入学編—神秘の終門6 


 ルーデウッドと対峙すると、彼は相変わらずの笑みを貼り付けて言った。


「おめでとう……ああ、心配しなくてもプープラ君なら返すさ」


 と、言うよりかは契約があるので返さざるを得ないのだろう。


「にしても驚いたよ。このドラゴンは対魔法使い用にボクが育てたんだけど……といっても子供なんだけどね」


 こんな事なら使わなきゃ良かった、最後に付け加えると今度はルノスが口を開いた。


「贓物喰い、貴方に一つ質問が……」

「なんだい? 残念ながらボクが負けた以上、君には質問する権利があるし出来るだけ答える姿勢でいるつもりだけど」


 どうしても確認しなければならなかった。万が一、ルノスの早とちりだって可能性もあるのだ。


「このドラゴンに何をしたのか、教えてくれませんか?」

「……卵の時から面倒見てたからね。ボクを親だと勘違いした結果、と言ったら信じるかい?」

「まさか」


 最強種である彼らの知能を舐めるな。

 なによりこっちは声を聞いてるんだ。そんな安っぽい嘘が通じる訳ない。

 するとそんな様子を見たルーデウッドは何かを悟ったようだ。


「ちょっとね、呪文と薬を投与しただけだよ。まあ君達との戦闘で幻覚の方は解け始めてたかな」

「やはりそうでしたか……違法なものを?」

「…………どうかな」


 それには答える気がないらしい。だが、直接口にしないだけで態度を見れば一目瞭然だった。

 このまま引き下がろう。

 そう思った時、横から声が発せられた。


「違法薬物を使用したのですか? 魔法貴族の前でよくもぬけぬけと」

「別に不思議な話じゃないさ。魔法貴族だって法を破っているだろう? ボクは知っているよ。ペクシー家がどうかは知らないけどね」

ペクシーわたくしの家は至極真っ当ですわ! ただ……」


 確かに、証拠が無いだけで陰の魔法使いと目されている貴族や違法な人体実験を行なっている貴族が居ることは頭に入っていた。

 

「やっぱり1年生はまだまだ青いね。陰の魔法使いなんてバレてないだけで沢山いるのに」

「…………」


 魔道をより早く、効率的に進むため、陰の魔法使いになるのは珍しくない。

 例えば新たな呪文や薬品の作成。正確な効果を知るための人体が必要だ。魔法生命は人間とは種族的なレベルが違うために当てにできない。


 近くに腐るほどある癖に、人間の体は何かと便利なのだから、それを手にしない理由はないだろう。


「行くぞローズリア。それではスティン・プープラは回収させて貰います」

「もちろん。それじゃ、気をつけて帰ってね」


(全ての元凶の台詞とは思えないな)


 その後、ルノス達は無事に地下迷宮から脱出できた。







 眠っているスティンを寮に戻すと、ルノスとローズリアは二人で食堂に来ていた。

 当然、今は講義時間。人はまったく居なかった。

 

「なあローズリア、提案があるんだが……」


 ルノスは紅茶を片手に啜る少女に向かって喋り出した。

 彼女は「わかっている」とでも言いたげに息をつくとルノスに視線を向けて続きを施させる。


「今回の一件だが……スティンには秘密にしておかないか? 幸い彼は何が起きなのか把握できていないはずだ」

「……仲間はずれのようで気は進みませんが……そうですわよね。ただでさえ今のスティンさんは先輩方に恐れを抱いていますもの」


 その状態で今回の一件。精神的な問題でこれからの生活に支障をきたすだろう。

 そうなればルノスの負担も多くなる上に彼の魔道は永遠に閉ざされてしまう。


 やがて真実を教えるにしても、それは今じゃない。スティンがもっと魔法使い的に成長したその先にある。

 これが二人の出した安全な選択だった。


 沈黙が訪れ、空気を変えるために話題を変えることにした。


「ところでこの後の講義はどうする?」

「そうですわね……わたくしはあまり気分ではないですが……魔法貴族が欠席するのも良くないですし、行くことにしますわ。ルノスさんはどうなさいますの?」

「スティンが居るからな。悪いがオレも寮で休むことにするよ」


 申し訳なさげに眉を動かした少年にローズリアが答える。


「寮とはいえあんな事があったのですから彼を一人はする訳には行きませんもの。仕方ありませんわ」


 そうして予定を伝え合うと、二人は別れた。

 


 

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