入学編—神秘の終門2
そこは何の変哲もないただの広い空間だった。地面に凹凸すらも無く、真っ平らで、だからといって自然溢れる場所でもない。
それ故に人気は疎か暇潰しですら人が来ることは無く、今となってはルーデウッド専用の部屋といっても過言ではなかった。
そんな隠し部屋に何故連れられたのか。そんな疑問をルノスは遠慮なく切り出した。
「それで、一体何が目的なのかお聞きしても?」
「そう急かさないでよ。別にプープラ君を殺すつもりはない……君達がボクの指示通りに動いてくれたらね」
胡散臭い。ローズリアは聞くや否や「時間の無駄ですわね」と切り捨てた。
それに関して激しく同意したいが、さすがにスティンを見捨てる訳にもいかない。
「指示通り、ですか。まさかオレ達に貴方を信用しろ、なんて言いませんよね?」
「ん? そうだな……呪文で契約するかい? それなら君達だって納得してくれるはずだ」
「…………」
呪文で契約。
おおよその一年生は理解できないだろうが、ここにいる
そうなれば話は変わる。ルーデウッドが話す内容によっては彼の言う「指示」に従うのもやぶさかではなくなった。
そんな様子のルノスを確認した贓物喰いは満足そうに頷いた。
「ボクが求めるものは至って単純だ。今から君達には————」
そんな言葉を遮るように、ソレは足を踏み鳴らした。
ルノスらの背後に佇む形で天に飾られた人工的な光から影をささせる。
「なんですの……?」
岩の影に隠れたかのような状況にローズリアが訝しんだ。ゆっくりと首を動かし、背後を見やると……
「——ッこれは!」
失神させるような強い眼力に天翔けるための翼。魔法剣なんかより鋭い爪は光に反射し、剥き出しの牙からは唾液が滴る。
幾千もの鱗が並ぶ————
「
魔法動物の頂点、それが
もっとも入手する難易度は途轍もなく高いのだが……。
「君達にはボクの
「承知しました……ただし戦うのは——」
そこまで口にすると、彼女が制服の端を摘みながら、
「ルノスさん? そういうのは無しですわよ?」
少々怒りながら言う。
しかし、と返そうになって口を閉じた。ローズリアの性格は掴んだ。彼女に魔法貴族としての誇りがある限り「見捨てる」選択肢など存在していないのだ。
当然、仲間だけに命をかけさせるなど以ての外。
であれば、ルノスの一存で気高きその誇りに傷をつける訳にはいかない。
「そうだな。すまなかった」
「それでいいんですの」
場違いだが微笑む彼女は美しい。こんな命が脅かされる場面でもそう思う程度には。
さて、と魔法剣を引き抜きながらルーデウッドに近づくと、彼もまた抜剣した。
「オレとローズリアがそこにいる
「君が納得するのならそれで構わないよ」
————
互いにそう唱えると、二本の魔法剣がばつになるように重なった。
今ここに契約は結ばれ、戦いの幕が切って落とされたのだ。
「ボクはそこで傍観させてもらう。契約を交わしたんだから……逃亡したらどうなるか、わかるよね?」
「…………」
(スティンを殺すか)
厄介な先輩に目をつけられたものだ。けれど……
「ルノスさん、貴方とはこれからも良好な関係を保てそうですね」
「まあこんなびっくり体験を共有してしまったしな」
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