第5話 テスト前日とぼっち
中間テスト前日。ヘラヘラしていた者たちも段々本気になり始め、顔つきもどこか真剣になった気がするこの頃。
帰って昼寝しようとカバンを肩にかけて教室を出た
いや、襲われたと言うよりかはじゃれつかれたという方が正しいかもしれない。隠れていた
「……何やってるの」
「ふふふ、藍斗君捕まえた」
「そんな『ボマ〇捕まえた』みたいに言われても」
「涼奈ちゃんに捕まった人は、命を差し出すか命令を受けるかの二択なんだよ」
「ひと思いにお願い」
「そんなに言うこと聞きたくないの?!」
予定と違ったようで少しオロオロとしてしまったらしいが、彼女はコホンと咳払いをして気を取り直すと、「命令一択にします」と勝手に決定して腕を引いてきた。
「いや、遊びに付き合う暇ないんだけど」
「何か用事あるの?」
「昼寝しなくちゃいけない」
「それを世間では用事がないって言うんだよ?」
「勉強もしなくちゃいけない」
「ふっ、テスト前に勉強なんて三流がすることよ」
「
「しないしない。日々どれだけ自分が努力してるか、それだけで測るのがテストなんよ」
「そういうものかな」
いかにももっともそうに言ってはいるが、藍斗は彼女が授業中に当てられた問題で正解を答えているところを見たことがない。
もっと言えば、いつもペンを鼻と上唇の間に挟んで変な顔をしたり、悩んでいる振りをしながら落書きしたりしているからノートも取っていない。
これでいい点数が取れるなら、それはもはや天才か人の思考を読み取ってズルをしているかの二択だ。藍斗が言うのもなんだが、それはありえない。
要るに、前日にこんなお遊びをしている暇は彼女に無いはずなのだが、それでも腕を掴んでくる手を離すつもりもないらしかった。
「この前言ったでしょ? おすすめのシャンプー教えてあげるって」
「言ってたっけ」
「なっ?! 藍斗君の忘れんぼ、ケチんぼ!」
「僕はいつケチになったんだろう」
「……ケチんぼって今考えると、ハレンチそうでハレンチじゃない言葉だよね」
「余計なことに気が付かんでええわ」
まるで世紀の大発見をしたかのような真剣な顔でそんなことを言うものだから、藍斗もつい真面目にツッコミを入れてしまった。
これ以上話していても彼女のペースに流されるだけな気もするし、早急に切り上げてテスト前日の罪な昼寝の何とも言えない優越感を堪能しよう。
そう思って腕を振り払ったのだが、少しばかり雑にやり過ぎてしまったらしい。
自分の指先が涼奈の頬に当たり、「痛っ」と短い声が漏れる。これを無視して逃げ帰るなんてことは、人の心を捨てていない彼には出来なかった。
「ごめん、大丈夫?」
「多分……」
「見せてみて」
反射的に押さえていた手を退けてもらうと、下から出てきたのは綺麗な肌。万が一のことを考えてしまったが、怪我はさせていないらしい。
「よかった、大丈夫そうだね」
「……」
「山田さん、どうかした?」
「……ち、近いよ」
そう言われて気が付いた。よく調べようと無意識に前のめりになってしまっていたことに。
藍斗は慌てて下がろうとするが、同時に背後を通ろうとする生徒がいて、ぶつかりかけたところで彼女に強く引き寄せられた。
衝突は回避出来たが、二人の距離問題はさらに深刻化するばかり。お互いに戸惑ってしまって、彼が離れようとしても何故か涼奈がくっついたまま移動してしまうほどだ。
「あ、藍斗君……?」
「な、なに?」
「シャンプーはまた今度でもいいかもしれない」
「……僕もそうして欲しいと思ってた」
結局、その日は二人とも大人しく自宅に帰り、藍斗は予定通り昼寝をしたが、涼奈の方は悶々としてしまって何も手に付かなかったそうな
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