第十二章 元傭兵の戦闘様式
剣戟と言うには幾らか鈍い音が格技場に響く。
芯こそ鉄鋼ではあるが刃は特殊合成ゴムであり、当たった所で打ち身が精々だ。悪くても骨折程度で済むし、それぐらいなら現代のナノマシン医療を以てすれば一週間と掛からず完治できる。余程怪力であれば撲殺も叶うだろうが、それとて誰にも止められず幾度も殴打が許される状況でなければそうはなるまい。
あくまで試合、あくまで模擬戦であり、殺し合いではないのだが―――剣戟の中心、飛崎とエリカの気迫は最早それと言っても過言ではない程であった。
少なくとも、特班の面々は元より、周囲で模擬戦していた他の班が手を止めて見入るぐらいには。
「ふっ………!」
直剣を両手で握り、下段に構えてエリカは飛崎の間合いへと恐れなく飛び込む。姫の肩書らしからぬまるで飛んでくるような低空疾駆に、燕かこいつは、と飛崎は舌を巻きながらも模擬刀を鞘から抜かずに横薙ぎに振るう。合わせるように振り上げられた直剣に弾かれ、胴ががら空きになり、まるで円を描くように横薙ぎの一閃が奔った。
だが、飛崎は弾かれた模擬刀を右腕を畳むようにして身体へと引き戻しており、振り抜かれた一閃は鞘の表面を滑って鍔で止まる。ほんの一瞬ではあるが、力が抜けたのを飛崎は逃さず、身を前へ突き出し弾いて右の横蹴りを放つ。
エリカは素直に身を引きながら、迫る蹴りを剣の腹で受け流して体制を整えた。しかし一息はついていない。むしろここからだ、と判断していたからだ。
互いに一足と一刀が届く距離。だが、立て直しと仕掛けは飛崎の方が早い。右足による横蹴りは距離を離すという役割と同時に、構えの一歩だ。だん、と格技場の床を踏み鳴らして飛崎は抜刀の構えを取っていた。来る、と思うよりも早く、エリカよりも低く速い速度で踏み込んできた。
視認が難しい一撃に剣を合わせられたのは優れた反射神経の賜物だ。鈍い鉄とゴムの音が今の一撃の威力を物語る。
しかし。
(また抜いていない………!)
合わせて弾いた飛崎の模擬刀は未だ鞘から抜かれてはいなかった。
幾度か打ち合っては見たものの、飛崎の攻撃は全て鞘に収まった刀の打擲と体術に限られている。舐められているのか、と憤るがどうにもそうしたゆるさを感じない。ならば何かを狙っているのでは、と勘ぐっているとぞくり、と不意に背筋が震えた。
一閃を放ち、右腕を振り切った飛崎はその慣性を殺さず、更に加速させて身を翻した。振り切った刀に、その鞘に左手が追いつく。それと同時に一歩踏み込み。
「………っ!」
どちらと言わず、息を止める呼気が奔る。
迫るのは下段からの抜打ち。間合いはドンピシャ。鞘走りさえ認識したエリカの集中力は回避不能と即座に判断を下し、剣の切っ先を下へと向けて身を背後へと飛ばした。無理な体勢で振った剣は十全な威力を持っておらず、一見無意味な行動のように見えたが、かん、と手応えを感じて迫る剣閃が一瞬遅れたのをエリカは確信した。
防ぐには至らなかったが軌道と威力、そしてタイミングが少しずつずれてバックステップしたエリカの頬の数センチ程離れた虚空を斬っていった。
追撃を警戒してそのまま三歩後方へ飛び、エリカが小さく整息していると。
「―――ふむ。躱したか」
感心したような声音で納刀している飛崎が呟いた。仕切り直しだ、とエリカは構えながらも呼吸を落ち着かせて尋ねる。
「ふぅ………。カタナ使いって、実物は初めて見たのだけど、バットージュツが基本なの?」
「ガキのチャンバラじゃねぇんだ。力任せに何度も何度も刃で打ち合わせてたらこんなんもん何本あっても足りねぇよ。この国の中でならいざ知らず、海外にゃ刀鍛冶なんかいないし補給もメンテもままならん。―――なら、然るべき場面で抜くべきだろ?」
実の所、刀という武器は現代に於いても中世に於いても主力兵器として扱うには難がありすぎる。
斬る、と言う現象に特化したこの武器は確かに扱い切れれば素晴らしい近接武器ではあるが、そこに至るには年単位、適正によっては二桁単位の年数を平気で必要とする。
適当に振り回していてもある程度斬れはするが、不意に硬いもの―――人体であれば骨、戦場であれば防具―――に当たれば欠けるし、腰が伸びるし、血脂で切れ味も鈍ることもある。その癖刃筋をしっかりと立て心に当てねば最大限の性能を引き出せないのだから扱いがとかく難しい。普段から修練している士分階級はともかく、雑兵に与えても宝の持ち腐れだ。
これらを全てひっくるめて、他のあらゆる武器よりもうまく扱いきれる人間など、歴史上何人もいまい。それこそ剣聖として名高い上泉信綱などに代表される一部の極まった人間ならば可能であろうが、少なくともその達人の数が合戦の主戦力たる足軽の数を上回ることは決して無い。
だからこそ、日本史の中で幾度も行われた合戦で刀はあくまで副武装であり主武装に成り得なかったのだ。
突いて振り回していれば農民でさえ驚異になる槍が主武装になるわけである。技術もない雑兵が力任せに扱うのならば、頑丈さに特化している西洋剣の方が余程優れているぐらいだ。
何しろ当時の足軽は大半が屯田兵で日常の大半を農作業して暮らしているのだから。武士のように刀を扱うための稽古の時間など取れるはずもなく、どうせ扱えないのならば農具感覚で振り回すだけでもどうにかなる槍で良かった。それならば大した修練も必要ないのだから。
結局の所、武器としての潜在能力としてはともかく、素早い生産性と誰でも扱える利便性と様々な状況で使える汎用性を重視しなければならない兵器と言う分野に重きを置くならば、刀はやはり欠陥兵器と言わざるを得ない。
まして日本国内はともかく、海外では補給に乏しく、更に日本刀に精通している鍛冶師がそうそういるはずもない。それは
それらを踏まえた上で、それでも尚、と刀を扱うとなるとどうしても限定された使い方にならざるをえないのだ。故にこそ、飛崎が得た戦闘様式は決して奇を衒ったものではなく、海外という特殊な環境下の元、刀を扱って戦場を生き抜く上で必要に迫られて編み出された一つの回答なのだろう。
「ふぅん………。結構、苦労するのね。カタナって。ちょっと欲しかったのだけれど」
「蒐集用の美術品としてならともかく、コレをメインの武器として扱いたいんならちょっと覚悟しとけ。手入れもそうだが、扱い方一つにしても覚えることが多すぎるし西洋剣みたいに雑に扱うにゃ繊細すぎる。その上で自分にあった流派を考えると年単位の時間が掛かるぞ」
「あら、教えてくれるの?そのバットージュツ」
「こんな尖った使い方はいっそ覚えん方が良いぞ。どうやったって片手打ちになるから男の身体でも一撃一撃の威力が下がるし、あんま下手に扱うと収めた鞘の方が負ける。まぁ、一般的な剣術なら、この国出身の人間の方がよく知ってるだろうさ。二次大戦後の平和な時代ならともかく、今は戦う力が必要な時代だからな。―――さて、次は儂から行こうか」
すっ、と抜打ちの構えを見せ、今度は飛崎の方から攻めてきた。身を低く、そしてエリカが驚愕する程の速度での踏み込み肉迫―――だが深すぎる。お互いに剣を振るえる距離ではない。一体何を、と疑問に思う暇も無く構えた剣の柄ごとタックルを食らってエリカは吹き飛んだ。
「きゃっ!?」
体崩し、と言うにはあまりに粗雑なやり方にエリカは絶句しつつも追撃に対処する。本命の抜打ち―――ではなく、身を返して逆胴。読み間違え掛けて遅れたが、それでも剣を盾にして防ぐ。ならばと押し返して反撃を狙おうとするが、その押し返しの力がすっぽ抜ける。
衝撃の直後に腕を畳んで更に一歩踏み込んできたのだ。
「かはっ………!」
変形の裡門頂肘、と格闘技に明るい人間ならばそう評すだろうか。飛び込みの肘鉄を腹部に受け、エリカはたたら踏む。僅かに後方に飛び、身を捩ったため急所にこそ入らなかったが衝撃は体を駆け巡った。ひゅっと、呼吸が止まる。
それが致命的な隙になる。
既に飛崎は抜刀の体勢にあった。彼我の距離は僅かに五メートル。獲物の長さと踏み込み距離を考慮すれば十分に最大威力を発揮できる。対してエリカは衝撃が抜け切っておらず、剣先も流れている。
避けれないし防げない、と判断するのと飛崎が抜刀するのと―――そしてその射線上に影が乱入するのはほぼ同時だった。
三上だ。
剣士二人の気迫に押されて、同じ場に立っているのにほぼ空気と化していた三上がバディの危急に援護に入ったのである。既に抜き放たれた刃(特殊ゴム製)は狙いよりも手前になるが、それでも既に速度が加速度的に伸び始めている。
身を挺して盾になるか、と誰もがそう思ったその瞬間。
「………らっ!」
彼は右拳を下からカチ上げて迎撃した。
ショートアッパーで刀身の腹を弾かれ、剣閃を逸らされて切っ先が天を向く。見てから対処した!?と飛崎は絶句するが、流石に幾度の修羅場を潜った傭兵である。即座に左手に残った鞘で横薙ぎの打擲。しかし。
「よっと」
軽い声と供に残った左手で弾いた。
どんな動態視力してやがる、と飛崎は舌を巻くが―――流れて上段の構えになった手を返して袈裟懸けに剣を振り下ろすと、三上はそのままサイドステップして距離を取った。
再び仕切り直しの流れに、飛崎はおや、と首を傾げた。無理矢理振るった隙だらけでロクに力も入っていない袈裟斬りではあったが、アレは誘いだ。そこから繋げる技も幾つか持っていたし、むしろそれで仕留めるつもりだった。初見なら大体はあそこで調子に乗って一転攻勢に流れてくれるのだが、三上はそのカウンターを読んだか、それとも慎重を取ったか攻めては来なかった。
なかなかどうして良い判断をする、と飛崎が感心していると、体勢を整えたエリカが再び構えて呼吸を整える。
「―――ふぅ、ありがとうショウジ。助かったわ」
「………おぉう、どういたしまし、て?」
一国の姫相手に未だ距離感が掴めず、ぎくしゃくとした返事をする三上にエリカは苦笑してそれにしても、と飛崎の方に視線を向ける。
「随分と戦いにくいわ。剣士なのか格闘家なのか、チグハグと言うか何と言うか………」
「そっちだって堂に入った剣技じゃねぇか。どっかの両手剣傭兵団を思い出すぞ」
「あらご明察。私の先生が昔、リヒテナウアー剣士団に所属していたらしいの。今は国許の軍で働いているけれど」
「ああ、どうりで。アイツらもまた美学の信奉者だったし、その薫陶を受けているとなりゃぁ、変に手は抜けねぇな」
彼の剣士団の事は飛崎もよく知っている。
活動範囲が飛崎が所属していた
とは言え一対一の決闘を非常に好んでいて事ある毎に『いいからとにかく決闘だ!』と手袋をハズレ馬券のごとく気軽に投げてくるのは勘弁願いたかったが。夕食のおかずをちょっとつまみ食いしただけで決闘に発展するのはどうかと思う。
アレは戦争狂ならぬ決闘狂、と言うのが傭兵界隈での認識だ。
まぁそれだけならばともかく、リヒテナウアーの名前を冠するように元々がドイツ流剣術の流れを汲んでいるため、実力自体は折り紙付きだ。銃火器によるロングレンジ有利の
何故にそんな時代錯誤のヤベー奴らがリアルに跋扈しているのかと言うと、一応、理由がある。
消却者の出現、適合者による異能という新たな武器の出現に伴い近接戦闘技術という分野は新たに見直されることとなった。消却者相手に霊素粒子が混合されている特装弾ならばある程度のダメージを見込めるが、一番効くのが霊素が織り込まれた特殊合金で形成された武器―――更にそこに異能を乗せた一撃が最も効率が良かったのである。
特装弾は回収できるが、再び弾丸として使用するのに溶かして整形して火薬を詰めて―――と後方支援と補給環境が整っていないと継戦に難がある。
現代では都市を囲う障壁のお陰で安全に生産、出荷が可能なので補給は比較的容易ではあるが、『消却事変』初期はそれもままならず、前述したとおり最大火力が近接攻撃の方が高いし、武器も壊れるまで何度も使えるのだから近接戦闘技術メインで習ったほうが良いのでは?となったのも不思議ではない。
その結果、過去に栄光を誇った武術―――日本だけに限らず海外でも―――が再び脚光を浴び、今日に至るまで独自の進化を経ているのだ。何を隠そう、この鐘渡教練校理事長の長嶋武雄も長嶋派炎雷流の伝承者であり、鐘渡教練校卒業生は大体内弟子なのだから、この時代で如何に近接戦闘技術が重要視されて浸透しているか理解も出来るだろう。
「貴方は?そのバットージュツ」
「まぁ、儂自身はそう大したものじゃないんだがな」
「これだけ動けてその謙遜は嫌味よ?」
エリカにそう言われ、飛崎はそれもそうかと笑いながら納刀し、構えを取りつつ自らの技術の元を語る。
「剣技に限らず、儂の戦闘技術は前に所属していた部隊員全員の技術だ。由緒正しい謂れがあるとすりゃ、精々部隊長の実家だな。香取神道流の流れを汲む天元一刀流って流派の宗家で、そこを破門されたらしい。儂自身は剣技やら体術やら何から何まで借り物で貰い物。それを拙いパッチワークで繋いだだけ。手前ぇ一人で培った技術じゃないし、方向性もとっ散らかった技術群で上手く馴染みもしねぇ」
元々、飛崎は昭和の後期―――激動の戦後も抜け、高度成長期を経験し、バブル期の少し前―――平和と言われた時代の生まれだ。
武術と言っても剣道に空手に柔道程度しか身近に無く、それでさえ学校の授業で少ししか習う機会もなかった。興味があれば別だったのだろうが、同級生の長嶋武雄がその手の分野で天才的に特化しすぎていたのもある。今更覚えて友に追いつくには、明らかに習熟度も才覚も別格だったのだ。部活に至っては趣味が講じて文化部だ。
そうした理由もあって、時代が時代なだけに多少の喧嘩こそ経験はしていたが、命のやり取りを伴う戦闘に関してはズブの素人であった。
それを一端の傭兵に育て上げたのが数ヶ月前まで彼が所属していたPMCであるARCS。その第1師団に於ける19独立小隊『エリーニュス』の面々だ。彼等は右も左も知らぬ飛崎を教え導き、自らの技術を遺産代わりに飛崎に託して、己の本懐を遂げて散って逝った。
「だが皆、それぞれに掲げた美学があった。それを同じ様に美学を掲げる儂に遺した。言葉にはせんかったが、使えるのなら使ってくれと、継げるのなら継いでくれと」
故にこそ、『エリーニュス』の生き残りとして、飛崎は誇らしく名乗るのだ。
「―――だからこその、ツギハギよ」
技術群の
剣技、体術、銃技、その他諸々を含めた彼が扱う技術群は、その全てに隊員達が積み上げた美学が宿っている。それらを余すこなく受け継いだ飛崎は、言うならば『エリーニュス』の遺児。子が親を誇らしく思うように、飛崎もまた同じように思い掲げる。
「そう。そのTACネームに誇りを持っているのね」
「おうよ。この名は儂が戦場で結んだ絆であり、組み上げた戦闘様式は今はもういない輩の形見そのものよ。だからこそ、先人達の技術を誇らしく掲げる。それこそが戦いにおける儂の美学よ。だから儂一人だけを相手にしていると思うと怪我をするぞ。―――正治よ、お前さんも攻めて来い。さっき、反撃は出来ただろう?」
「あ、ああ………まぁ、な」
もう一合が始まる気配に、三上は構えこそするがどうにも覇気が無い。というよりも、少し顔色が悪い。それを不思議に思いつつ、飛崎はそこが狙い目だと判断する。
「ふむ。あんまり遠慮するようなら………」
「―――!」
視線と足が自分の方に向いた、と気づいた三上の背に、ぞくりと悪寒が走る。
「こっちから行こう」
言葉と同時に踏み込んで来る。またぞろ鞘に収めたままの打擲か、と思いきや今度は抜いてきた。刀身はゴム素材とは言え、いきなり抜刀されれば焦るもので、三上は半ば反射的にスウェーバック。思った以上にギリギリで、首筋を擦過する音を聞くこととなった。真剣ならばこれで勝負あっただろう。
だが勝負ありの声は掛からず、攻撃の後隙を狙ったエリカが剣を振るう。しかしガン、と鈍い音と供にそれは防がれる事となる。
「もう!邪魔ね、その鞘!」
「こちとら佐々木小次郎じゃねぇーんだ。―――手放さんのなら使いもするさ」
上段からの一撃を左手にした鞘を、まるでトンファーのように下腕に沿わせるようにして盾にし、防御していた。鍔迫り合いのように硬直する二人を見て、三上は拳を握り飛崎に接近するが。
「くそ………!」
「おっと」
軽い声と供にバックステップ。距離を取る飛崎を見送ると背後から小さい呟きが聞こえた。
「先に行って」
耳打ちされて三上は振り返ること無く了承し、エリカをその巨体の影に隠すようにして飛崎へと追いすがる。
「ぬ」
その意図を察したのだろう。飛崎は唸るように目を細める。
正面から三上と相対するか、それとも身を隠したエリカを警戒して更に距離を取るか迎撃するか。どちらにしても攻め手はこちらだ、と三上は判断する。最初こそ二人の気迫に押されて遅れを取ったが、二対一なのだ。絶え間ない波状攻撃か同時攻撃を重ねれば、優位に戦いを運べる。
だが、飛崎は突如として意味のわからない行動に出た。
「ほい」
何と鞘を投げつけてきたのだ。
しかしそれはどう考えても三上には当たらない。見当違いとまでは言わないが、躱すまでもなく迫る三上の右側を走り抜けていく。
一体何を、と疑問に思う暇も無く、飛崎が虚空を手繰るように左手を動かし―――足に違和感。それを感じた瞬間、三上は右側を横を過ぎっていったはずの鞘を何故か視界の左端に捉え、両足を不自然な力で引っ張られてすっ転んだ。
(は?―――糸!?)
まさかルール無視して異能でも使われたのか、と飛崎の方を見ると彼は既にこちらに踏み込んできており、見上げる形になって初めて、その左手にしたものと照明が重なり気づく。キラキラと光る糸状の透明なそれは、ナイロンワイヤー。訓練用に置かれていた暗器の一つだ。
それが飛崎の左手と投げつけられた鞘の栗形に結ばれていた。それで追いすがるための三上自身の速度も合わさってボーラのように巻き付き無様に転がされた、と気づく。
「あだっ………!」
「うっ………!」
嘘だろ、と絶句していると飛崎は転がった三上の背中を踏みつけるようにして抑え込むと、右手にした刀を彼に追従していたエリカへと向けた。目の前で壁にしていた相棒がすっ転び、視界が開けたと同時に自分の首筋に刃を添えられていては、エリカも止まらざるを得ず―――。
「そこまで!」
新見の声が響いて、決着となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます