3-32-2話
別バージョン2話目です。
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今回、グランブレイド帝国に行くのは俺とエリクとエリス、ミリアとソフィアとノエルに、ジークとサーシャ。ジェシカはグランブレイド帝国で合流することになっていて、バーンは用があると先に帰国している。
王族と貴族のみんなには侍女や護衛が同行する。エリクはベラとイーシャの他に、オスカーたち五人の騎士と、ヨルダン公爵の襲撃のときと同じように元冒険者や傭兵上がりのグレッグ隊の一二人の騎士が同行する。
今回、諜報部の連中はグランブレイド帝国に先入りして、情報収集を始めている。ドミニクに書簡を届けたのも諜報部の連中だ。
その代わりに飛空艇エヴァジェリン号の
王家専用飛空挺の乗組員だから、王国近衛隊の中でも精鋭を集めている。その実力は諜報部の連中にも引けを取らない。
「エリク殿下。準備はすべて整っております」
鮮やかな青い髪と灰色の瞳。三〇代半ばの精悍そうな男はロベルト・ハルトマン。エヴァンジェリン号の艦長だ。
「ロベルト、君は卒がないね。君に任せておけば空の旅は問題ないだろう」
「エリク殿下、思ってもいないことを言うのは止めてください。相手は
エヴァンジェリン号の乗組員たちは王家の側近のようなモノで、乗組員からグランブレイド帝国に情報が漏れることはないだろう。
だから俺は飛空挺に乗った後に『
だけどそうしない理由はロベルトが言うようにドミニクを警戒しているからだ。
「俺が何もしなくても、ロベルトやグレッグたちがいれば問題ないだろう」
「そう願いたいですね。アリウス卿の手を煩わせるようなハメにならないように、警戒は怠りませんよ」
弱気な台詞に聞こえるけど、一切油断していないってことだろう。
※ ※ ※ ※
飛空挺エヴァンジェリン号が王都を出発して二日が過ぎた。飛空艇の旅は快適だ。速度を除けばの話だけど。
一般的な飛空艇の最高速度は時速一○○km。ロナウディア王国の王家の飛空艇であるエヴァンジェリン号でも時速一二○km程度だ。だからグランブレイド帝国の王都に行くまで時間が掛かる。
だけど速度以外には特に不満はない。エヴァンジェリン号は王家の飛空艇だけあって、船内はまさに動く城って感じだ。
俺たち一人一人に個室があって、部屋ごとに魔道具のトイレやシャワールームまで完備されている。護衛たちも交代で寝るための部屋と、共同だけどシャワールームとトイレを使うことができる。
食事はみんなと一緒に広い食堂で食べる。エヴァンジェリン号には料理専門の乗組員がいて、食べ物に関しても不便を感じることはない。
「ねえ、みんな。
エリス、ミリア、ソフィア、ノエル、サーシャの五人が厨房から、料理の皿を持って出て来る。今日の昼飯は厨房を借りて、エリスたちが作ると言っていたけど。大皿に載った肉中心の料理はどれも俺好みだ。
「うん、どの料理も美味いよ。みんな、料理が上手いんだな」
「わ、私はまだ勉強中で、みんなを手伝っただけだよ……」
「あら、そんなことはないわ。この卵と野菜の炒め物はノエルが一人で作ったじゃない。野菜はシャキシャキで、卵はとろっとしていて美味しいわよ」
「エ、エリス殿下……あ、ありがとうございます……」
ミリアとノエル以外は元々知り合いだってこともあるけど、ホント、女子たちは仲が良いな。飛空艇の船内で、ほとんどの時間、五人で一緒に行動している。
「へー……ノエルはお兄さんが三人もいるんだ」
「は、はい。私は末っ子で。お兄ちゃんたちは優しいけど、私のことを構い過ぎると言いますか……」
「まあ、弟がいる私としては、妹を構いたい気持ちは解るわね」
ちなみにミリアとソフィアは一人っ子だ。
「エリス殿下から見て、エリク殿下とジーク殿下ってどんな感じなんですか?」
「エリクもジークも生意気だけど、可愛いところもあるわ。特にジークは……」
「あ、姉上、俺の話は止めてくれよ!」
「何よ、ジーク。別に構わないじゃない。貴方がサーシャに一目惚れしたときの話でもしようかしら?」
「ちょっと、待ってくれ! それだけは頼むから勘弁してくれ!」
エリスはミリアとノエルが知らない子供の頃のソフィアやサーシャの話もした。二人は恥ずかしそうだったけど、ミリアとノエルも自分たちのことを話して、みんなの仲がさらに良くなった気がする。
「アリウスの子供の頃はどうだったの? 私は社交界に顔を出さないから、子供の頃のアリウスのことを知らないのよね」
エリスが興味津々という顔をする。ミリアとノエルも俺の子供の頃の話が気になるみたいだな。
「俺は七歳で冒険者になって、学院に入るまでずっと冒険者として生活していたんだ。ほとんど家にもいなかったから、双子の弟と妹のシリウスとアリシアにも、正直兄弟って実感があまりないんだよな」
「え……七歳で冒険者って、冒険者には年齢制限があるわよね?」
ミリアとノエルが驚いている。
「特例で認めて貰ったんだよ」
「如何にもアリウスらしい話だけど。君は五歳で社交界にデビューして、冒険者になるまでは社交界に顔を出していたじゃないか。その辺の話も、みんなは聞きたいんじゃないかな?」
エリクが促すと、エリス、ミリア、ノエルが頷く。俺の社交界での話なんて面白いモノじゃないだろう。
「僕とアリウスの出会いは、僕たちが五歳のときの王宮のパーティーだよね。アリウスは子供の頃から周りが一目置くような存在だった」
「エリク、それは言い過ぎだろう。あの頃の俺は何もできない子供だったからな」
「そんなことはないわ。本当に何もできない子供だったのは私の方よ」
これまで黙って話を聞いていたソフィアが口を開く。俺とソフィアが出会ったのもエリクと同じ王宮のパーティーだ。
「ソフィア、何を言っているんだよ。無理して笑うことはないって、ソフィアが言ってくれたから俺は救われたんだ」
パーティーに出る少し前、俺は盗賊団と戦って初めて人を殺した。人を殺してしまったことを、時間を掛けて自分の中でどうにか折り合いをつけたつもりだった。だけど自分でも気づかないうちに無理をしていたらしく、初めて会ったソフィアに言われた。
「ソフィアは子供の頃から人のことを良く見ていたよな。相手の気持ちを考えて真面目に行動するところも、今も変わらないだろう」
「アリウス……人のことを良く見ているのは、アリウスの方じゃない……」
ソフィアが頬を赤く染める。エリスはそんなソフィアと俺を眺めながら、優しい笑みを浮かべている。
「みんな。食事中に申し訳ないけど、僕は失礼させて貰うよ。アリウス、一緒に来てくれないか?」
エリクが真顔で言う。どうやら何かあって、『
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