第9話 シャンプーとぼっち
お店に到着した
そこでレジに立っていた女性は彼女のことを見つけると、「涼奈ちゃん、いらっしゃい」と笑顔で手を振ってくれた。
「
「あら、今日は彼氏さんと一緒?」
「ふふふ、実はそうなんですよ――――――いてっ」
「違います、ただのクラスメイトです」
平然と嘘をつく彼女にデコピンで制裁を与え、七海さんには正しい情報を伝えておく。
ただただシャンプーを買いに来ただけなのに、勝手に恋人にされてはたまったものでは無い。
「そうなの? お似合いさんに見えちゃったわ」
「調子に乗るのであまり煽てないで下さい」
「うへへぇ、藍斗君と私がお似合いだって〜♪」
「ほら、すぐこうなる」
面倒だし今すぐにでも見捨てて帰りたいが、二人で一緒に遊びに来ている以上、それをするのは残酷だし、約束を破るということにもなる。
せめて早く話を進めてもらおうと急かすと、涼奈は
「連れないなぁ……」と唇を尖らせつつ、本題の路線へ戻してくれた。
「この前注文したのは届いてますか?」
「ええ、ちょうど昨日届いたの。涼奈ちゃん、いつもこれを買ってくれるのよね」
「いい匂いなんですもん。藍斗君もそう思うよね?」
「いや、使ったことないから知らない」
「いつも私の匂い嗅いでるでしょ? 隣の席なんだから、嫌でもそうなるに決まってるじゃん」
「意識したことないからさ」
「涼奈ちゃんなど眼中に無いってか!」
別にそういう意味の意識していないでは無いのだが、「激おこプンプン丸モードだよ!」と腰に手を当てて睨んでくる彼女を宥めるのは手間がかかりそうだ。
仕方なく詰め寄ってくる涼奈の後頭部に手を回した藍斗は、そっと顔を寄せて髪の匂いを嗅いでみる。
驚いたのか「ふぇ?」という間抜けな声が盛れていたがお構い無し。ほぼほぼ髪の中に鼻を埋めるようにして、10秒ほど念入りに確認した。
「うん、確かにいい匂い」
「い、いきなりは卑怯だよ……」
「ごめん、でもわかってないことに怒ってたから」
「それはそうだけどさ……」
「思ったんだけど、
「ちょっと明るくしてるかな」
「その割にすごいスベスベだし、綺麗だよね。そのシャンプーのおかげ?」
「そうそう! 髪質に合ってたのか、これに変えてからすごく調子がいいの!」
「じゃあ、僕も同じのを注文しようかな」
彼がそう言いながら値段を確認しようと七海さんの持つ本体をのぞき込むと、横からそれを受け取った涼奈が「はい!」と差し出してくる。
わざわざ渡してくれなくても見えたのに……なんて首を傾げた彼がお礼を言って手に取ったのを見て、彼女は嬉しそうに笑いながらこう言った。
「遊びに来た時に藍斗君に渡せるようにって、七海さんが早めに仕入れてくれたの」
「え、僕のために頼んでくれてたってこと?」
「きっと気に入ってくれると思って。もし他のが良くても、私が自分で使えばいいだけだしさ!」
「じゃあ、お金を返さないと」
「いいのいいの、一回目は涼奈ちゃんからのプレゼントってことで。その代わり、気に入ったらここで七海さんに頼んでね?」
「……お客増やしたら報酬貰えるシステム?」
「誰がネズミ講やねん!」
相手のために何かをする。それを心から楽しんでいることが分かるキラキラとした表情に、彼の暗い心は少しばかり毒されたように思う。
いや、どちらかというと浄化されたと表現すべきかもしれない。とにかく、彼女の笑顔は半引き篭もりな藍斗にとってあまりにも眩しすぎたのだ。
「それでねそれでね、お風呂上がりに髪に塗るといいトリートメントがあるんだけど……」
「僕って、髪のことはあまり気にしてないからね。でも、話だけは聞いてみようかな」
「毎度ありー!」
「いやいや、山田さんは店員じゃないでしょ」
楽しそうに会話しながら商品を見に行く二人の後ろ姿を見つめていた七海さんは、やっぱり心の中でお似合いな二人だと頷いた。
だって、いつも商品を見つめているのと同じ真っ直ぐな瞳が、今日はずっと隣を歩く男の子の方に釘付けになっていることに気がついていたから。
「私のお店はデートに誘う道具に使われたってことね。まあ、お得意さんが増えそうだから見逃してあげようかしら」
彼女はそんな独り言を零して、商品を入れるための紙袋を準備しておくのだった。
吉良井くんは好かれたくない〜自分をよく知る人にほど嫌われる呪いにかかってしまった僕ですが、隣の席の美少女がウザイほどに好奇心旺盛過ぎて困っています〜 プル・メープル @PURUMEPURU
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