入学編—試験2


 フクロウのような男が入ってきた。どうやらルノスは時間ギリギリに到着したらしい。

 

「さっそく試験を開始する。紙が渡り次第すぐに始めたまえ」


 その言葉と同時にテスト用紙が風で飛ばされたように散った。それぞれが机に自ら着地し、入学希望者達がテストに書き込んでいく。

 しかし一番後ろに座る身であるルノスには未だ渡っていない。


(一斉に始まる訳ではないのか。それに時間制限も言っていなかった)


 毎年制限時間は変更されるウルテイオ。長い年では五時間、短い年の場合だと三分だった時もあったという。

 見極める術はないが、どちらにしろ彼らに出来ることは愚直に問題を解き続ける事だけだ。


(やっときたか……他よりも少々出遅れてしまったな。急がないと)


 遂に机の上に置かれた一枚の用紙。ペンを握り、問題を読んだ。


(一問目は魔王候補とは何か詳しく説明しなさい、か)


 簡単だった。自身が他でもない魔王候補なのだから説明できない道理はない。


 そもそも魔王は今から約600年前に存在した王の事だ。魔法王、魔帝王、魔皇王、呼び名はさまざまだが、それらを統一して魔王と呼ぶ。

 そんな魔王の生まれ変わり——の可能性を秘めているのがルノスのような魔王候補である。


(次は……七魔候補について詳しく説明しなさい)


 これも簡単だった。魔王候補と七魔候補は切っても切れない縁があるのだ。


 魔王には己の身体というべき配下が七人いた。彼女達は七曜の大魔女として恐れられ、魔王と共にその生涯を終えたという。

 つまり七魔候補は史上最強の魔女の生まれ変わりである可能性を秘めたである。これらの事から魔王候補の紋様は男性にしか、七魔候補の紋様は女性にしか現れない。


(次の問題は禁じられた呪文? なんだ、簡単じゃないか)

 

 そんなの子供でも知っている。

 禁じられた呪文、あるいは最悪の呪文とは激痛満たせドロノス籠絡せよウェカリス死晒せムエルス変貌せよデフォル

非現実ファンズマという魔王や魔王候補にしか操れない五つの呪文の総称だ。


(間違ってでも唱えれば即刻獄中タルカタズに投げられるのは有名な話だな)


 その後もルノスは問題を解き続けた。表面が終わり、裏返してまた終わらせると、先に終わらせた表面の問題が別の問題に変わり、また裏返すと別の問題に変わる。

 そんなループがあったものの、がむしゃらに解き続けた彼がペンを置いたのは試験開始から二時間後だった。







 次の試験は実技だ。相手は対峙するまで不明。降参か、殺すまで終わらない地獄が始まる。

 試験の順番は筆記試験を行なった講義室に呼びに行く教授の気分で決まる。

 

 そして今、ルノスは義手の教授に呼ばれ講義室を出た。


「試験会場に連れて行く前にこれを付けろ」

「これは……」


(目隠し? まあそちらが付けろといのなら文句は言えない)


 従う他ないだろう。目隠しを付けると、次の瞬間。


「ほら、取るぞ?」


 パッと外された目隠し。短い間なのに長く暗闇に閉ざされていたように光が眩しかった。

 それから、光に慣れて驚愕した。


(どこだ……ここ。どんな呪文を唱えた?)


 目隠しをしていた時間は3秒が良いところ。だというのに、なぜ一瞬にしてまだ一つない密室に移動できたのか。

 移された場所はどう見ても実技の試験会場だった。細長い空間で、相手と自分が対峙できるような設計になっている。


「おし、大丈夫そうだな。んじゃ俺は戻るから死なないよう頑張れよー」


 呑気に言ってから教授は霧散した。腐っても教授なだけあり、呪文の操作能力は高いようだ。

 そして……


「目隠し、取りますよ」


 ルノスの前方で同じように目隠しをされた入学希望者ライバルが教授と共に現れたのだ。


(オレは……今からアイツと殺し合うのか)

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