2 Reunion
月光が蔵の窓から射している。俺はいつもの様に着替え、武器など物騒なものの数々をそれぞれの場所に仕舞っていた。腕が痛む。今日は少し無理をした。あと一週間で誕生日だから、焦っているのかもしれない。俺の修練を指導しに来る遣いにも浮き足立つ気配が見えてきた。
あと、一週間で出発か。
なんだか実感がわかない。
「……帰るか」
両親は逆に出発のことは口にしない。あえて避けている、のだと思う、俺が緊張しないように。あと、悲しくならないように。
今までに出発した勇者の死亡率はなんと、九十九パーセント。残りの一が、ゼロ様らしい。それを聞いた時はなんというか、かなり無謀だと思った。俺に期待されているのは、出来れば魔王を倒すこと。さもなければ生きて帰ってきて情報を伝えることだけらしい。腕を擦りながら首を傾げると、いい音がした。
食べ終わった昼飯の包みを持とうとしたとき、扉の方で物音がした。
「誰だ」
咄嗟に身構える。村人はここには近づかないよう言われている。外からの者か、皇都からの遣いか……。
「ミラ!久しぶり!」
「ちょっとイア、痛いよ」
「…………んぁ?」
「イっぁっあっあっアワ!?」
「なんて?」
月光をほのかに反射するライトグリーンと白銀の髪。最後に会ったのは三年前……だろうか?朝は誰にも見られないように早く、夜も誰にも会わないように遅くに家と蔵を行き来する生活では、二人の気配を感じる余裕なんてなかった。それぞれの瞳が、物陰からきらきらと光っている。
「お前ら、なんでここに」
「あと一週間だもん、出発の日にはちゃんと話せないだろうし。会っておきたくて、母さんに相談したら、最初は夜だからやめろって言われたんだけど、アワが付いてきてくれるならいいって!」
「巻き込まれた」
珍しくわかりやすいほど嬉しそうに話すイアと違い、三年前の素っ気なさはそのまま育ち上がりやがったアワはそう短く言って、蔵を見渡した。
「武器は何になるとか決まってるの?」
「んー……合うのは槍かなとは思ってる。最初は、こいつを持ってくつもりだけど」
毎日使っている相棒を指さして言うと、アワは自分で聞いたくせにどうでも良さそうに頷いた。
「ミラ、なんか、でっかくなったね」
「それはお前らもだろ」
二人とも俺より背丈は低いが、アワは、昔のふてぶてしいけど可愛い少年の面影よりも、ちょっと男くさくなったというか、貫禄みたいなものが出ている気がする。商売の勉強を頑張っていると聞いているが、そのおかげだろうか。商人らしい感じが出たし、雰囲気がアワの父さんに似てきた。
イアは、顔の輪郭が昔よりほっそりして、昔はもっとあどけない色をしていたはずの瞳の色も濃くなって、大人っぽいというか、人っぽくなった気がする。昔は赤みを帯びていた頬も今は色白の肌の色で、幼さが消えていた。
とか言ってる俺の方が、大分筋肉もついたし横にも縦にも伸びたし首や肩なんかも太くなったし、変わって見えるのだろうけど。
「ねぇ、寂しくないの?」
「え?」
予想できなかった声色に惚けた声が出る。
「ずっとここと家なんでしょ?」
イアは拗ねたような顔をして、それでもしっかり俺を見つめていた。
「……でも、ちゃんと訓練してから行かないと、死ぬみたいだから」
そう言うとイアは、その表情のまま凍りついた。
「……死ぬ気で、いくつもりなの」
「いや、そういうことじゃ……」
「ミラは、死んでもいいって思いながら行こうとしてるの!?」
しまった。こいつにだけは、勇者の死亡率とか、そういうことは話したらダメなんだった。
「大丈夫、ちゃんと帰って来るから」
あえて笑いながら言ってみる。
「やっぱり無理だよミラには」
「……やめろよ」
なんとなく、知らない人みたいになったイアにそう言われて、緩んでいた頬が冷えた。
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