入学編—格闘魔法訓練2


「さて、もうそろそろ時間です。行きましょうか」


 朝食をすませた彼らは席を立った。

 向かう先は訓練場。ウルテイオで初めての学習——格闘魔法訓練を受けるためだ。


「僕……大丈夫かな? けっこう動くのは苦手なんだ」

「少なくとも今日は問題ないだろう。訓練初日から激しく動くとは考えにくい」

わたくしも同意ですわ。他の講義にしても、恐らく最初の方は軽い内容でしょう」


 そんな会話を交わしていると、遂に訓練場に到着した。

 三人で中に入り——


「あれ? もしかして一番乗りかな?」


 スティンの公言の通り、訓練場にはまだ誰もいなかった。しかしそれは、決して彼らが他の者よりも早く行動していたから……という訳ではない。

 ウルテイオは大迷宮と学校の合併で創立された。大迷宮たるこの学校では部屋が勝手に動いたり、突如地下への階段が出たり、本来ない所に階段があったりと文字通りのビックリ学校なのだ。要は——多くの生徒が彼らの意思とは無関係に訓練場に辿り着けていない。


(分かっているつもりだったが難儀なものだ……ウルテイオは)


「運が良かったな。この学校の教授達は遅刻している生徒を待たない」

「仕方ありませんわ。いちいち待っていては、時間が足りませんもの」


 にしても本当に誰もこない。時間的には格闘魔法訓練の教授が来ていても納得できる頃合い。


(このままだったらオレ達だけになるぞ……)


 まあそれも悪くない。しかし、他の生徒の実力も把握しておきたいのも本音。

 特に、月の寮ルナところは。


「そうでしたわ、スティン」

「どうしたの?」


 言い忘れていたようにローズリアが口を開いた。


「訓練や講義は基本的に他の寮との合同になりますの。わたくし日の寮アテスの相手は——月の寮ルナですから……貴方には一応報告しておいた方が良いでしょう」

「…………うん。大丈夫。ありがとう、気を遣ってくれて」

「良いんですのよ。仲間なんですから」


 強がってはいたが、スティンの表情は強張っている。それもそうだ、つい昨日暴力を振るわれていたのだから。

 月の寮ルナ全員に責任は当然ながら無い——しかし、スティンからすれば今の月の寮ルナは敵としか思えていないのだ。


「心配しなくても、何かあればオレが守るさ。なに、落ち込む必要はない。君は魔法界に来たばかりだろう?」


 気長に魔道を進めばいいさ。そう付け加えて、ルノスは微笑む。

 するとまん丸く瞳を開いた銀髪の少女がスティンに詰め寄る。


「まさか貴方、人間界から来ましたの?」

「え? う、うん……やっぱり魔法界こっちの人達からしたらやだかな?」


 少し申し訳なさそうに彼の視線が下がった。慌ててローズリアが答える。


「い、いえ……そう見えたのなら謝罪しますわ。ただ、珍しいので」

「そう、かな?」


 どこか取り繕うような彼女に訝しげな目線を送ったスティン。


(これは止めておいた方がよさそうだな)


「ところでスティンは魔法剣の扱いになれているのか?」

「——へ? いいや、全然だよ」

「そうか……だったら予め説明を——する必要は無さそうだな」


 ルノスは入り口からチラリと見えた大柄な男を確認した。間違いなく、彼こそが格闘魔法訓練の教授だろう。

 もっと注視してみれば、ぞろぞろと多数の生徒達も教授について来ていた。


 そちらに気を取られているスティンを他所に、ローズリアが小さく謝罪した。


「ごめんなさいですわ、ルノスさん」

「別に構わないさ。魔法貴族であっても……いいやむしろ魔法貴族だからこそ、人間界の住民との接し方は難しいだろう」

「ええ、わたくし初めてお会いしましたもの」


 大きく頷いた彼女。

 ほぼ同じタイミングで教授が怒鳴った。


「これより格闘魔法訓練を開始する! 各自、寮ごとに並んで座れ!」

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