入学編—魔法道具実験4
その後もスティンは
結局、
「仕方がありませんわよ。これでも成長はしていますわ」
「……そう、かな?」
「オレも同意見だ。別に親しいから無理に評価しているってことじゃない。客観的な意見で述べているし、君はもっと自信をもってもいいさ」
スティンの前にはボロボロの枝が一本。葉っぱを生やすことに成功はしていたが、虫食いのように穴が空いていたり変色してしまったりしていた。
残念ながら失敗である。
しかしながら、最初に比べれば遥かに良い。完全に枯れ切った時とは見違えていた。
「じゃ、じゃあ行ってくる……!」
さながら戦場に行く兵士の如き決死の覚悟。歩き出したスティンは資料に目を通すベルトリアを見た瞬間に速度を落としたが、それでも前には進んでいた。
(スティンは勤勉だ。今はダメでも……結局ああいう奴が将来有望になる)
だからここで酷評されてもそれは彼にとって成長の糧となるのだ。
◆
やがて少年はベルトリアの前に立った。気づいてはいるだろうが、教授から反応を示すことはない。
ふぅ、と軽く息を吐くと意中の人に告白するシーンのように
「る、ルージュ教授! 評価をお願いします!」
もう魔法道具実験が終わる寸前だというのに、まだ居たのか。と周りの
それとは関係ないだろうが、ベルトリアも視線を上げる。
「こ、これが僕の——」
「…………」
「——ッ!」
途中で言葉を止めたのは教授に強く睨まれたからだった。まるで底なしの洞窟に落とされるような幻を見て、スティンの鼓動が早まった。
外に聞こえるくらい大きな鼓動は少しずつ、少しずつ……けれども着実に彼の呼吸を乱している。
そんな少年には目もくれずにベルトリアは
「なんだ、このゴミは?」
「————」
「このような醜い愚作をなぜ持ってきた? 我への侮辱か? それとも我が貴様を特別扱いするとでも思ったか?」
「————」
当然ながらアドバイスなんてない。
「不出来だ。あまりにも不出来だ。貴様と同じ席に座るあの二人の出来は
「————ご、ごめ——」
「謝罪は必要ない。貴様のような下流からの謝意に価値などないのだ」
「…………」
全くもって覇気のない後ろ姿に
否、堪えられずに漏らしていた。小さな声だが、沈黙しきった魔法実験室ではよく届く声だ。もちろん、スティンの耳にも入ってしまった。
「…………」
ギュっと握られる拳。荒く息を吐く少年。やがて彼の目からは大粒の涙が流れて——
「なぜ泣いている? 泣きたいのは我の方だ。数多の優秀な生徒を輩出してきた我が校に、まさかこのような愚者が在籍していたなど……はァ。先が心配だ」
ベルトリアが生徒の涙に価値を見出しているはずもなかった。あるのは困惑。なぜ涙を流すのか? それが彼には分からないのだ。
「いつまで我の机にこの愚作を置いているつもりだ。早急にゴミ箱へ捨てたまえ。あまりにも不愉快で我が——」
と、そこまで口にした教授は何かに気付いたのか口を閉ざした。
前触れもなく立ち上がると、傍観していた生徒達に言う。
「時間だ。各自戻るといい」
そう言葉を残して掻き消えるベルトリア。残されたスティンは立ち尽くし、出口に行く途中の
実験室からスティン、ルノス、ローズリアの三名以外が居なくなると小柄な少年が袖で目尻を拭った。
「どうだった? ルージュ教授の誠に誠にありがたいお言葉は?」
「わかんないよ……ほとんど罵倒されてただけだし……。でも」
「でも?」
一拍置いて、
「その通りだとも思った。僕は二人に比べて何もかもが下手だし……不得意だ。だから——」
努力していつか追いつくよ、二人に。と赤くなった目元で歪に笑った。
(やっぱり口を出さなかったのは正解だった。スティンは強い。少し危ういがそれはこちらで対応する)
これが、スティン・プープラが失踪する少し前の会話だった。
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