入学編—相方3


 夕陽が沈みだした頃、ローズリアと別れたルノスは自身が所属する日の寮アテスの部屋に居た。

 ウルテイオは二人部屋がそれぞれの寮にあり、彼もまた今日から七年間の苦楽を共にする仲間と共に暮らす事になる。


 しかし、


(来る気配が全くない。自由時間だとしても、やる事なんて今はまだないだろうし)


 不思議だ。何処かに見て回っているのだろうか? あるいは……


「殺されたかな?」


 その可能性も捨てられない。相方が死んだ場合、その部屋は一人だけのものとなる。一人の時間が増えるのは楽でいいのかもしれないが、一度も会話せずに離れるのもそれはそれで寂しい気がした。


(まあ、もう少し待ってみるか。死亡と断定するには早すぎる)


 


 2時間後。


「おかしい。あまりにも遅いぞ」


 時刻は21時。相方は未だ帰ってこない。この時間になると厄介な先輩方も迷宮学校を徘徊している。もしかしたら邂逅だってするかもしれないのだ。

 どうする? と冷静に思考する。


(探しに行くか? しかし顔すらわからないぞ? それに運が悪ければ死ぬ……よくても実験動物モルモットが関の山か)


 コチラにも事情がある。本気で先輩らと争うなど御免だった。

 だが、はっきり言えば相方が居なくなるのも避けたい。学年が上がっていけば兎も角、今は——。


「はぁ。仕方ない——行こう」


 夜の校内を歩くなど最悪だ。

 しかしまだ見ぬ相方を助けないわけにもいかなかった。






 ルノスが部屋を出た一方。校門近くに配置されている噴水で、ビクビクと怯えている少年——スティン・プープラは内心で吐き捨てる。


(なんで僕がこんな目に……)


「おい、お前日の寮アテスだろ?」

「そ、そうだけど……」

「『そうだけど』? 違うだろッ!? 『そうですけど』だ!」

「は、はい! ごめんなさい……!」


 別に何かしたってことはない。敢えて言うなら、ウルテイオを見て回っていた。

 そんなスティンは、銀を基調とした制服を着用している生徒——月の寮ルナ生に話しかけられて、今に至っていた。


 もっと追求するのなら、このような流れは今日で六度目だった。だから、この後の展開もある程度予想できる。


「やっぱり日の寮アテスらしいな……情けねぇ」

「ギャハハハ! 言い過ぎだろ。コイツだって好きで日の寮アテスになった訳じゃねぇ」


 二人の男の標的にされた彼は弱々しく震えていたが————たった今吐かれた言葉を耳に入れた瞬間、何も考えずに叫んでしまった。


日の寮アテスを馬鹿にするな!!」

「あぁん? んだよ、文句あんのかよ。子鹿みたいに震えてる日の寮アテス生ごときが!」

「ぐ——ッ!」


 自分よりも弱い人間に楯突かれるのが気に食わないのだろう。苛立った様子でスティンの髪を掴み上げる月の寮ルナの生徒。


「ルナに代わって俺達がテメェを躾けてやるよ」

「天満月の姫魔女は偉大な魔法使いだった……少なくとも君みたいな事はしない。そんな君が——月の寮ルナを語るな!!」

「ッテメェ……!」


 ヒートアップした両者。


「なぁミズズ、この生意気な日の寮アテス殺さないか?」

「……ああ。コイツはゴミの分際で月の寮ルナを語った」


 ミズズと呼ばれた生徒が携えている魔法剣を引き抜く。憤怒に染まった表情は鬼のようだった。


「——ッ!」


 まずいっ! スティンがそう思った頃には既に、ミズズは剣を大きく振りかざす体勢に移っている。しかも回避したとして、その背後にはもう一人の月の寮ルナ生がいる。彼も同様に魔法剣を抜いていた。


「恨むなら、酷く醜い日の寮アテスに所属させたウルテイオにするんだな」

「…………」


 苦虫を噛み潰したようなスティンを嘲笑ってから、ミズズは魔法剣を力一杯振り下ろした。

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