第7話 連絡先とぼっち
テスト返しの次の金曜日、
しかし、ワクワクしながら集合場所と時間について聞いてくる
渋々駅前でいいんじゃないかと伝えると、彼女は「10時でいい?」と首を傾げた。
そのくらいの時間なら、休みの日でも頑張れば起きられるだろう。そう思いながら頷いて見せたのだけれど……。
「じゃあ、連絡先教えてくれる?」
そう聞かれて固まってしまった。
もう何年も人に連絡先を教えたことなんて無かったし、何ならスマホを持ってからは一度もない。
LINEの友達欄にあるのは家族だけ。それもほとんどやりとりをしないから、ホコリを被ってるんじゃないかというくらいアプリを開く機会がなかった。
何せ、この情報ですら『自分を知る』という意味で情報のひとつに含まれるのだ。秘密にしたくなるのも当然である。
「あれ、どうかした?」
「……」
「もしかしてLINEやってない?」
「一応入れてる。でも……」
『嫌われたくないから教えられません』なんてことを言えば、頭がおかしいと思われるだろう。
実際、病院で見てもらった時もそうだった。真剣に訴えても、何もおかしなところが見当たらないと精神的なものでは無いかと言われた。
けれど、そうであって欲しいと一番願っているのは他でもない彼自身で、おかしな囁きを幻聴だろうと無視できたのは最初の一年だけだった。
だって、『ひとりぼっちになる』という言葉通り、仲良くしていたはずの相手が突然怒りだし、孤立するということが目の前で起きたのだから。
「大丈夫、藍斗君がいつもひとりでいるのは私が一番見てるし。友達が少なくたって笑わないよ?」
「……」
「それに友達1号ならむしろ嬉しいじゃん!」
「……
度々思わされる、彼女ならもしかして……と。諦めていた普通の関係というものを、山田 涼奈となら築けるのでは無いかと信じたくなる。
しかし、そんな希望の光の温かみすらも藍斗にとっては貴重だからこそ、容易に想像出来る失望を味わいたくないと逃げ腰になってしまっていた。
何度嫌われても、何度無視されても、新しい人にそれをされる恐怖が消えることは無い。
ずっとずっと積み重なっていって、とっくに押し潰されていたはずなのに、いつの間にか立ち上がってまた潰されるのだ。
それでも信じてしまう愚かさを振り払い切れないのは、見つめてくる彼女の瞳があまりにも美しいからかもしれない。
「じゃあ、教えてくれる?」
「おっけ! じゃあ、これ読み込んで!」
「QRコードか。えっと、ここだったかな……」
「ちゃうちゃう、友達登録はここのボタンだよ」
「なるほど」
初めての操作に手間取る藍斗を、涼奈は手を取って丁寧に教えてくれた。
ついでにお気に入り登録だとかいうのをされたらしいが、どうせ他にやりとりをする相手もいないから問題ないだろう。
「じゃあ、もし時間になっても会えなかったら、これで連絡取り合おうね!」
「うん。行けなくなったら行けないって言えるし」
「仮病で休むのは無しだかんね?」
「なるほど、その手があったか」
「おいおいっ!」
「冗談だよ、約束は守る」
「もう、絶対だよ?」
少し心配そうな目を向けてきた彼女は、短いため息を零しながらスマホの画面を見つめる。
まだ何も送られていないが、上にはちゃんと『藍斗』という名前が表示されていた。
「あ、一緒に帰―――――――――――」
「じゃあ、また明日ね」
「――――――――あ、うん」
顔を上げた時には既に彼はそそくさと教室を出て行ってしまっていて、追いかけようにも最後の人は教室の戸締りをしなくてはならない。
仕方なく窓と扉の鍵をかけてから職員室へと向かった涼奈が、付けっぱなしのスマホを嬉しそうに抱きしめながらニヤついていたことは彼女だけの秘密である。
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