め、俺の方へと目を向けてくる。
「お?もしかしてそいつが噂のレッグボアを一発で仕留めた奴か?んん~・・・・・の割にはパッとしない奴だな。鍛えてるようにも見えんし」
何だよこのオッサン。人の事ジロジロ見てきて。パッとしてなくて悪かったな。
ん?レッグボア?
「レッグボアって?」
「お前が倒したあの大猪だよ」
ああ~あの猪の事ね。
「本当にこいつがレッグボアを倒しちまったのか?」
「確かにこいつが倒したよ。俺の目の前で倒したんだから」
「へぇ~テムロがそう言うんなら、確かなんだろうな」
俺からしたら何が何だかって感じなんだが。あまりそんな風に感心されても正直、困る。
こっちからしたらいきなり意識がボゥ~として、体が熱くなってきて、その熱が右腕に集まって外に出たって感じなんだよな。
今更だがあれは一体何だったんだ?
森で目が覚めてから本当に不可思議なことが起こり過ぎだ。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はクロード、よろしくな」
オッサン、クロードは席を立ち、俺に歩み寄って握手を求めてくる。
その握手に応えて手を握り返すと、鍛え抜かれたゴツゴツとした感触が手の平に返ってくる。
「俺は総司。よろしくです」
「ソウジ?変わった名前だな。どこの生まれだ?」
来た。今一番聞かれたくない質問No,1が。
しかし、何時までも答えないわけにはいかない。
少し、いや、かなり不安だが、ここまでくる間に考えておいた返答を思い切って口にする。
「じ、実はそのことなんだけど・・・・・・・・俺、記憶が無いんだ」
そう、俺が導き出し答えとは、まさかの『記憶喪失』ネタである。
「記憶が、無い?」
「おい、ソウジ。それ、本当なのか?」
テムロとクロードは二人揃って、変な顔になる。そうですよね。普通そうなりますよね。
だが、ここで記憶喪失だと言い張っておかないと、後々面倒なことになる。
皆が知っているような知識が俺にはないことを指摘されてしまえば、俺は直ぐに不審者にされてしまうからだ。
得体の知れない人間が直ぐそばにいたら当然不安になる。
不安が大きくなれば、その内その不安が爆発して警察などに連絡して捕まえられてしまうかもしれない。警察があるのか知らないけど。
とにかく、ここは身の安全を確保するためにも、この茶番をやり遂げなければならない。
「目が覚めて時に直ぐに言おうとしたんだけど、こんな話、ましてやよそ者の俺の話なんて、その、信じてもらえないんじゃ・・・・・ないかって・・・・・思って・・・・・」
出来るだけ悲壮な顔と声を意識して、ついでに顔も若干うつむき気味に演出。
「・・・・・・じゃあ、このレヴィア大陸の事を知らないのも、そもそも記憶がないから、てことなのか?」
「・・・・・・ああ」
「おいおい、この大陸を知らないって、本当か?」
クロードは俺ではなくテムロに聞く。
俺ではなくテムロに聞くあたり、もはやクロードの中での俺は完全に怪しい奴認定だろうな。
「本当だ。少なくとも、本当にこの大陸の事は何も知らないみたいだ」
「マジかよ、おい」
意識してないだろうが、ナイスフォローだテムロ!
クロードも顔なじみからの言を受けて、真実味が出てきたのか、驚愕している。
これはチャンスだ。この流れに乗って一気に仕掛けるぞ!
「騙すような形になって、すまない。けど、怖くて、不安でしょうがなかったんだ。目が覚めたら知らない場所で、知らない人間がいて、何が起きたのかも思い出せない。唯一覚えてるのは、自分の名前と、僅かに残ってる記憶の断片ぐらい」
「じゃあ、ソウジが言っていた、えっと、ニホン?てのは」
「ああ、記憶の断片に日本って国があったんだ。もしかしたら、それが自分の故郷なんじゃないのかって」
こじつけみたいになったが、これで起きた時に話した日本の事に対する言い訳を作っておく。
すると、これまで俺に話を振ってこなかったクロードが、俺に向けて質問してくる。
「・・・・・・何時から記憶が無いんだ?」
これは・・・・・信じ始めてくれてるのか?
いや、まだ油断するな。ここは気を緩めず慎重に話を進めていこう。
「気が付いたら森で目が覚めて、起きた時には何も思い出せなかった。それからすぐに、あの、レッグボア?に追いかけられたんだ」
ここの部分はほぼ事実を語っておく。
案の定これに反応したのはテムロだ。
「じゃあお前、あの時一緒に逃げてた時からすでに記憶が無かったのか!?」
「あぁ」
「そう、か・・・・・」
俺の境遇がショックだったのか、テムロはそのまま黙り込んでしまった。
テムロが黙ってしまった為、その場を静寂が支配する。
(く、空気が重い!)
自分で話しておいてなんだが、ここまで空気が重くなってしまうのは想定外だ。
ここは少しでも明るく振舞って場を温めよう。
「けど、テムロに出会えてよかったよ!」
俺は無理やり声を大きくしてテムロに話しかける。
「え?」
これに黙っていたテムロから反応が返ってくる。
「見ず知らずの俺を介抱してくれたり、分からないことを親切に教えてくれたり、本当にテムロみたいないい奴に出会えて、よかったよ」
「ソウジ・・・・お前・・・・」
「テムロが傍にいてくれなかったら、きっと今頃、パニックを起こして泣き叫んでいたかもしれない。テムロがいてくれたから、俺は今こうして無事でいられる。テムロ、本当にありがとう」
恥ずかしいことだが、これは俺の本心だ。
テムロがいなかったら本当に途方に暮れていただろう。
だから感謝の意味を込めて、テムロに向けて頭を下げる。
「や、やめろよ!頭上げろって!」
頭を下げる姿を見てビックリしたのか、狼狽えながら言ってくる。
頭を上げてテムロに顔を向けると、目を逸らしてしまう。
「べ、別に、困ってたら助けるのが普通だろ?特別な事じゃない。だから、いちいち感謝なんてするなよなっ!」
ツンデレか。男のツンデレって需要あるのか?
しかし、ここはちゃんと言葉にして伝えよう。
「それでも、俺は感謝してるんだ。だから、ありがとうテムロ」
「ふ、ふんっ!」
遂に照れてそっぽを向いてしまった。
このリアクションを男ではなく、美女美少女で見たかったよ、とは言うまい。
しかし、これでテムロの方は大丈夫だろう。問題はクロードの方なんだが・・・・・
「そ、ソウジ・・・・お前、苦労してたんだなぁ~・・・・うぅ~」
と、思っていたら、いきなりクロードが泣き始めたぞ?
つか、泣くような話かこれ?
言っちゃ悪いがこんなの、小学生が書いたお芝居以下の茶番だぞ。
「な、泣くことないだろ?」
「お、俺はこう言う話に弱いんだよぉぉ~」
マジか。弱いにも程があるぞ。一体どんな感受性なんだよ。
「グスッ、話は分かった!俺も力になるぜ!」
「え?い、いいのか?」
「ああ!記憶が無いのなら生活していくにも何かと不便だだろ?俺が教えてやれることは何でも教えてやる。だからいつでも頼りな!」
お、おおっ!マジか!
こんなご都合展開あっていいのか?いや、いい!
ご都合だろうが何だろうが関係ない。今は一つでも問題が解決してくれるなら、何でもいい!
「ありがとう、クロードさん」
「さん、何て付けるな。クロードでいいぜ」
「ああ、分かったよ、クロード」
改めて握手を交わしあう。
良かった。これでしばらくは大丈夫そうだな。
後は変なボロが出ないように気を付けよう。
そう今後の事を考えていると、二階から降りてくる足音が聞こえてくる。
降りてきたのは、クロードと同じぐらいの中年のオッサンだった。
「何だ。話し声が聞こえると思ったらテムロじゃないか」
「コークおじさん、お邪魔してるよ」
なるほど、この人がコークさんね。
「ん?そっちの見ない顔は誰だい?」
「こいつはソウジ。森でレッグボアに襲われたところを助けてくれてんだ」
助けたつもりは無いんだがな。
「レッグボアからか?よく生きてたな」
「ソウジが一発で倒したんだよ!」
「へぇ~そいつはすごいじゃないか!」
「だろ?」
何でお前が自慢げなんだよ。
「けどこいつ、記憶喪失なんだよ」
え?いきなりそれ話すの?
あんまり言いふらされるとボロが出そうなんだけど。
「記憶喪失?そりゃ大変だ!何か困ったことがあるなら言いなさい。微力ながら力になるよ」
嘘だろ?そんな簡単に信じるの?
もしかして記憶喪失って珍しくない?
「ありがとうございます。そう言ってもらえて有難いです」
この村、いい人が多すぎやしないか?いい人村に改名することをオススメするわ。
「しかし、記憶が無いなら何かと不便だろ。教えられることがあるなら教えるよ?」
「それなら、クロードが協力してくれるから問題ないよ」
と、横からテムロが話に加わる。
しかし、クロードがいればって、学者か何かか?そんな風には微塵も見えないが。
「クロードがいれば、私が出る幕はないな」
だが、俺の考えを他所にコークさんは一人納得する。
「おうよ!俺に任せときな!」
ドンッ!と自信満々に胸を叩くクロード。
「クロードはそんなに物知りなのか?」
「まあな。何せ、俺は『ハンター』だからな!」
「ハンター?」
ハンター・・・・猟師?
「狩りでもしてるのか?」
「ははっ!違う違う。ハンターてのは、世界の探求者さ!」
「探求者?」
なんだそれ、意味が分からん。
「クロード、それれじゃ記憶が無いソウジには分からないよ」
混乱している俺を見かねてテムロが助け舟を出してくれる。
「あのなソウジ、『ハンター』て言うのは『冒険者』とも言われている職業の事だよ」
「冒険者・・・・・」
・・・・・・オタクな俺の心を揺さぶるワードが来ちゃったよ。
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