入学編—入学式2
ローズリアと別れてから、バスで家に戻ったルノス。
時刻は夜。恐らくおじさんとおばさんは晩御飯を食べ終わった頃だろうか。
「ただいま」
「…………」
(まあそりゃあ「おかえり」なんて言ってくれないだろうな)
ため息を吐きながら家に上がると、すぐにおばさんが見えた。
しかし部屋の片付けをしているだけで、こちらには顔を向けることすらない。
「合格したから明日には家を出るよ」
「…………そう。死んだと思ってたから、お前のご飯はないわよ?」
「……別に良いよ。どうせすぐに家を出る」
やはりと言うべきか、ルノスは相当嫌われている。しかしまあほとんど接点のない子供を家に置いてくれているだけでも僥倖だった。
おばさんから離れて、今度はおじさんを探す。きっと彼は会いたくないと思っているだろうけど……最後に感謝くらいはしたかった。
「おじさん、ウルテイオに合格したよ」
「…………」
おじさんは裏庭にいた。風呂にでも入ったのか、夜風に当たっている。
彼もおばさんと同じく顔を向けることはなかった。いや、言葉の一つも投げかけてくれないのだからもっと酷いだろう。
「明日は入学式なんだ。だから荷物を纏めたらすぐに家を出るよ」
「…………」
「……今までありがとう。これでも感謝してる」
「…………」
おじさんは遂に口を開けなかったが、言いたいことは言えた。もう心残りはないし、あとは荷物を纏めるだけだ。
もっとも、その荷物すらもほとんどない。服だってウルテイオでは制服だし、嗜好品にしてもトランプくらいしかない。
(とりあえず体でも洗って、制服に着替えるか)
自分の部屋に戻ると、少しだけ感慨深くなる。
ベッドやタンスなどの最低限必要な物しか置いていない人間味の薄い部屋。唯一年頃っぽいのは魔法に関する書物と寂れた魔法剣くらいだ。
「新しい魔法剣も貰ったし、この魔法剣ともおさらばだな……」
ウルテイオから渡された物は制服と魔法剣。教科書などは全てウルテイオで共有することになっているためない。
(先ずは風呂だな)
◆
さて、準備はできた。
しかし、この制服は暑苦しい。魔王候補の制服にこんな事を言うべきではないと分かっているが、教授にでも頼んでもっと薄くしてもらうべきだった。
ウルテイオの制服は割と自由だ。注文さえしてしまえば、決まっている寮の色を弄ること以外は何でも出来ると言い切れる。
まあ自由とはいえ、だいたい皆んなの格好は決まっている。今のルノスの制服と似たようなものだ。
「おじさん、おばさん。行ってきます」
「…………」
(結局最後まで何もなしか)
多少の寂しさを感じながらも家を出るルノス。向かうのはウルテイオ行きの深夜バスだ。今の時間ならちょうどバスの中に入れるだろう。
バスに到着すると、乗る前に振り返った。
(しばらくは戻ってこない……というか戻るほど愛されていないか)
こうして山の中にポツンと立つ家を見るのも最後かもしれない。
カーテンの閉められた窓は明かりに照らされていた。今頃、あの二人は厄介な邪魔者が消えて清々しているはずだ。
喜んでダンスでも踊っているのだろうか? あるいは、祝福の晩餐でもしているかも。
————まあ、もう関係のない話だ。
(あまり考えるのはやめよう。今日くらい惰眠を貪ってもバチは当たらない)
本来ならばパーティものなのだ。
ルノスは家から視線を外すと、バスの中へ戻った。
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