入学編—呪文学2
無事に第6講義室に辿り着いて、ルノス達は着席した。
「早く着いてよかったね」
「ああ、だけど早く着きすぎるのも良くないな」
何せ、暇だ。一番乗りは気持ちいいとかじゃなくて、暇だ。
とはいえ、廊下に出てウルテイオを探索なんてしてみろ。もう二度と戻ってこれないかもしれない。
「講義室ってすごい量の本が置いてあるね。これ全部呪文学のやつなの?」
「まさかですわ。ここにある本はウルテイオの全講義に必要なもの……全ての講義室に置いてありますの。講義する場所なんて教授の気分みたいなものですから」
しかし魔法道具実験や格闘魔法訓練などは魔法実験室、訓練場などといったそれ専用の場所がある。
「へーそうだったんだ……」
「まあしかし本は全部古いから運が悪い時はページが破れていたりするんだ」
「……それって大問題だよね、学校として」
スティンが言う。だがそれは今更すぎる問題だ。第一、人を殺しても良い学校など世界中を歩き回ってもウルテイオしかないのだ。そんな学校に問題がない訳がない。
「きみ達……早いね♡」
「——ッ!?」
突如、呆然としていたスティンの横に高身長の男が現れた。顔は口と鼻は赤く、それ以外は白く塗られ、同じく赤と白を基調とした服装の
子供なら泣きじゃくっても違和感はない形相、そのような男が少年の頬を舐めるような距離で声を発したのだ。結果、
「ひゃぁぁ!?!?」
女性のような高い声で、大きく悲鳴を上げた。
◆
深い深い海で魚のように泳いでいる。そんな感覚がスティンの柔肌を刺激して、いっそこのままずっと揺られていたいとすら思った。
どこか遠くから自分を呼ぶ声が聞こえるけど、今は雑音程度にしか感じない。
ああ、ここは天国だ。
そう思ったスティンはずっと閉じていた瞳を開いた。
目の前には白くて、でもところどころが赤い人の顔——————人の顔ッ!?
「起ぉ〜きて♡」
「——むごォ!?」
そして、スティンは眠りの波から岸へ弾かれた。
◆
「はッ! はぁ……はぁ……」
「やっと起きましたわね。ほら、もう始まりますわよ」
「え?」
横になっていたスティンは何が起きたのか理解できていなかった。
でもなんだか嫌な夢を見ていた気もする。内容は覚えていないが、どこかで揺られていた。それでその後は……
「——ッ!」
ブルブルブル! と悪寒を感じた少年は無意識に
「んふ♡」
ウィンクを飛ばす教授。スティンは若干引き攣った笑顔を返して誤魔化した。
「随分と仲がいいな」
「もしかしたらスティンさんとピカソ教授は見えない何かで結ばれているのかもしれませんわ」
「何もないからね!?」
そんな漫才もさておき。
赤いもじゃもじゃ頭を揺らしながら教授が口を開いた。
「わたしの講義へようこそ。新入生諸君♡ 呪文学担当のピエール・ピカソだヨ」
ゆったりとした焦らすような喋り方だ。確か入学式で少しだけ登場していた。
「きみ達にはこれから、呪文詠唱失敗のデメリットを知ってもらうヨ。その方がきみ達のためになる♡」
またまた個性の強い教授が相手になるようだ。
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