3-13話


 ツインテール女子にいきなり睨まれる。こいつは俺と同じくらいの年だから、舐められているんだろう。だけど俺は舐められるのが嫌いなんだよ。


「元気が良いのは結構だけど、狂犬みたいにやたらと噛みつくなよ」


「なんだと、てめえ……」


 ツインテール女子の目が座る。


「どうせデカいだけの癖に、イキがるんじゃねえぞ!」


 後ろにいる五人の女子は、それぞれ反応が違う。ショートボブ女子は面白いモノが始まったとニヤニヤ笑っている。ロングウェーブ女子は俺の実力を見定めようと目を細める。

「ヘルガ、|殺(や)っちまえ!」


「そうだぜ。冒険者は舐められたらお仕舞いだからな」


「ガキ一人に舐められてどうするよ」


 ポニーテール、前髪ぱっつんショート、ロングストレート女子の三人は加勢をするつもりなのか、俺との距離を詰める。


「あんたたち……」


 ジェシカは六人の女子を睨みながら、俺の方に来ようとする。だけどジェシカに手を出させたら、こいつらがヤバいことになりそうだからな。視線でジェシカを止める。

 『ギュネイの大迷宮』でジェシカたちにダメ出ししたとき。視線だけで連携することを教えたことが、妙なところで役に立ったな。


 ツインテール女子のヘルガが身を低くして、両腕をクロスして構える。やる気だけは十分だな。


「喧嘩を売るなら買うけど、面倒だから纏めて掛かって来いよ」


「てめえ、ふざけやがって!」


 殴り掛かって来たヘルガを躱すと、そこを狙ってポニーテール女子がハイキックを入れる。ギリギリで躱すと、今度はショートカットとストレートロング女子が背中と足元を同時に狙う。まあ、それなりに連携はできているな。当然、全部躱したけど。


「おまえらに、これ以上付き合うつもりはないよ」


 俺は一気に加速すると、ヘルガの眼前に迫る。


「な……」


 ヘルガが反応する前に手刀で意識を奪うと、間髪を容れずにポニーテル、ショートカット、ストレートロング女子と、続けざまに意識を刈り取る。


「てめえ……何しやがった?」


 ニヤニヤしていたショートボブ女子の顔色が変わる。こいつには俺の動きが見えなかったんだろう。警戒心全開で腰の剣に手を伸ばす。


「おまえ、馬鹿だろう」


 俺は一瞬で距離を詰めて、ショートボブ女子の意識を奪う。冒険者ギルドで武器を抜いたら、こいつは犯罪者確定だからな。


「おまえで最後だけど。どうする?」


 残ったのは、俺の実力を見定めようたロングウェーブ女子だ。唖然とした顔で、マジマジとこっちを見ている。


「あんた……何者だ?」


「おまえら……冒険者の癖に、マジでアリウスさんだって気づいてねえんだな」


 応えたのは俺じゃなくて、これまで傍観していたアランだ。凄みを利かせてロングウェーブ女子を睨みつける。


「おい、B級のガキ。仲間が殺されなかったことを、アリウスさんに感謝しろよ」


「アラン。相手は子供なんだから、そこまで脅すなって」


「アリウスって……まさか、SSS級冒険者のアリウスなのか? SSS級冒険者のアリウスは、カーネルの街からいなくなった筈じゃ……」


 俺はカーネルの街に来ることが減ったから、そんな噂が流れているのか。


「SSS級冒険者のアリウスは、今どこにいることになっているんだよ?」


「いや、行方知れずだから、|最難関(トップクラス)ダンジョンを攻略中じゃないかって噂になって……」


 イシュトバル王国は俺のことを公言していないけど。無責任な噂にしては的を射ているじゃないか。


「本当に……おまえがSSS級冒険者のアリウスなのか?」


「あんたねえ。そんなことより、先に言うことがあるんじゃないの?」


 ここまで我慢していたジェシカが、ロングウェーブ女子に詰め寄る。本当はもっと前に動こうとしていたけど、アランに先を越されたんだよ。


「生意気なことをして済みませんでしたって、アリウスに謝りなさい。それともあんたもアリウスにボコボコにされたいの?」


 ジェシカは本気で怒っている。放っておいたら、ジェシカがこいつらをボコボコにするんじゃないか。


「す、済みませんでした……」


 ジェシカの迫力に負けて、ロングウェーブ女子が深々と頭を下げる。


「なあ、ジェシカ。それくらいで構わないだろう」


「もう、アリウスは女に甘いんだから」


 ジェシカが頬を膨らませる。確かに俺は女子に甘いと思う。だけどジェシカだって五年前に俺に喧嘩を売ったじゃないか。


「とりあえず、こいつらを起こしてやれよ。まだ喧嘩を売るなら、次は容赦しないからな」


 ロングウェーブ女子はマスターに頼んでバケツに水を貰うと、仲間たちに頭から水をぶっ掛ける。


「ゴホゴホッ……レイ、何しやがる!」


 真っ先に目を覚ましたのは、ツインテール女子のヘルガだ。一瞬、どういう状況なのか解らなかったようだったけど、俺に気づくと犬歯を剥き出しにて立ち上がる。


「ヘルガ、止せ! 私たちの完敗だ。みんなも手を出すな。死にたくないならな!」


 ロングウェーブ女子レイの冷ややかな声に、ヘルガが舌打ちする。他の四人も目を覚ましたけど、さすがに続きをやるつもりはないみたいだ。


「まあ、良い勉強になったんじゃないかな。喧嘩を売るなら、相手を見てからにしないとね」


 騒ぎの間も料理と酒に夢中だったマルシアがニヤニヤ笑う。


「ここは太っ腹のアリウス君が、みんなに奢ってくれるから。とりあえず手打ちってことで良いよね?」


 おい、マルシア。何を言っているんだよ。周りの冒険者たちも、勝手に盛り上がっているけど。そんなこと、俺は言っていないからな。


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