第1話 ようこそ異世界へ

 意識を無くし、倒れていた俺は目が覚めると、そこは知らない場所だった。

 などと、物語にはよくある出だしだが、まさか自分がそれを実体験するとは夢にも思わなかった。

 晴れた空に眩しい太陽、疎らな雲が風に乗って空を泳ぎ、青一色の空にコントラスを着けて、心を洗い流してくれる様な景色を魅せてくれる。

 なんて、幼稚なポエムみたいなことを考えている場合ではない。

 体を起こし周りを見渡せば、そこは木々が立ち並び、鬱蒼とした茂みが俺の周りを囲んでいた。

 どこをどう見ても森の中だ。近くに公園があって、その公園にある茂みの中とかではなく、完全に『森』である。

 しかも全くこの景色に見覚えないし。


「え?マジでここ、どこよ」


 思わず声に出してしまったが、本当どこなのよ?


「そもそも、なんでこんなところでぶっ倒れてたんだ?」


 う~ん、と頭の中の記憶を探っていくと、意識を無くす前の事が思い出してきた。


「そうだ、俺は屋上から飛び降りて・・・・・・・・・・・」


 死んだはず。

 そう、俺は確かに自殺したはずなのだ。なのに気が付けば森の中。


「・・・・・意味が分からん」


 現代文明に染まりきっている俺は、条件反射でスマホを取り出す。誰かに連絡するなり、地図アプリを観ればいいじゃん、と考えスマホを操作しようとするが・・・・


「圏外って・・・・」


 マジかよ。これじゃ誰かに連絡すことも地図アプリも使えない。


「最悪だ~」


 未練がましくスマホをいじって何かないかと探してると、ふと画面のメールアプリを見て指が止まる。


「・・・・・・そうだった」


 俺、彼女を盗られたんだった。

 こんなどことも分からない森の中に放り出されてるし、村上にボコられた時のボロボロな服のままだしで、もう散々だ。


「マジ、最悪だ」


 世界はこんなに明るいのに、俺だけ暗い水底にいるかの様に気分が沈んでいく。

 今俺がいる場所も分からない状況で不安も積もる。

 とにかく・・・・・


「このままこうしていても意味がない。自分の置かれている状況を確認することを優先しよう」


 じゃないと負のマイナススパイラルに嵌まり込んで二度と浮上できないような気がする。


「とりあえず、移動しよう。ここでジッとしていてもしょうがないしな」


 盗られたことが夢だなんて、都合のいいことはないだろう。そんな希望を抱いたところで意味などない。

 精神的にも肉体的にも最低な状態だが、自分の今置かれている状況を把握しないと、これからどうすればいいのか。その指針だけでも決めよう。

 とにかく歩こう。歩けば人か、もしくは道に出られるかもしれないし。

 幸い、まだ森の中に日の光が入ってきている。足元も草が足首まで伸びているが、歩くのには問題はない。


「後は、熊とか猪とか、そういう類の野生の動物に遭遇しないことを祈るしかないな」


 などど言ってしまったのが原因でフラグ立ってしまったのか。

 歩き出そうと一歩、足を踏み出したその時、何かがバキッと折れる音が背後から聞こえてきた。それと同時に何かが倒れる音。


「なんだ?」


 振り返るとまだ距離があるようだが、森の木々を薙ぎ倒しながら、何か大きなモノがこちらに向かって近づいてきている。


「お、おいおい・・・・冗談だろ?」


 木々の間から微かに見えたそれは、なんと猪。しかもどう考えても普通の猪よりも明らかにサイズが違い過ぎる。

 あれはどう考えても熊よりデカいぞ!

 おまけにあの牙の長さ。俺の上半身ぐらいあるのではないか?

 あんなのに尻から刺されたら口まで貫通してしまう。そうなれば死んでしまうのは当然で・・・・・


「冗談じゃない!」


 尻を牙で刺されるという、中々シュールなビジョンが頭に浮かんだ瞬間、全力で逃走開始!

 木々が邪魔でうまく走れないが、とにかく距離を稼がないと!

 木々の合間を縫うよう走る。後ろから聞こえてくる破砕音が徐々に大きくなる。それと同時に胸を締め付けつような圧が掛かる。

 思わずチラッと後ろを見ると、すぐそこまで巨大猪が迫ってきている。

 そこで今更ながらに気付いた。猪の前に男が一人、必死な顔で逃げている姿を。

 どうやらあの男が追われているところに、運悪く俺が遭遇してしまったようだ。しかも男も俺に気付いて何か叫んでいる。


「グオォォォォォ!」


 猪の咆哮や、木々を薙ぎ払う音でよく聞こえないけど。けど、男が何を言っているのかは何となく予想できる。


(『助けてくれ』だろうな~)


 しかし、そんなことできる訳もなく、むしろ巻き込むなと言いたいぐらいだ。

 だが残念なことに俺の体力など所詮たかが知れている。そこいらの学生並みか、それ以下の俺では直ぐに追いつかれてしまう。

 おまけに森の中と言う悪条件ではなおさらだ。

 案の定距離がどんどん近づき遂にはすぐ後ろにまで追いつかれてしまった。

 先に追われていた男が必死に叫ぶ。


「た、助けてくれーー!!」


 やはりと言うべきか、予想通り男は助けを求めている。

 しかし、残念ながら俺にはこう返すしかない。


「それはこっちのセリフだーー!!」


 こちらも叫び返しながら今持てる力を全て出し切る勢いで足を動かすが、直ぐに男と並走してしまった。


「そんなこと言わずに助けてくれ!」


「無茶言うな!あんなのどうしろって言うんだよ!」


「君が囮になって食われてくれ!」


「それは囮じゃなくて、『犠牲』って言うんだよ馬鹿!」


 二人して罵声を浴びせ合いながら全力で走り続ける。

 が、こちらの体力はもう限界寸前、男の方も俺よりも前から走り続けていた為か、男も限界が近いようだ。

 それに伴い猪との距離も確実に近づいている。


「まずい、このままだと追いつかれる!」


 男がもう駄目だと言うように悲壮な顔で叫ぶ。

 その時、前方にパッと見でそこそこな広さ、学校の体育館ぐらいはありそうな空間が木々の合間からチラリと見えた。

 それを見た瞬間、俺の頭に天啓が降りた。


「おい!そこの広い場所に出たら同時に左右に分かれるぞ!」


「はあ?いきなり何言って――――――」


「いいからやるぞ!」


「わ、わかったよ!」


 男は俺の指示に難色を示したが、目前に迫る死から逃れるために指示に従う。どうやら俺に策があると思ってくれたらしい。

 だが残念なことに、これはこの状況を俺一人が逃げるための策なのだ。

 そして二人揃って木々がない空間に出た瞬間、俺は右に曲がって走り始める。男も俺の指示に素直に従い左に走り始める。


(よし!これで猪は最初に追いかけていたあいつを追って行くはず!後は適当なところに身を潜めてこの状況をやり過ごす!)


 ふっ、我ながらなんともゲスなことを考えてしまったのか。だが許せ。元々はお前が俺を巻き沿いにしようとしたのが悪いのだ。

 と、思ったのが駄目だったのか、振り返れば猪さんがボクの事をロックオンしているぞ♪


「・・・・・・・おい、マジかよ」


 鼻息荒く猪は俺の姿を発見するや否や、こちらに向けて進路変更。

 こちらも自然と足が全力で猪から逃げるために動きだす。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、マジごめんなさい!!」


 情けない悲鳴付きで。


「つか、何でこっちに来るんだよ!普通向こうだろ!」


 何がいいのか、こちらのボロ雑巾の様な有様の男を猪様は狙っていらっしゃるご様子。


「あ、そうか。ボロボロだから仕留めやすいと思ったんだ」


 強きが生き、弱きは死す。これぞ弱肉強食!

 などと自然の断りを理解している場合ではない。このままでは殺されるだけ。それは嫌だ。


(何とかしてこの状況を打開する策を!)


 そう思い走りながら周囲に視線を巡るも、あるのは木、花、草、土、小石、以上。


(駄目だ、このままじゃマジで・・・・・・)


 周囲にある物では猪をどうこう出来る様な物はない。加えて俺の体力も本当に限界寸前。


(これは、詰みか?)


 と思ったのも束の間。


「あっ!」


 遂に体力の限界が来たのだろう。躓いてズササッ!と見事に顔面スライディングをかましてしまう。

 顔、超痛い。

 どうにか体を四つん這いに持っていき、後ろを見れば猪はもう直ぐそこまで迫っていた。

 逃げ出そうにも最早体力は尽き、出来たことは尻餅を付くのが精々だった。

 そうこうしている内に、猪はもはや目前まで迫っていた。

 猪のスピードは衰える気配がない。このまま跳ね飛ばすつもりだろう。

 もう手の打ちようもない。逃れられない死が数秒後に訪れる。


「あぁ・・・・・死んだわ」



 ―――情けない



「え?」


 声が、聞こえる?しかもこの声どこかで・・・・

 辺りに目を向けるが視界には俺以外誰もいない。



 ―――こんなところで死なれては困る



 またも声が聞こえた。その声は耳ではなく、不思議と直接頭に響く様に聞こえる。



 ―――少し、力を貸してやる



 三度声が聞こえたと思いきや、いきなり意識が朦朧とし始めた。


「な、んだよ」


 しかも右腕が燃えるように熱い。まるで火の中に直接腕を入れているようだ。


「グオォォォォォ!」


 眼前に巨大猪の鼻先が迫っていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 これに対し、俺は受け止めることなど出来ないのに、咄嗟に右腕を前に突き出していた。

 そして今まさに、猪の鼻先が触れそうな瞬間、右腕からとてつもない衝撃が襲った。

 それは猪に突撃されたからではない。腕からなにか得体のしれない青白い光が、勢いよく飛び出したのだ。

 その光は猪の体を貫く。と同時にまるで猪の内側から爆破でもしたかのように、猪は大きく体をビクっ!と震わし、全身から血を噴き出した。


「・・・・・・え?」


 猪は沈黙。次第にその巨体が横に傾いてズドン!と大きな音を響かせ、地面に倒れた。


「え?え?」


 猪は地面に倒れたままピクリともしない。

 恐る恐る、四つん這いになりながら近づいて鼻先に触れてみるも、反応が無い。目にも光がなく、何も映していないようだ。

 つまり、これは・・・・・・・


「し、死んでる・・・・・」


 巨大猪は全身から血を噴き出して絶命していた。

 一体何がどうなってこんなことになったんだ?

 原因は流石に分かる。俺の右腕から出てきた不可思議な光が原因だろうと。

 あの光は一体何だたんだ?

 先程まで感じていた、燃えるような熱い何かも感じない。あるのは光が飛び出した時に受けた衝撃が、今も右腕を痺れさせているだけ。

 朦朧とした意識も、今ではハッキリとしている。

 しかし、一体あれは何だったんだ?

 目を覚ましてから理解が追いつかない事がありすぎて、脳の処理能力がオーバーヒート状態だ。

 と、一人混乱状態でいると遠くの草むらから人影が出てきた。

 よく見るとその人影は俺と一緒に猪から逃げていた男だった。


「お~い!大丈夫か!」


 男はこちらに手を振りながら近づいて来る。あいつ無事だったか。

 血を流して倒れている猪にビビりながら、その脇を通りいまだに呆然としている俺の傍まで近づいてきた。


「お前大丈夫か?怪我してないか?てか、見てたけどお前こんなこと出来たのかよ!何で早くやってくれなかったんだ⁉」


 よほど興奮しているのか、早口に捲し立ててくる。そんなに大声出すな、うるさいよ。


「いや、俺にも何が、なん・・・だ・・・」


 答えようとしたら急に眩暈がしてきた。頭がクラクラする。目の前の男が三人にブレて見える。


「おい?大丈夫か?やっぱ何処か怪我でもしたんじゃ」


 俺の事を心配してくれている男の声が、段々と聞き取りづらくなってきた。


「あっ・・・・・・」


 ドサッと地面に倒れる音と体に響く衝撃。俺は倒れたのだと、倒れた後に気づく。それだけ意識が混濁しているのか。


「お、おい!どうした!おい!!」


 男が倒れた俺の体を揺すりながら大声を出している。


(だから、うるさいって。つか、そんなに・・・体・・・揺ら・・・す・・・な・・・・・・)


 俺の意識はブツッと途切れた。



 ―――この程度でこのザマか。先が思いやられるな



 意識が切れる寸前、どこか呆れた様な声が聞こえた気がした。




          ♢        ♢        ♢




 眩しい。

 どこからか届く光が瞼を刺激して眠っていた意識が徐々に覚醒し始める。

 瞼を開けると、視界に映るのは板張りの天井だった。


「・・・・・知らない天、ゲフン」


 冗談はさておき、ここは一体どこだ?

 気が付けば俺はベッドに寝かされている。首を巡り辺りを見渡せば、狭い山小屋のような部屋で寝かされている。

 ベッドのすぐ横にある木製の鎧戸の隙間から光が僅かに差し込み、俺の顔を照らしてくる。

 体を起こしてみると、途端に体全体に鈍い痛みが襲ってくる。


「イテテ・・・・俺、どうして?」


 服も着ていたはずのスーツではなく、薄手のシャツにズボンとラフな格好になっている。

 どうなってんだ?いまいち記憶が曖昧だ。

 よく思い出せ。確か、いきなり森の中で目を覚まして、何かデカい猪に追われて・・・・・

 と、扉が開いて男が入ってきた。


「おお、目が覚めたか」


「・・・・・あ」


 男の姿を目にして、猪から一緒に逃げていた男だと思い出す。

 男は俺に近づいて、顔を覗き込む。

 いや、男にそんな近くから顔を覗かれても気持ち悪いだけなんだが・・・・


「うん、顔色も悪くないし、もう大丈夫だな」


 男は俺の顔色を窺い、安心したと言う顔した。

「あんたは?てか、ここはどこなんだ?何でこんな格好で寝かされてんだ?」


 色々な疑問が浮かんでしまい、ついそのまま疑問を目の前の男に問いただしてしまう。


「まあ落ち着け。いきなりで混乱してるようだし、一つ一つ答えてやるから、落ち着きな。まず自己紹介だ。俺はテムロ。よろしくな」


 テムロと名乗った男はニカッと笑って自己紹介してくれた。

 その笑みは人の好さそう笑顔であり、少し好感が持てた。


「んで、気絶したお前を俺の家まで運んで寝かせたんだよ。服はボロボロだったから、俺ので悪いが着替えさせたんだよ。お前の服は、ほら、そこにあるよ」


 そう言ってテムロはベッドの脇に置いてある籠を指さす。

 籠の中には確かに俺のボロボロになったスーツが収められている。


「お前の持ち物も一緒に置いてある。ああ、持ち物は見てもいないし、盗んでもいないから安心しろ。それよりお前、名前何て言うんだ?」


「俺か?俺は天野総司」


 俺が名乗るとテムロは首を傾げる。なんだ?そんなに俺の名前って変なのか?


「アマノソウジ?変わった名前だな。それフルネームか?それとも、ファミリーネームも入ってるのか?」


 ファミリーネーム?ああ、苗字ね。


 そういえばテムロは顔立ちからして外人みたいだし、日本人の名前は馴染みがないのかな?

 その割には日本語ペラペラなのは疑問だが。


「天野がファミリーネームで総司が俺の名前だよ」


 俺が名前の区切りを教えてやると、途端にテムロの顔が驚愕に変わる。

 はて?俺、何かおかしなこと言ったかな?


「ファミリーネームがあるってことは、お前、いや、あなたは、貴族様⁉」


「・・・・・は?」


 貴族?俺が?いきなり何言ってんだ?いつから俺がワイングラス片手にルネッサンスしたよ。

 俺の頭の中が?で埋め尽くされているのを他所に、テムロは焦りまっくてオロオロし始める。


「お、俺、御貴族様になんて事をっ!申し訳ありません!田舎者で礼儀を知らず、大変ご無礼なことをっ!どうかお許しください!!」


 いきなり理解できないことを捲し立てたと思ったら、深々と頭を下げるテムロ。う~む、意味が分からん。

 とにかくだ。


「頭を上げてくれテムロ。俺は貴族なんかじゃないよ」


 テムロは恐る恐ると言った感じで、頭を少しだけ上げて俺の顔を見上げる。


「ほ、本当に?貴族様じゃない、と?」


 その子供が叱られた様な姿に思わず笑いそうになるが、何とか堪えて頷いた。


「ああ、本当に俺は貴族じゃないよ」


 それを聞いたテムロは体を起こし、盛大に安堵の息を吐いた。


「なんだよ、脅かすなよっ!俺はてっきり貴族かと思っちまったじゃないかっ!」


 よほど緊張したのか、テムロを八つ当たりの様に喚く。

 知るかよ。勝手に勘違いしたのはそっちだろうが。


「しかし、貴族でもないのに何でファミリーネームなんてあるんだ?普通平民なら名前だけだろ?」


 こいつの普通って何?つか平民って・・・・・まあ確かにごく普通の一般家庭に生まれたから平民と言えば平民だが。


「知らないよ。天野総司が俺の名前で、それ以上でもそれ以下でもない」


「知らないって、自分の名前だろ?分からないのかよ」


「だから、知らないって」


 しつこい奴だな、普通苗字があるのが当たり前だろうが。


「変な奴だな~。そう言えば、お前生まれは何処だ?ここら辺では見ない顔立ちしてるが」


「日本だよ」


「ニホン?」


「そう、日本」


「・・・・・・・ニホンってどこだ?」


「え?」


「え?」


 お互いに顔を見合わせてポカーン。

 いやいや、日本ですよ?ジャパンですよ?知名度なら世界的に見ても5本、いや3本の指には入る有名国ですよ?そこまで有名か知らんけど。

 日本を知らないとか、どんだけ田舎だよ。

 てか、ここってもしかして外国?寝てる間に外国にいましたとか、どんなドッキリだよ。


「日本、知らなか?」


「すまん、知らないな。どこの国だ?それとも大陸?」


 大陸って。


「え~と、なんて言えばいいんだ?・・・・・そう!中国の隣にある小さな島国だよ」


 どうよ。我ながら中々分かりやすい説明ではないか。

 そう思っていると、テムロはまとも首を傾げてします。


「チュウゴクってどこだ?」


 ・・・・・・マジかよ。

 中国も知らないのかよっ!マジでどんだけ田舎なんだよっ!

 ・・・・・・待てよ。先にここがどこかを聞いてから説明した方が早いんじゃね?


「なあテムロ。逆に質問なんだが、ここってどこだ?」


「ここか?ここはシンジアレ国の辺境にある『ノザル村』って言う田舎だよ」


 ・・・・・・・どこですか?


「わからないか?シンジアレ国。レヴィア大陸の南西にある国なんだが」


 レヴィア大陸って何?そんな大陸知らないよ?


「本当に分からないのか?」


 テムロに問われるも、さっぱり思い浮かばない。学校の授業でも習った記憶がないぞ。

 これじゃあ話が一向に進まない。

 テムロの言うレヴィア大陸って言うニュアンスからしてここが外国なのは間違いないはず。ならば。


「なあテムロ。地図はないか?あるなら見せてくれ」


 地図を見ればさすがに自分が今現在いる場所ぐらいわかるだろう。

 本当はスマホの地図アプリを使いたいところだが県外で使えないし。


「地図か?分かった、ちょっと待ってろ」


 そう言ってテムロは部屋を出て行き、しばらくすると手に地図らしき紙の束を持って戻ってきた。


「ほら、これがこのレヴィア大陸の地図だ」


 テムロから地図を受け取り広げてみる。


「こ、これはっ!」


 そこに描かれていたのは、見たこともない大陸だった。

 授業で覚えた世界地図の中には、テムロが持ってきてくれた地図に書かれているレヴィア大陸と同じ形の大陸など存在しない、はず。

 流石に世界地図を完璧に覚えているわけではないが、断言できる。

 俺の知っている世界地図にはレヴィア大陸言う大陸は存在しない。

 なぜなら、ここに書かれているレヴィア大陸には、まるでが書かれていたからだ。

 これだけ目立つ印があればいくら何でも記憶に残る。だが実際にはそんなものは俺の知っている世界地図には存在しない。


 森で遭遇した巨大猪。


 俺の腕から出てきた不可思議な光。


 日本を知らないと言うテムロ。


 聞いたことも無い大陸の名前。


 見たことも無い大地に残された亀裂。


(これは、まさか・・・・いやいや、ありえない。常識的に考えてそれは無い。けど、そうじゃなかったら今この状況は説明がつかない)


「で、どうだ?分かるか?」


 うんうん唸りながら地図を見ていた俺を、テムロが心配そうに聞いてくる。

 だが、今の俺にはまともに答えてやれる状況ではなかった。

 何故なら、この状況に対する答えが一つ、思い浮かんで離れないからだ。

 かなり馬鹿馬鹿しい考えだが、もしかしたら俺は・・・・


「『異世界転生』してしまったのではなかろうか?」

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