入学編—相方1
席に着いた二人は、早速食べ物を口に入れた。ローズリアは、さすが魔法貴族の令嬢だけあって一つ一つの動作が上品だった。
こうして己と比べてみると自分がいかに礼儀を習っていない平民なのか思い知らされる。
「ところでローズリア。今日の日程はわかるか?」
「今日の、ですか? それはもちろん。ウルテイオは毎年入学式が終わった後は自由に校内を探索できますから」
(そうだったのか。細かいところまでは教えてもらって無かったからな……教養が高い魔法貴族であるローズリアと知り合えたのは僥倖だった)
「自由? しかしウルテイオは——」
「ええ、この学校は大迷宮と合併していますわ。故に行方不明者は後を絶ちません。しかしジンベルンゲン学長のお言葉を考慮すれば……」
————自業自得ってやつだ。
あまり調子に乗ってウルテイオを歩き回っていれば学校に食われる。入学早々死ぬのなんて御免だ。
ウルテイオ魔法大学校が他の魔法学校と大きく違うのは地理の大きさや地獄のような無法地帯——そして大迷宮との合併である。
つまりウルテイオは学校である以前に迷宮なのだ。
だったらなんだ? と思われがちだが、これは本来ならあり得ない事だった。
例えば、深夜にトイレに行った寮の相方が永遠に帰ってこなかったり、朝には一階に学長室があったのに昼には二階や地下にあった。なんて話もウルテイオでは珍しくない。
少し油断しただけで簡単に命をこぼすのが常識なのが魔法大学校なのだ。
「そうか。なら今日は一緒に見て回らないか? 一人だと危険だし……まあ君に先約者がいるのならオレも引き下がるが……」
「もちろん構いませんわ。一人だと危ないのは確かですし……特に
(それは言えてる。とはいえ、オレ達よりも先に魔道を進む先輩との殺し合いは避けたいな)
勝てない、とまでは断言しないものの、勝率はかなり低い。貴族であるローズリアもそうだが、魔王候補も中々に大変だ。
もっともルノスの心配など馬鹿らしく感じる程度にはローズリアは楽しみそうにしていた。
長い銀髪を指でクルクルと弄んでいるくらいだ。
「さて、
「オレももう良いかな。ま、美味しいからもっと食べれそうだけど……」
「ふふっ。太ってしまいますわよ?」
本当は満腹だったが、冗談めかして言ってみた。すると彼女はこれまた上品に笑った。
(勝ち負けじゃないのは当然だが、それでも負けた気分だ)
品性や言葉遣いが育ちの良さを教えてくれる。まさしく二人の会話は貴族と平民の図であった。
「それじゃあ、どこに行こうか?」
「そうですわね……
そう言われても。
と、思いつつ考えていみる。
……。
…………。
………………。
————あれ? あれれ?
(何もない……だと!?)
そんな馬鹿な話あるか。天下のウルテイオ様だぞ? 何かあるはずだ、何か……。
そんなルノスを見兼ねたのか、ローズリアが言う。
「もし無いのでしたら歩きながら考えれば良いですわ。それにウルテイオは一日かけても歩き回れない程広大ですし、散歩するだけでも楽しめそうです」
「気を遣わせたな。悪い……」
バツが悪そうなルノス。しかしここでもまた彼女に救われた。
「良いんですのよ。むしろ、貴方のような殿方も居るのだと勉強になりました」
「は、ははは……」
(本当に申し訳ない。こんなだからオマエはモテないんだルノス・スパーダ)
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