入学編—試験1


 深夜バスに乗って、眠ってしまったルノス。次に目を覚ました時にはウルテイオに到着していた。

 運転手に起こされるという恥ずべき状況になったが、運転手の方は慣れた様子だった。こういうのは大抵自意識過剰なのだから、気にしない方が身のためだろう。


 校門へはバスを降りてまっすぐ進めば着く。地理を調べずに来た者は驚くだろうが、ウルテイオは樹海の中心にある。一応立場的には何処の国にも属して居ないらしいが、実際は近くにある魔法皇国と繋がっているとかなんとか。


 まあとにかく、周りが木、木、木、で不安になるだろうが、真っ直ぐ進めばいずれは校門が出迎えてくれるはずだ。


 十分ほど歩いただろうか?

 巨人よりも高い校門が見えて来た。


(天下のウルテイオは校門も豪華にするのか……)


 校門だけではない、学校を囲う壁の端々にも何やら高そうな素材を使用している。

 きっと創立者は苦労しただろう。


「入学希望者ね。こっちに来て!」


 校門を潜り、すぐに出迎えてくれたは——花瓶だった。

 そう、あの花瓶だ。花とかを入れるあの花瓶。しかし魔法界的には不思議な光景でもない。

 この生物の分類は魔法生物——つまり魔法によって作られた生き物となる。こう言ったのは山ほどいるのだ。例えば口うるさい木だったり、壁画の淑女だったり。


 ルノスはそれらを知識として知っていた。


「これはご丁寧に。花瓶さん」

「あらお礼を言ってくれるの? 嬉しいわ。でも私にはレデっていう名前があるのよ?」

「それは失礼。レデさんですね」

「やんもう! 色男に呼ばれると興奮しちゃうわ!」


(花瓶も興奮するのか……知らなかった)


 こうてしてレデと会話できるのも、二人きりだからだろうか。バスに一人眠っていたルノスは他の入学希望者よりも遅れて出発したし、他の人間をまだ一人も姿を見れていなかった。


(いや……)


「ところで色男ボーイは魔王候補かしら?」

「ええ、まあ。やっぱり分かりますか?」

「もちろんよ! 私は魔法生物だし、そういうのには敏感なの……身体と同じでね?」

「は、ははは……」


(この感じだと気に入った相手と所構わず話していそうだ)


 少しソッチの会話をしてくるが、悪い気はしない。もしかしたら緊張をほぐしてくれているのだろうか?

 歩幅も合わせてくれているし……案外良い花瓶ひとなのかもしれない。


「さて、ついたわ。この先にある扉を開けて席に着いてね。時間になったら強面のフクロウみたいな男が来るから」

「ありがとうございます。短い間でしたがレデさんのお陰で有意義な時間を過ごせました」

「いいのよ! 私も色男ボーイのお陰で有意義な時間を過ごせたわ——ッハ! これってまさか、運命かしら! いやーん色男ボーイのエッチィィ!!」


 レデは照れ隠しをする女の子のような仕草で逃げていった。彼女の態度は不適切なものだったが、ウルテイオに来て早速面白いものを見れた。

 さて、と気を取り直して、レデの言っていた扉を開ける。


「…………」


 中には大勢の男女が座っている。どこを見ても書物に視線を送るばかりで、ルノスを気にする者は居なかった。

 まあそっちの方がコチラとしても有り難い。

 

(そういえば……オレはどこに座ればいい? あの招待状には指示なんてなかった)


 まさか適当な場所に座るなんて事はあるまい。

 とその時。


「男性ならばあちらでしてよ?」

「ん? あちら?」

「ほら、到着が遅い方が一番後ろになりますの」


 ほら、と言われても来たばかりの自分にはわからない。しかし嘘を付いている様子ではなさそうだった。

 ここはおとなしく礼を言うべきだろう。


「ありがとう。まさかそんな決まりがあったとは……」

「良いんですの。困っていたのは貴方だけではありせんし」


 銀髪に翡翠の瞳。喋り口調を含めると何処かのお嬢様なのかしれない。

 座り方も本の持ち方も上品だし、なにより服が良い素材の布だった。

 

(まあどうせ関わることもないだろうし。さっさと消えるか)


「そうだったのか……ありがとう。お互い受かれるように祈ってるよ」

「ええ! わたくしも貴方の合格を心より祈っていますわ」


、ね。自分は絶対受かるってことか?)


 席に向かうルノス。

 途中で何人かに睨まれたが、うるさかったのだろうか?

 だとしたら謝りたいが……状況が状況だ。今ここで声をかけても、妨害行為と判断されるかもしれない。


(今は忘れよう)


 席に座り——すぐ。

 レデに忠告された強面のフクロウのような顔立ちの男が教室に入ってきた。

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