入学編—相方2 


 ローズリアが行きたがっていた宝館ほうかんには徒歩10分ほどで到着した。

 外観は古びた神殿に似ており、神聖な雰囲気が醸し出していた。


 しかしながら宝館に保存されている物が物。警備体制はやり過ぎなくらいだった。


「ああも土人形ゴーレムが多いと、疾しい事がなくても緊張するな」

「そうですわね。ですが基本的に彼らは動きませんし無視して良いでしょう」


 その通りだった。まず宝館の扉を挟むように設置されている二体、それから中には生徒達を挟むように壁側に幾つもの土人形ゴーレムが向かい合うように設置されている。おまけに問題が発生した場合は教授達に連絡がいくように設定されており、抜け目はない。

 しかし神聖な宝館を守るためとはいえ、魔法生物を徘徊させるのは騒がしい。と、いうことで採用されたのが一定の状況または命令を下すことでしか動かない土人形ゴーレムだったのだ。


「君の目的は宝館なのか? それとも中に存在する指輪か?」

「強いて言えばどちらもですが……わたくし的にはソロモンの指輪の方が興味深いですわね」


(オレも指輪の方は拝んでみたいな)


 まあ世界最高のお宝を見てみたいと思うのは不自然ではないはずだ。

 宝館内部へ入ると、赤い布が長く前方の奥まで敷かれていた。所謂バージンロードのようなそれの先にはガラスケースに保管されている輝く指輪が一つ。女性の手を見立てて作られた透明な薬指に嵌め込まれていた。


「凄い、凄いですわ! これがソロモンの指輪……なんて美しいんですの!」


(なんか……キャラが変わったか?)


 ローズリアは新品の玩具を買ってもらった子供のようだった。別に馬鹿にしている訳ではない。むしろ、コチラからすれば彼女にもそういう面があって安心できる。

 今のところの彼女はあまりにも大人すぎる。だから目を輝かせるローズリアを眺めていると、ちゃんと自分と同年代の女の子なのだと納得できた。


 そんな子を見守る親の視線に気付いたのか、彼女は白い肌を朱色に染めて咳払いを一回。


「ご、ごほん。淑女として恥ずべき姿を失礼しました」

「いや。君が興奮するのだって可笑しな話じゃないだろう?」


 ソロモンの指輪は魔王が七曜の大魔女の一人——天満月あまみつつきの姫魔女・ルナに与えた魔法の道具だ。72体の悪霊を操れるらしいが今となっては実際にお目にかかった者はほぼ居らず、使用できる者も居ない。

 既に力は枯れ果てたか、それとも真に主人あるじと認めた者にしか使えないのか。どちらにしろ、国宝よりも貴重な指輪なのには違いない。


「その昔、魔王はルナにこの指輪を戦場で嵌めてあげたらしいのですわ。お前が最後の妻だって……ロマンチックですが、内容は酷いですわよね。七曜の大魔女は全員が傾国の美女だったと聞きます」

「ああ。しかも皆、嫉妬深いともされている。もっとも600年経過した今では事実確認などできないが」

「そうでもありませんわよ?」

「ん?」


 はて、何か方法があるのか。と考えたルノスはすぐに思い当たる。

 

(そうだったな。なんで忘れていたのだろうか)


「一部の教授や学長は知っているか。あの方々も600年前の魔王戦争の生き残りだしな」

「ええ。ですがウルテイオの教授方は皆さん秘密主義ですからね。話してくれるとは思えません」


 血に塗れた魔王戦争の記憶なんてうんざりだろう。特に学長なんて魔王の座を狙って参加していた内の一人なのだから、他の教授よりもずっと血を見てきたはずだ。


(いや——魔法使いに染まっているだろうし、血なんて気にしてもないか……)


「さて、もうそろそろ出ましょうか。わたくしはもう満足ですけれど、貴方はどうですの?」

「オレも満足だけど……」

「違いますわ。そうじゃなくて行きたい場所、ですの」

「——あ」


(完全に忘れていた。何か適当な場所を——)


 などと模索していたルノスをまたしても見兼ねた彼女は薄く微笑みながら言う。


「じゃあ散歩でもしましょう。ウルテイオを散策するのも立派な勉強ですわ」

「そう言ってもらえるなら助かる」


 姉と弟。

 まるでそんな二人が、宝館を出たのは今の会話からすぐの事だった。

 

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