入学編—神秘の終門4
真紅の鱗が黒く焦げていた。煙が立ち昇り、
しかしルーデウッドは未だに焦った様子を見せない。それどころかニヤけながら楽観視しているようだ。
「ルノスさん、お怪我はありませんか?」
「ああ、君もないようだな。それよりも……」
駆け寄ってきたローズリアに返答すると、すぐに
そして、そんな不安を肯定するように爬虫類の瞳がカッ! と勢いよく開かれた。
「——っやはりまだ……!」
血のような瞳は強くこちらを睨んでいる。焦げた鱗も、ボロボロの体も目に入らないくらいの威圧感がそこにはあった。
これで口から火が吹けないのだから、まだまだ弱い個体だなんて到底信じられないし、信じたくもない。
「グッグガァァ……!!」
汚れた翼を羽ばたかせて、
「さすがは最強種。ダメージを負えばその分強くなる、か」
「どうしますの? 悔しいですが
苦虫を噛み潰したような表情のローズリア。
「さっきと同様の手は通じないだろう。
だからこそ、今の状況は危険と言わざるを得ない。興奮状態になった
「…………?」
ふと、ルノスと
その血に濡れた瞳に理性がある事を。
(どういうことだ? 興奮状態ではないのか?)
わからない。判断を下せない。
迷いに迷った——その時。
『……たい』
「何?」
声が、聞こえた。明確に、透き通るような、人間の子供のような声が。
「どうかしましたの?」
ローズリアには聞こえていないようだった。彼女は訝しげにルノスを見つめている。
『……にたい』
「…………」
『死にたい』
間違いなく、その声が耳を通った。
むろん、
しかし、念のため確認することにした。
「声が聞こえないか? あの
「声? ……いえ、何も聞こえませんわ」
(オレだけなのか? それとも……)
ルーデウッドにも聞こえているのか。いや、そんな話は前代未聞だ。一部の人間にのみ聞こえる
となると……
(オレの方に何かがあるのか?)
『殺して……殺し、て』
「君は……本当に死にたいのか?」
咄嗟に返した言葉に
まさか、とでも思ったのだろう。
『……殺して』
「そうか……」
意思疎通はできる。
目の前の
けれど、殺す方法がない。今のルノス達で圧倒的な火力不足だ。
どうする? と考えた時に隣でローズリアが呟いた。
「リュウ語」
「なんだって?」
「ルノスさん貴方……今、リュウ語を使っていましたわ」
「……は?」
何を言っているのか分からなかった。そもそも今の魔法界にリュウ語を操れる人間なんて居ない。過去を顧みてもリュウ語を操れたのは魔王くらいだった。
もちろんルノスは習ったこともないし、生きてく上では不要なものだったので詳しくもない。何せ、ただ
「何を言って……いや、今はいい。とにかく目の前のことに集中しよう」
「え、ええ。その通りですわね」
二人は魔法剣を構えた。
次に
『カラダ……弄られた……翼……付け根部分……脆くなってる……そこずっと奥まで刺せば……心臓』
「ああ、わかったよ……君の恨みはオレが果たそう」
覚束ない言葉遣いだが、言いたいことはわかる。多分この
「…………」
ああ——やってやるさ。
ルノスは心の内に封じた黒い感情が隆起するのを察知した。
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