3-7話
「アリウス・ジルベルト……貴様だけは、絶対に許さん!」
イシュトバル王国の王宮。勇者の力に覚醒した王太子アベル・ライオンハートは玉座の上で怒りに打ち震えていた。
アベルは勇者の力を手に入れたことで万能感に酔いしれて、世界すら支配できると奢っていた。だがSSS級冒険者アリウス・ジルベルトはアベルの誘いを無碍もなく断り、力で捻じ伏せようとしたアベルに牙を剥いた。さらにアリウスは魔王アラニスと通じており、事もあろうかイシュトバル王国の王宮に招き入れたのだ。
「魔王の配下に加わるだと……アリウスは人類を裏切ったのだぞ! あの裏切者に目にモノを見せてやる!」
アベルは怒りの矛先を、無意識に魔王アラニスから逸らしていることに気づいていない。圧倒的な力を見せつけた魔王アラニスに対する恐怖心に抗うことができず、怒りを全てアリウスに向けることで自分を誤魔化しているのだ。
「それでアベル様はどうするつもりや? SSS級冒険者のアリウスにまんまと騙されて、魔王アラニスが王宮に侵入することを許した上に、何もできずに逃げられた。こんなことを公表したら、勇者の力を疑われることになるで」
勇者パーティーのサブリーダーであり、イシュトバル王国軍参謀総長を兼任するアリサ・クスノキは名に食わぬ顔で言う。
「アリサ、貴様は私を愚弄しているのか!」
激昂して玉座から立ち上がるアベルをアリサは宥める。
「アベル様、落ち着いてや。うちは事実を言ったまでで、勿論対策も用意してあるで。あの場にいたのはアリウスと魔王アラニス、アラニスの配下の魔族を除けば、うちらだけや。だったら全部
アリサは説明する。アリウスがイシュトバル王国の王宮で起きたことを公言すれば、自ら魔王アラニスに通じていると宣言するようなものだから、アリウスの口から情報が洩れる可能性は低い。そして魔王アラニスや魔族の言葉を信じる者などいないと。
「なるほど、そういうことか……だがアリウスをこのまま放置しろというのか?」
「アベル様、何を言うとるんや? SSS級冒険者いうても、勇者であるアベル様から見ればアリウスなど所詮は羽虫やで。虫に刺されて
アリサの言葉にアベルは考え込む。魔王アラニスが乱入したことで、アリウスとアベルの戦いの決着は着かなかった。しかし終始圧していたのはアリウスの方であり、アリサが言うように羽虫などと思える相手ではない。
『何を恐れることがある? 勇者の力はその程度のモノではない。自らを鍛えることで勇者は新たな力に目覚める』
突然、アベルの頭の中に直接声が響く。アベルが勇者に覚醒したときに聞こえたのと同じ声だ。
呆然とするアベルをアリサは訝しむが、次の瞬間、アベルが高笑いを上げる。
「フッハッハッ……そういうことか! アリサ、解った。今回はおまえに従ってやる。おまえが言うようにアリウスはいずれ叩き潰してやろう!」
訳が解らないと思いながら、アリサは異を唱えない。自分の思惑通りに話が進んでいるからだ。
アリウスの本当の実力を知ったことで、アリサはアベルを完全に見限っていた。だからアベルが持つ勇者の力についてアリウスに情報を流し、その見返りとしてアベル以外の勇者パーティーのメンバーに手を出さないことを約束させた。
アリウスの実力があれば、アリサの情報がなくてもアベルに負ける筈がないことは解っていた。だがこれで多少なりともアリウスに恩を売った形になる。
魔王アラニスが乱入して来たことは、アリサにとっても誤算だった。しかし魔王アラニスを直接目にして、その実力を知ったことは大きな収穫だった。
これまで集めた情報から考えれば、アリウスが魔王アラニスに通じている可能性は低いだろう。だがアリウスと魔王アラニスが接触したことで、勝利の天秤は大きく傾いた。
(アリウスはんがどう動くか楽しみや。うちはアベルを上手く転がして、イシュトバル王国と同盟国から絞り取れるだけ搾り取る。アリウスはん、期待しとるで)
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