3-31-2話
グランブレイド帝国に行くところの別バージョンです。
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そして三日後。出発する前に話があると、エリクに呼び出された。
部屋に入ると待っていたのはエリクとエリスの二人だ。
「ドミニクが激怒しているみたいだよ。僕たちの狙い通りだね」
俺が『エリスを恋人にしたから、婚約を解消してくれ』という書簡をドミニクに送って、エリクもそれを認める内容の書簡を送った。勿論、目的はドミニクを煽ることで、向こうから手を出させるためだ。
「アリウス。こうなったら、もう後戻りできないわよ。後悔はしていない?」
エリスが
「俺は自分がやりたいと思うことをやっただけだよ。だから後悔なんてする筈がないだろう」
「アリウス、ありがとう」
エリスが俺の胸に飛び込んで来る。いや、色々なところが当たっているんだけど。
「アリウスは私の恋人のフリをしてくれるんでしょう? だったら
このとき。扉をノックして、エリクの侍女兼護衛のベラが部屋に入ってくる。
「エリク殿下。アルベルト国王陛下が、お話があるといらっしゃっています」
今、俺たちがいるのは学院にあるエリクのサロンじゃなくて、王宮にあるエリクの私室だ。夏休みに入ったこともあるけど、俺たちが王宮にいめのには理由がある。
「解った。入って貰ってくれ」
ベラが退室すると直ぐに、アルベルト国王がやって来た。
「エリク、邪魔をさせて貰うぞ」
俺は席から立ちあがって、深く頭を下げる。
「国王陛下、お久しぶりです。本来であれば、こちらから挨拶に伺うべきですが。このような形になり、申し訳ありません」
俺は礼儀作法が好きじゃないだけで、時と場所くらいは弁えている。
「アリウス、久しぶりだな。堅苦しい挨拶は抜きで良い。ところで今回のエリスの件で、おまえは私に何か言いたいことがあるのではないか?」
俺の考えを見透かしたような台詞。さすがはエリクとエリスの父親ってところだな。適当に誤魔化すこともできるけど、この際だから言っておくか。
「ドミニク皇太子とエリスの婚約に私が口を出すべきじゃないことも、政治的判断として婚約が正しかったことも、俺は理解しているつもりです。それでもエリスなら、政略結婚とは別の形でロナウディア王国に貢献できる。
陛下もそう思ったから、エリクが婚約を破棄させるように動くことを認めたんですよね。だったら最初から縁談を断らなった理由は何ですか?」
「アリウス、おまえという奴は……国王の私に対して何の遠慮もなく、ズケズケと言いおって。な。そういうところは、本当に父親のダリウスにそっくりだな!」
アルベルト国王は豪快に声をあげて笑う。
「理由は幾つかある。だが体裁や誤魔化し抜きで言えば、私がドミニク皇太子の本質を見抜けなかったことが最大の理由だ。ドミニク皇太子は皇帝になる器ではない。それでもロナウディア王国の利益を第一に考えれば、婚約解消などあり得ないが――アリウス、おまえはエリスに他の選択肢があることを証明してくれるのだろう?」
アルベルト国王は射抜くような視線を向ける。エリクとエリスが何も言わないのは、アルベルト国王が求めているのは俺の覚悟ってことだろう。だけど――
「陛下が俺たちに任せてくれるなら、責任を持って証明しますよ」
だからどうということはない。俺は初めから、そのつもりだからな。
「そうか……おまえたちの息子は、私の言葉にも重圧など微塵も感じないようだな」
「陛下、申し訳ありません」
「私からもアリウスに良く言い聞かせるつもりでずか、大した効果はないと思いますよ」
アルベルト国王の言葉に応えるように、父親のダリウスと母親のレイアが部屋に入って来る。部屋の外に二人がいることには気づいていたけど。
「親が親なら子供も子供か……いや、誤解するな。私が言っているのは良い意味でだ。アリウス、おまえには期待しているぞ」
そう言うと、アルベルト国王は父親のダリウスと母親のレイアを連れて部屋を出て行く。
「国王陛下が何をしたいのか。俺にもだいたい解った気がするよ」
「アリウス。こんな形で陛下に約束をさせて申し訳ないね」
「いや、エリクが謝ることじゃないだろう。それに約束なんて関係ない。俺は最初からやるつもりだからな」
「アリウス……」
エリスが嬉しそうな顔で、俺の腕に再び抱き着く。ちょっと恥ずかしいけど、恋人のフリをするなら、こういうのにも慣れないとな。
「じゃあ、みんなが待っているから。そろそろ出発するか」
俺たちはエリクの侍女兼護衛のベラとイーシャ、それにエリスの侍女のロゼッタと一緒に王宮の中庭に向かった。
グランブレイド帝国に行くには飛空艇を使う。
俺が『
防衛の観点から、飛空艇で王都に直接乗り込むことは禁止されている。制空権を確保することと、武装した集団を王都の中に招き入れてしまう可能性を考えてのことだ。だけど王家の飛空艇だけは特例として王宮に乗り入れることまで認められている。
王宮の広い中庭に、滑らかな弧を描く銀色の船体が停泊している。王家専用の飛空艇エヴァンジェリン号だ。
「アリウス、遅かったじゃ――」
先に来ていたミリアが、俺の腕に抱き着いているエリスを見て固まる。隣にいるソフィアとノエルも唖然としている。
「エリス殿下、
ミリアが小声で言ったのは『
その中には帝国諜報部の人間も当然いるだろう。たとえ王宮の中でも、そいつらと繋がっている人間がいる可能性はあるからな。だから少なくともドミニクの件が解決するまで、俺とエリスは常に恋人のフリをすることにした。フリをしているのがバレないためと、仲の良いところを見せつけてドミニクを煽るためだ。
「私とアリウスは恋人なんだから当然でしょう。だけど貴方たちが遠慮する必要はないわよ。アリウスに
女にだらしのない奴に婚約者を奪われた方がドミニクの面子を潰すことになる。そう言い出したのはエリスで、俺に異存はないけど――突然、ミリアがエリスとは逆の腕に抱きつく。
「なあ、ミリア。どういうつもりだ?」
「エリス殿下が言っていたじゃない。これも作戦のうちよ」
ミリアが真っ赤になりながら小声で囁く。ソフィアが複雑な表情で、ノエルは羨ましそうに俺たちを見ている。
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