入学編—純白の皇女2
背後の気配は高貴なものだ。到底己などとは生まれた育ちも全く違うと思い知らされる。
そして、容姿だけでは飽き足らず魔法界の神様は彼女に笛のように綺麗な声すらも与えたらしい。腹が立つくらいに理不尽だ。
「君を見ていたのは認める。不愉快だったのなら謝罪もしよう」
「いいえ、その必要はないわ」
…………。
沈黙する空間。いや、図書館のあるべき姿なのは確かだが、この瞬間だけは騒がしくあってほしかった。
「それで、私を見ていたのは何故かしら?」
「君に見惚れていたと言えば信じるか?」
「…………そう思っておきましょう」
渋々頷いた彼女の瞳には不満の言葉が浮いていたが、これ以上追及する気も無さそうだ。
「ところで先から手に取ってないけど何の本を探しているのかしら?」
「……気になるのか? 見ず知らずの男の探し物が」
「ええ、ダメかしら?」
「いいや。だけどオレとしては名前も知らない、それも
それともルノスに拘る何かが有るのだろうか? と、彼女の制服に注目してみるとある程度納得がいった。
(オレと同じ候補生……なるほど。魔王候補の制服を確認したから興味が湧いたのか)
まあそういう点ならルノスとて同じだ。七魔候補には興味がある。
「失礼したわ。私はフクシアよ。フクシア・マギア・インペラートル。以後お見知りおきを」
「なんだって?」
「フクシア・マギ————」
「聞こえなかったって意味じゃない」
そんなアホみたいな話があるか?
と、考えるのは己が正常な証だろう。何せインペラートルの名は、魔法皇族のものと記憶している。
つまり、自身の前にいる彼女は……
「魔法皇族……なのか?」
「そうよ。貴方が気づかないのは仕方ないわ。私の容姿は公式に発表されていないから」
(そんな事はどうでも良い。大事なのは彼女が魔法皇族である事と、七魔候補生である事だ)
今代の魔王候補には本物の魔王がいる。
そう目されたルノスの時代。もちろん、その言葉は突拍子もなく広まったってわけじゃない。しっかりとした根拠があり、そうなった原因が居る。
それこそがフクシアだったのだ。
「待て、頭が付いていかない。魔法皇族? 君が? ……一応確認しておくが、あの噂は本当か?」
「あの噂? 噂なんて私には沢山あるから何のことだか……」
「茶化すな。だけどその様子なら事実らしいな、皇女殿下」
「フクシアでいいわよ。私の魔王様」
「だから茶化すなって」
しかしあの噂は本当だった。
今代の魔王候補には本物の魔王がいる。というのはフクシアが生まれてすぐに伝わった言葉だ。
「これを見ればすべてわかるわ」
彼女はそう言うと、ゴソゴソと制服の下を弄りだす。次の瞬間にはその制服を捲り出し、贅肉のない白く艶やかな太腿を惜しげもなく曝け出した。
「ほら」と内太腿にある赤いマークを指差すフクシア。
(なんか……アレだな。官能的というか、エロティックというか……図書館でいけない事をしている背徳感が————ッ)
「何考えているのよ……!」
「
ボールのように強く脛を蹴られたルノスは片足を持つようにしてポンポンと痛みによるジャンプを繰り返した。そしてそれを冷たく眺めるフクシア。その頃には曝け出した脚は制服に隠されていた。
(ちょっと考えいただけなんだが……なんで分かるんだよ。そりゃあオレだって健全な男の子だしちょっとくらい興奮したって……)
「…………」
ギロリと効果音が加えられそうな鋭い目が、ルノスの言い訳を止めた。
しかし今回悪いのは彼だ。ここは手を引いて本題に戻った方が賢明だろう。
「ま、まあとにかく。本当なのは分かった。実際に天満月の姫魔女のマークは赤かったしな」
「そう、信じてくれて嬉しいわ……例えば貴方が私の体を穢らわしい目で、今にも舐めそうな勢いで見ていたとしても、視姦していたとしても」
「それは言い過ぎ…………いやほんとすみませんでした」
いつの間にか立場は逆転していた。こうなってしまってはルノスが頭を上げることは出来まい。
しかし収穫もあった。フクシアの太腿に刻まれた赤いマーク。魔王候補だからこそ、あれが本物であると見抜けた。
不完全な七魔候補のマークはルノスと同じで本来は黒い。そんな中、魔王と七曜の大魔女が死んで以来、はじめて完全たる赤いマークで生まれたが皇女だった——それが意味するもの————即ち将来の確定である。
彼女は——フクシア・マギア・インペラートルは第二の天満月の姫魔女である事が、生まれながらに決まっていたのだ。
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