第6話 テスト結果とぼっち

 あれから一週間が経過した頃、涼奈すずなは友人グループの三人にテスト用紙を見られながら色々と言われていた。

 普段から努力しないからだと説教する者、次に頑張れば大丈夫だと朗らかに慰める者、落ち込んでいる顔を真顔でパシャパシャと写真に残す者。

 十人十色という言葉が彼女たちのためにあるのでは無いかと思うほどバラバラな四人だが、それでも仲良しグループだということは有名だ。

 窓の外ばかり眺めている藍斗あいとでさえ、一緒にいるところを頻繁に見かけているほどなのだから。


「おーい、山田やまだは居るか?」

「涼奈、呼ばれてるぞ」


 教室を覗き込んだ先生に呼び出され、説教は一時的に中断。廊下で数分間話してから戻ってきた彼女は、しゅんと項垂れているようだった。


「……怒られた」

「成績のことでか」

「5教科中3教科でクラス最低点だって」

「そりゃ、前日の夜にあんなLINE送ってくるくらいだしな」

「……どんなの送ったっけ?」


 涼奈は「ちょっと待ってろ」とスマホを取りだした友人に画面を見せられると、当時のことを思い出したように顔を赤くしてあわあわし始める。

 すぐに「消して! アプリごと!」と懇願するが、「その反応を見たら残しておきたくなった」と意地悪な顔をされて再び落ち込んでしまった。


「悪い悪い。ほら、消してやったぞ」

「ほんと?」

「疑うなら確認してみればいい」

「……消えてる」

「涼奈を脅しても楽しくないからな」

「慌ててる様子は可愛いけどね〜♪」

「……フッ」

歩心あこ六夢むむも笑わないでよ!」

「ふふ、ごめんねぇ〜」


 実にワチャワチャと楽しそうにじゃれあっている四人。いつも独りでいる藍斗は、そんな光景を羨ましいと思わないこともない。

 もしも呪いなんてなくて、自分のことをもっと知ってもらえたら、彼女たちのようには無理だとしても、今より少しなら笑顔で過ごせたかもと思う。

 それもこれも全て、好奇心に負けて立ち入り禁止の場所に入ってしまったあの日の自分の責任だから、誰を責めることも出来ないのだけれど。


「はぁ」

「藍斗君、どしたの」

「ん、びっくりさせないでよ。さっきまで向こうにいたんじゃないの?」

「えへへ、寂しそうな顔してたから来ちゃった♪」

「よく見てるね」

「涼奈ちゃんはいつでも見てるよ?」

「えぇ……」

「嘘だからそんな引いた目で見ないで?!」


 彼女は「見てる時にした見てない!」なんて意味不明な弁解をしてくるので、「僕はいつも見てるけどね」とからかってみたら本気にしたらしい。

 顔を赤らめながら「もっと可愛いパジャマ着てればよかった……」と呟くので、「いや、家の中まで見てたら変態だよ」と返しておいた。

 そもそも、彼は涼奈の家に行ったこともなければ、場所を知ってすら居ないのだから。


「じゃあ、今度遊びに来る?」

「遠慮する」

「即答?! もうちょっと悩んでくれても良くない?」

「んー、遠慮する」

「悩んだ上でなら仕方ないか……ってならんよ?!」


 涼奈はどうしても家に招きたいらしく、「おねがいおねがいおねがい!」と両手を合わせて頼んでくる。

 しかし、彼女と藍斗は知り合ってまだ2ヶ月も経っていない。初めての会話からは1ヶ月にも満ていないのだ。

 同性ならまだしも異性であるというのに、そんな相手を家に招くこと招かれることを、法が許しても彼が許せなかった。

 そもそもの話、自分を知られるリスクを負ってまで遊びに行くようなことをするはずは無いが。


「仕方ない。来てくれたら涼奈ちゃん、藍斗君のために何でもしてあげる!」

「ほう、何でも?」

「そうだよ! す、好きにしていいんだよ?」

「じゃあ、寝たまま学校に来れるシステム作って」

「え、無理」

「なんでもって言ったのに、嘘つき」

「涼奈ちゃんが出来る範囲内で!」

「……頼めること何も無いじゃん」

「私、なんだと思われてるの?!」


 その後、いきなり自宅に招くのはハードルが高過ぎたと察したらしい彼女が、「私のおばあちゃん家に行こう!」と言い出したのだけれど―――――。


「いや、そっちの方が難しくない?」

「優しいよ?」

「そういう問題じゃなくて」

「じゃあ、おじいちゃん家?」

「……祖父母別居中か」


 ほんの少しだけ切ない気持ちになった彼が、渋々シャンプーを買いに行く日に少し遊ぶくらいならいいと了承してあげたことはまた別のお話。

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