3-12話


「アラン、ライトニングドラゴンは私がやるわ! マイクは後ろのイフリートをお願い!」


 俺はジェシカたち『白銀の翼』のメンバーと|高難易度(ハイレベル)ダンジョン『ギュネイの大迷宮』にいる。


 ヨルダン公爵や勇者アベルのこと、魔王アラニスのこととか色々あって、俺は一ヶ月以上、カーネルの街の冒険者ギルドに来ていなかった。

 その間にジェシカから何度も『|伝言(メッセージ)』が来ていた。だからさすがに悪いと思って、たまにはジェシカたちのダンジョン攻略に付き合うことにした。


 『|伝言(メッセージ)』で大よその場所を教えて貰えば、|転移魔法(テレポート)とダンジョンの転移ポイントを併用することで、『ギュネイの大迷宮』のどこにでも一瞬で行けるからな。


「みなさん、ヘイトを集めるのは僕に任せてください!」


 小柄なベリーショートの女子が自分の身長よりも大きい盾を手に、スキルを発動して素早く動き回る。彼女はシャイン・オルタリカ。|ジェイクの代わりに(・・・・・・・・・)ジェシカたち『白銀の翼』に加わった新しいタンクだ。


 シャインが魔物のヘイトを集めている間に、ジェシカ、アラン、マイクの三人が最大火力で攻撃する。

 索敵と遊撃はマルシアで、|治療役(ヒーラー)のサラも最適のタイミングで魔法を放つ。一五体いた魔物は、二○分ほどで全滅した。


「シャインとの連携は問題ないようだし、敵が多いときの戦い方も解って来たみたいだな。だけど死にたくないなら、絶対に気を抜くなよ」


「アリウス、解っているわよ。他に何か気づいたことがあったら、遠慮しないで指摘してよね。私たちはもっと強くなりたいから」


 ジェシカの言葉に『白銀の翼』のメンバーたちが頷く。

 現状に満足していたジェイクと、上を目指しているジェシカたち。その溝は大きくて、結局ジェイクはパーティーを抜けた。冒険者には良くある話だけど、タンクが抜けたことで『白銀の翼』の戦力は一時的にダウンした。


 そこに加わったのがジェイクとは逆のケースで、たまたま別のパーティーを抜けたばかりだったシャインだ。避けと受けの両方ができるシャインはタンクとして優秀で、結果として『白銀の翼』はジェイクがいた頃よりも戦力がアップした。


 今、ジェシカたちは『ギュネイの大迷宮』の一六二階層を攻略している。二ヶ月以上前に俺がジェシカたちと一緒に攻略したのは一五○階層。だけど俺が数を調整してギリギリってレベルだったから、ジェシカたちは一四五階層から攻略をやり直した。


 さらにはジェイクが抜けて足踏みする時期もあって、今はようやく順調に攻略を進めているところだ。


 ちなみに一六二階に出現する魔物は、ドラゴン系ならさっきのライトニングドラゴンやトリプルヘッドドラゴン。精霊系ならイルリートやセルシウスといった人型の大精霊。悪魔系ならネームドじゃないアークデーモンってところだ。


 もう少し下の階層になると、俺が一○歳の頃に苦戦した|要塞(フォートレス)ゴーレムやフェンリル、フェニックスが出現する。だけど出現する魔物の数が多いし、今のジェシカたちじゃ、まだキツいだろう。しばらくは、この辺りの階層でレベルアップだな。


※ ※ ※ ※


 『ギュネイの大迷宮』に挑んだ後。たまには一緒に夕飯を食べようと、俺はジェシカたちと一緒にカーネルの街の冒険者ギルドにやって来た。


「よう、アリウス。久しぶりじゃねえか」


「ゲイルは相変わらずだな。マスター、肉中心でメシと酒を適当に。早くできる奴から持って来てくれよ」


「今日は当然、アリウス君の奢りだよね。マスター、お酒は一番高いのをボトルで。料理も高い順にジャンジャン持って来てよ!」


 マルシアはホント、ブレないよな。ある意味で尊敬するよ。

 いつもの調子で、たくさんの料理と酒を注文して。ゲイルのパーティーの連中も加わって、俺たちが夕飯を食べていると。


「なあ、あんたたちがS級冒険者の『白銀の翼』だよな?」


 知らない顔の冒険者に声を掛けられる。明るい色のツインテールで一五、六歳の女子。客観的に見て美少女と言える顔立ち。

 だけど可愛らしいのはそこまでだ。喧嘩を売っているのかって態度で、目つきがやたらと鋭い。


 ツインテール女子の後ろにも、知らない顔の冒険者が五人。全員一○代半ばから後半の女子で、ツインテール女子と同じようにこっちを睨んでいる。

 まあ、最近俺はカーネルの冒険者ギルドにあまり来ないからな。知らない冒険者がいても不思議じゃない。


「何だよ、おまえら?」


 アランの反応を見ても、顔なじみって感じじゃないな。


「別に用って訳じゃねえよ。カーネルの街で『白銀の翼』の次にS級冒険者になるのは、私らだからな。一応、挨拶しておこうって思ってね」


 他の冒険者全員に喧嘩を売っているのか? まあ、全員一○代半ばで五○レベルを超えているし。調子に乗るのは解らなくはないけど。


「そうなんだ。だけど冒険者は甘くないからね。生意気なことを言うと、あたしが虐めちゃうよ」


 マルシアは酒と料理に夢中で、女子たちを見もしないで言う。


「チッ! 今の時点で、マルシアさんに喧嘩を売るつもりはねえよ」


 マルシアはふざけているように見えて全然隙がない。まあ、こいつらとは格が違うか。


「せいぜい死なないように頑張れよ」


 俺はツインテール女子に話し掛ける。冒険者は常に死と隣り合わせだからな。当たり前だけど、死ななかった奴だけが強くなれる。


「何だ、デカブツ……てめえに用はねえんだよ」


 ツインテール女子にいきなり睨まれる。こいつは俺と同じくらいの年だから、舐められているんだろう。だけど俺は舐められるのが嫌いなんだよ。



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