入学編—相方5
スティンとの邂逅を果たして、すぐにルノスが本題に入った。
「ところでスティン。君の寮室を聞いてもいいか?」
「寮室? えっと……火を吹いてる赤い蜥蜴がマークなんだけど……」
それを聞いて、内心でホッとする。
今のマークはルノスの部屋と全く同じものだったからだ。つまり、スティン・プープラが相方ということになる。
「良かったよ。ずっと帰っこなかったから最悪の事態も想定していたんだ」
「え? もしかしてルノス君って……」
「ああ。君とは長い付き合いになるだろうね」
するとスティンは嬉しそうに笑う。
「やった! 正直会うのが怖かったんだ」
(初日から虐められてたらそう思うのも仕方ない、か)
「まあ話は後にして、とりあえず部屋に戻ろう。ここは危険だ」
「そうだね、わかった」
「さっきは暗くてわかりづらかったけど、ルノス君は魔王候補生だったんだね」
「一応な。でもだからといって謙遜は必要ないぞ。魔法貴族だろうが魔王候補だろうが、ウルテイオでは一生徒に過ぎないから」
制服を見たスティンは驚愕したようだ。それもそのはず。相方が魔王候補などウルテイオの卒業生に聞き回ってもそう聞く話じゃない。
「ところでお腹は空いているかい?」
「……そういえば何も食べてなかった……」
空腹を思い出したように、スティンの腹が鳴る。
苦笑いを浮かべながら乾パンを差し出すと、彼は甘いお菓子に誘惑された子供のように寄ってきた。
「あ、ありがとうルノス君」
「いや、むしろこんなので悪いな。だけど時間も時間だ。今から食堂に行くのは危険だからね」
「危険……? そっか、
「その通りだが——君は知らないのか?」
うーん、と微妙に首を傾げる少年。乾パンを口に詰めながら少し考える素振りを見せると、言う。
「実は僕、人間界出身なんだ。これでも魔法界については調べてきたつもりだったんだけど……」
「——人間界!? そうか……そうだったのか」
確かにそれでは仕方がない。ではあの噴水で聞こえた「
(オレの想像よりも弱い人間では無いのかもしれないな)
「いろいろ大変だったろう、ここまで来るのに」
「うん。でもいいんだ。なにしろ僕は親に捨てられた身だしね。拾ってくれたウルテイオの人達には感謝してる————あ、今のは気にしなくていいからね! そもそも親の顔なんて覚えてないくらい小さい時の記憶だし」
「…………」
魔法界に住む人間が、人間界に住むことはない。相性があるのだ。
きっとスティンの記憶は螺旋のようにぐるぐるだ。そうなった理由もルノスには分かるし、だからと言って事実を伝えるつもりはない。
幾ら矛盾した記憶を持っていようと本人は違和感に気づかないのだからそれでいい。
————何より魔法界のために。
「そうか。ならオレも教え甲斐がありそうだ。不明な事があれば迷わずに聞いてくれ、分かる範囲で教える」
「本当!? ありがとうルノス君、君が相棒で良かったよ!」
「それは光栄だ」
まあしかし、今日は寝るべきだろう。初日から夜更かしも悪くないが、スティンの方は疲労が酷そうだ。
(自分では気づいてなさそうだけど……)
「乾パンを食べ終わったら寝ようか」
「えっ……教えてよ呪文とか!」
「そんなに焦らなくても7年あるんだ。今日は君だって色んな意味で疲れただろ?」
「……まあ、うん」
素直なのは彼の美点だ。結局こういう人間が偉大な魔法使いへと成長する。
その後、二人は軽く話してから消灯した。
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