入学編—入学式3
バスから降りると、とてつもない解放感を味わった。今日は暑くはないはずだったが、入学者が多いため、自然とバスの中もぎゅうぎゅうになった。
(暑い……)
ふぅ〜と息を吐きながら歩くと違和感に気づいた。
(多数の視線……ああ、そうか)
舐めるような視線は不愉快だったが、すぐに納得した。
つまるところ、自分が魔王候補生だからだろう。他の制服と違い、魔王の証が刻まれているのだからすぐにバレるのだ。
「なぜあんな奴が」「本物の魔王候補だ」「俺もいつかなる」などなど。各々の思惑はわからぬが、嫉妬や好奇心が大方を占めていると予想できる。
まあ、気にする必要はない。
(時期に魔王候補にも慣れるだろう)
何せ、魔王候補生はルノスだけではない。他の入学者の中にも多数いるだろうし、有名な先輩方にだって居るのだからこの視線も今だけだ。
気にせずに歩いていると、校門が見えて来た。そこまでは昨日に来た時と同じだが、違う点が多数——
「マジかよ……」
近くを歩く男子が呟く。
同時にルノスも思った。
(世界最大の学校なだけはあるな)
校門には昨日までは無かった多くの装飾を施されており、わずかに見える校門の奥には巨大な生物——
徐々に見える奥だが、遂に門をくぐると——
「入学おめでとぉーー!
入学試験の時の花瓶が声高らかに叫んだ。その瞬間————ドッ! と巨人達が足踏みしたような轟音が楽器から鳴り響く。
それが合図だったのか、数え切れない花火が打ち上げられ呪文で「入学おめでとう!」の文字が浮かび上がった。
下に注目してみれば先輩と見られる生徒数名が魔法剣を掲げている。彼らが呪文で文字を書いているのだろう。
「ごきげんよう、ルノスさん」
「君は……ああ。おはようローズリア」
驚嘆しているとルノスに話しかける女生徒が一人。
当然知り合いなど一人しかいない。昨日、マールムの魔の手から救ってくれたローズリア・ペクシーだ。
「にしても凄いですわね。話には聞いていましたが……ここまでだとは思いませんでしたわ」
「同意見だ。迎えてくれる人間自体は少ないが魔法生物や魔法動物がここまで集まるのは珍しい」
「そうですわね。でも……彼らが奴隷のような扱いを受けているのには心が痛みます」
「…………」
「す、すみません。
「いや、他種族とはいえ君のような考え方はある意味普通なのかもしれない。むしろ、あれを見てどうも思わない方がどうかしてる」
(いや、魔法使い的だと表現すべきだろうか)
魔法動物の扱いは極めて劣悪だ。共存とは名ばかりのただの奴隷である。呪文による隷属を受けさせ、命を握る。これが魔法使いであり、今の常識だった。
しかしながら可哀想なんて感情は最初だけで、魔法使いに染まればすぐ慣れる。
————これが“当たり前”なのだと。
人間とは何とも醜い生物だ。見た目ではなく、精神の魔法動物。そう罵られても文句は言えまい。
(魔法生物ならば何とも思わないのだか……)
魔法生物は
「さて、中に進もうか」
「わかりましたわ」
鳴り止まぬ数々の音色に背を押されて、二人は校内へ進入する。ご丁寧に張り紙で案内してくれているので迷う心配は不要だった。
(やはりウルテイオ。入学者は多いな)
入学式の場所は教会堂。その広さといったら全力でボールを蹴り飛ばしても奥の壁には届かない程だった。
すでに多くの生徒達が席についている。
(人が多いところは嫌いなんだけどな……)
ルノスは文句を噛み締めて、ローズリアと共に席に座った。
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