入学編—格闘魔法訓練1
「スティン、スティン起きろ」
「ん……むぅ……」
「時間だぞ。またご飯はいらないのか?」
「——っいる!」
その瞬間、少年が布団を跳ね除けて立った。
「おはよう」
「あ、おはようルノス君」
そう言ったスティンの顔は酷いものだった。目は半端に開いているし、口元には唾液が付着している。
「まずは顔でも洗ってきたらどうだ?」
「そうする……」
顔を洗いに動いた彼を確認してから、自分の装いもチェックする。
制服に乱れはない。寝癖もないし、魔法剣だって腰にある。
(あとはスティン待ちだな)
「ふぅースッキリした。ルノス君は朝が強いの? 随分早いけど……」
「強くはないと思うが……この時間だと大抵皆んな起床しているはずだ」
もう8時を過ぎている。大体9時にはそれぞれの場所に移動し終わっている必要があるし、むしろこの時間は遅いだろう。
「そんなことより、ほら。昨日だって満足に食べられなかったんだ。朝までは御免だろ?」
「あっ! そうだ待ちに待った朝食だった!?」
バタンドタン! とあちこちを体にぶつけたり転んだりと忙しそうなスティンを見終わったのは、それから3分後だった。
食堂へ行くと、すでに多くの生徒達で溢れていた。
同じ寮での交流、別の寮同士での交流、そんな姿が視界に入るが現在ルノスが探しているのは別の人間だった。
「うわ〜やっぱり多いねウルテイオは。どこに座るの?」
「そうだな——」
手前の席はほとんど埋まってる。さて、大変だ——とその時。
「ルノスさん。良かったらこちらはどうぞ」
名前を呼ぶ声の方向を見ると、そこには
「おはようローズリア」
「ごきげんようルノスさん……おや、其方の方は?」
席まで向かってから座ると彼女が言った。
しかしローズリア自身も予想はできているようだった。
「紹介する。オレの相方のスティン・プープラだ」
「お、おはようございます! こんな小さい男ですがどうかよろし——」
「ふふっ、そんなに畏まらなくてもいいですわ。
「ま、魔法貴族……」
(どうやらスティンは女性が苦手なのか? いや、ただ緊張しているだけなのだろうが……)
「ペクシー家は信頼できる貴族だ。普段と同じに過ごしていいよ」
「う、うん。わかった」
「ではこれからよろしくお願いしますわ、スティンさん」
「よろしく……お願いします」
震えながら握手した二人。まあ震えているのはスティンだけだが。
(すぐに慣れるだろうし、気は使わなくていいか)
なんて考えていると、ローズリアがこちらを向いた。
「ところで遅かったですわね。お二人は朝が苦手でしたか?」
「ん? ……まあ、そんな感じだよ。君は強そうだね」
「慣れているだけですわ」
紅茶を飲みながらそう答える彼女は、やはり気品がある。
(それに比べてオレ達は……酷いものだ)
隣を見ればコーンスープとパンをガブガブ食べる少年がいた。
はぁ、と息を吐いて——今度はルノスが違和感を問うた。
「ローズリア、君の相方は?」
通常、初日を終えた次の日は相方と過ごすのが鉄板だ。7年間も共にいるのだから一番親交を深めるべきだろう。
「昨日から帰ってきてませんの。部屋に荷物はあったのですが」
「それは……心配だな」
そんな会話に驚いてか、隣でスティンがパンを詰まらせた。
「大丈夫ですの? はい、水ですわ」
渡された水を飲み干して、少年は口を開く。
「んっ……! プハッ! ありがとうペクシーさん」
「ローズリアでいいですわ。そちらの方が呼び慣れております」
「う、うん。わかったよ」
彼も少し慣れてきたようだ。先程よりも平常に戻っている。
「帰ってこない、といえばスティンも同じだったからな」
「そうでしたの?」
「ああ。実は昨日————」
こうしてルノスは昨日の一件を話し——スティンと共にローズリアに怒られた。
(まあ夜に外に出たオレも、振り切ってでも逃げなかったスティンも悪いのは事実だが……)
彼女の新たな一面を理解した。ローズリアは怒るとそこそこ怖いタイプだ。
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