入学編—スティン失踪8
崩れた岩壁の先を進むルノスとロイマス。中は空洞となっており、人工的な光が見えていた。
どうやら当てが外れたってことは無さそうだ。
「……ルノス君」
そうして更に奥へ進むと、乱暴に捨てられたゴミのようにボロボロなスティンが呟いた。
それを確認した瞬間、すぐに前へ走りたくなるが……近くに佇んでいる
当然、相手は只者じゃない。馬鹿正直に突っ込めば死ぬのはルノスだ。
「…………」
肝心の
ルノスは訝しげに見つめて——気づく。
(ああそうか。オレの隣にはウルテイオに名を轟かせる魔法使いがいる)
ルノス一人ならばいざ知らず。ロイマスの相手は教授であっても苦戦するかもしれない。
やがて、その
「
「つれないことを言うなよ、
「そうだろうね。でも君は慮るだけで、実際に手を貸すような
贓物喰い、と呼ばれた金髪の青年はチラッと視線をずらすと——「あぁ」と納得したように微笑んだ。
「そうか……魔王候補か。今年は多いらしいからね。豊作だって聞いたよ」
「面倒ごとが増えるだけだ」
「面倒ごと? 嘘言うなよ覇天道。第一、君がそこの魔王候補生に手を貸す必要なんてないじゃないか。後輩だから? それ以前に君達は
嘲笑うようだった。しかし、しかしだ。非常に不本意だがルノスとてそう思う。わざわざ魔王候補という名のライバルを助けることはロイマスにとって利益とはなり得ないのだ。
「確かに
「だったら——」
「勘違いするなよ? おれが目指すのは魔王だが、それは
——おれが真に目指しているのは真っ暗な魔法界を明るくすることだ。そして、そのために必要な将来の魔法使いを己の身勝手で費やさせたりはしない。
と、付け加えると覇天道の異名を持つ大魔法使いは剣を引き抜いた。
「何よりおれは他の魔王候補を減らさずとも魔王になれるからな。無益な殺生はいらぬ」
「……自信たっぷりか。で? ボクに何のようだったっけ?」
「スティン・プープラを返せ、贓物喰い」
惚けきった態度に思わずルノスは口を出した。大人として素晴らしいロイマスに圧倒されていたが、優先すべきはスティンの安全確保だ。見習う所とかは後で振り返ればいい。
「君のお友達かい? 新しい魔王候補。それとも単なる善意かな?」
「貴方に関係はないでしょう? 早く彼をこちらに……」
「別にボクはここでプープラ君を殺しても良いんだよ? 今は答えといた方が賢明だと思うけどね」
力強く拳を作ったルノスは渋々答えた。
「友達です。満足したなら——」
「そんな焦んないでよ。まだこっちの質問終わってないんだから」
(この男……何か企んでいるのか?)
本人は楽しそうだが、知りたい情報くらいはあるはずだ。そうでなくては、戦力となり得ない一年生を相手にするはずも無い。
だけど、そんな心配は余計だった。
「いつからおまえが質問できる立場になった?」
「……口を挟むなよ——覇天道。いくら君だってボクの間合いで横になってるプープラくんを無傷で救い出すのは不可能だ。死なせたくないだろ? 未来ある後輩を」
どこまでも小癪な男だ。
このままでは贓物喰いの思惑通りになってしまう。どうする? と自問したルノスは、不自然なまでにロイマスが冷静な様子なのを捉えた。
「未来ある新入生を見捨てるつもりはない。だが、おまえの意のままに動いていらぬ死者を増やすのは避けたい」
「覇天道、やはり君は賢明な魔法使いだと思っ——」
「殺すといい」
「——は?」
「聞こえなかったか? 殺すといい。そう言った」
何を宣っているんだ
「……見捨てるつもりはないんだろ? ボクは今、君がプープラ君を見殺しにするって言ったような気がしたけど」
「どうした? 早く殺せ————実行した時がおまえの最期だ」
「………………」
「このおれと殺し合いたいのだろう? 構わないさ。おまえがそこの新入生を殺した瞬間が試合開始の合図だ」
つまりロイマスはこう言いたいのだ。
『そこの新入生を殺した瞬間おまえを殺す』と。
そうなれば贓物喰いはその魔道を終えることになる。一時の感情に振り回された結果、そうなるのだ。きっと今頃、ルーデウッドは内心でロイマスを罵倒し続けているだろう。
「…………いや、今は気が乗らない。返しておくよ」
「それは残念だ。ではおれ達も早々に引き下がるとしよう」
二人の会話が終わった、そう判断したルノスは駆け足でスティンを回収した。
「大丈夫か?」
「その、ごめん。迷惑かけて……」
「いいんだ。それよりも早く撤退するぞ」
微笑みながら見守っている贓物喰いを一瞥して、ロイマスまで戻ると彼は「寮まで送ろう」とだけ言って隠し部屋から退散していったのだった。
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