入学編—格闘魔法訓練5
先に手合わせを行ったスティンとはまるで別次元の速度で走り出したヴォルゼイオス。彼が早いのか、あるいはスティンが遅いのか。当然答えは前者であり、魔法貴族としての教養をこの一戦で遺憾無く発揮するつもりらしい。
それを「やり過ぎ」などとは言わない。しかし仮にも由緒正しい魔法貴族サマだ。ただの一般魔法使いであるルノス相手に全力で叩き潰しにかかるのは如何なものか。
(もっとも彼にそんな事を考える余裕は無さそうだ)
よほどルノスは嫌われていると見える。
何かをした訳ではないが——否、魔王候補である時点で己は
「こんな時によそ見とは——平民の魔王候補は余裕だな!」
などと考えている間に、魔法貴族の悪童はその刃を光らせていた。しかし幾ら鋭い太刀筋であろうと、平民の彼もまた魔法剣の扱いには慣れている。
受け流すようにいなすと、平然と告げた。
「君には今のオレが余裕に見えたか……なかなかどうして、オレの
「——ッ! 茶化すな!!」
ブン! と真っ直ぐに綺麗なものから明らかに揺れた太刀筋を一歩後退して回避すると、ルノスはヴォルゼイオスという貴族の思考をある程度理解してきた。
それと同時に思うのだ。
(決して口だけの坊ちゃんではない。努力の跡だってオレにはわかった……まあ口の方は弱そうだが彼らからすれば許容範囲だろう)
もしも呪文を解禁されていればどうなっていただろうか? ヴォルゼイオスとルノスの双方がドナテロにそう申し込んでいたら、きっとあの教授は喜んで解禁してくれる。
しかしルノスにその気はなく、だからこそウルガータ家の少年も剣だけで黙認した。
「君は魔法が得意か? それとも剣術の方が自信を持てるかな?」
「そんなの——魔法が得意に決まっているだろう!! 俺達は魔法使いだ! 剣など所詮、保険の保険でしかない」
その返答はこちらも予想していた。あとは彼の性格を考慮してから、言い返すだけだ。
相手だけに聞こえ尚且つ、周りに聞こえないような最小の声を、出来るだけ冷酷に吐き出した。
「そうか……それは良かった。もし君が剣術を十八番としているのなら————あまりに粗末で失望するところだったよ」
「——ッ貴様!」
怒りに身を任せてルノスへ突撃する茶髪の少年。やはり身に叩き込まれた姿勢や動きは、今程度の感情の波では崩れていない。
しかし、冷静な判断能力や一本の線のような剣術は絡まって解けない紐のように変貌した。
(崩せたな……あとは適当に腹でも打てばいいか)
無駄な箇所に力んだ筋肉を使用している彼の剣は単純な力こそあれど、弾くに苦労はしない。
振り下ろされた剣を横にずれて回避し、剣を持っている方の手首を蹴り上げる。すると、力まれていた力の檻は一瞬の間だけその九割以上が無くなり——。
「っ——!」
己の魔法剣で持って、中空へ弾き飛ばした。
ルノスは相手の致命的な隙を逃さない。
(終わったか……出来るだけ剣術を披露しない方針で進めたが——今回の手はオレから見ても悪人じみていたな)
シーン。と静まり返る訓練場。ヴォルゼイオスを含んだ場の生徒達は状況に追い付けていないらしい。まあそのほとんどが、ルノスの敗北を予想してヴォルゼイオスの勝利を謳っていただろうからある意味必然の結果だった。魔法貴族なのだから平民相手に負けるなどとは誰も思わないのは当然なのだ。
しかし結果は現実を教えてくれる。
ルノスの手には魔法剣が、ウルガータ家の悪童の手には何も無い。寂しそうに彼の背後に一本の剣が落ちているのみだった。
そしてこの試合はあくまでも剣に重きを置いており、呪文などの介入は一切ない。戦場において魔法剣を手放すことは魔法使いにしても剣士にしても敗北と同意なのだから、即ち——ヴォルゼイオスの敗北を意味していた。
「マジかよ……一応言っておくが、殺しても構わないぞ?」
「必要ありません。無闇な殺生は好まないので」
「そうか、新入生。名乗れ」
「ルノス・スパーダ。正真正銘、一般的な魔法使いを目指すただの子供です」
魔王候補が何言ってんだか、というドナテロの内心はさて置き。
果たしてどちらが勝者なのかなんて分かりきっていても一応、審判として宣言しなければならない。
「勝者、
数秒停止した時間を経て、地震のような歓声が
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