3-8話


 一学期の期末試験は実技も含めて月曜日から金曜までの五日間行われる。

 試験は午前中で終わるから、学食で昼飯を食べた後、ダンジョンに直行する。


 今、俺が攻略しているのは三番目の最難関トップクラスダンジョン『冥王の闘技場』だ。深い闇に包まれた広大な空間に出現する『死神グリムリーパー』たち――


 『死神グリムリーパー』って言っても、鎌を持った黒ローブって定番の姿じゃない。

 一階層に出現する『死神グリムリーパー』は『冥府ナイトオブの騎士アンダーワールド』。グロテスクアーマーを纏う金色の骸骨だ。


 アンデッドモンスターには違いないけど。こいつに比べれば、アンデッドの王と言われるノーライフキングも可愛いモノだ。

 当たり前のように『魔神の牢獄』の最下層に出現する魔物より強い。

 『魔神の牢獄』に出現するのは『偽神デミフィーンド』と呼ばれる下級の魔神だから。『死神グリムリーパー』は下級の魔神よりも格上ってことか。


 『冥府ナイトオブの騎士アンダーワールド』は音速を余裕で超える速度で動いて、瞬間移動も連発する。攻撃も正確な上に必殺の威力で、防御も鉄壁と言うか冗談だろうってレベルだ。

 それが一○○○体以上同時に攻撃して来る。ここは最難関トップクラスダンジョンだから当然だけど。『冥王の闘技場』の厄介なところは、最初から・・・・階層ボスが出現していることだ。


 『冥府オフィサーオブの魔将アンダーワールド』。その姿は冥府という名に似合わない白いフルプレートを纏う白磁の肌の美女だ。

 だけど良く見ると鎧は血で汚れていて、腹の部分に大きな穴が空いている。つまり、こいつもアンデッドってことだ。


 『冥府オフィサーオブの魔将アンダーワールド』の強さは『冥府ナイトオブの騎士アンダーワールド』の数倍で、しかも初手からこっちを執拗に狙って来る。


 だったら最初に『冥府オフィサーオブの魔将アンダーワールド』を倒せばと思うかも知れないけど。『冥府オフィサーオブの魔将アンダーワールド』だけを狙えるような隙を『死神グリムリーパー』たちが見せる筈はなく。結局、倒せる奴から倒していくしかないんだよ。


 それでも俺は強くなった筈だ。『魔神の牢獄』のラスボスとソロで何度も戦ったとき。研ぎ澄まされた意識の中で、俺は今までとは違うレベルで魔力を操作する感覚を掴んだ。

 これまで俺は魔力を流れとして捉えていたけど、魔力を一つ一つの点として捉えて精密に操作するイメージだ。実際にやってみると効率が全然違う。魔力を一切無駄にすることなく、一○○パーセント力に変えることができる感じだ。


 これならMPの消費を抑えられるから継続戦闘能力が伸びるし、魔力操作は全ての基本だから全般的にパワーアップできる。それでも魔王アラニスには全然通用しなかったけど。


 今の俺にはアラニスに一撃を入れるという明確な目標とイメージがある。アラニスが悪い奴じゃないことは解ったけど、だからって負けたままで良い筈がないだろう!


 勿論、勇者同盟軍の侵攻は止めてみせる。だけど情報収集と工作はエリクとアリサに任せた方が効率が良いし、俺の役目は勇者アベルと同盟軍が侵攻を始めたときに確実に止めることだ。そのためにも俺はもっと強くなる必要がある――


 いや、そんなことは言い訳だな。正直に言えば、アラニスという絶対的強者の存在を知って、俺はもっともっと強くなりたいと思った。直ぐには無理だとしても、俺は絶対アラニスに一撃を食らわせてやる!


 そして、いつか必ず――アラニスと同じステージまで、辿り着いてみせるからな!


※ ※ ※ ※


 金曜日の試験が終わって期末試験は終了。俺はバーンやミリアたちと学食で昼飯を食べている。


「ねえ、アリウス。試験の手ごたえはどうだったの?」


「たぶん問題ないよ。ミリアも余裕だったんじゃないのか?」


 ミリアは俺と同じ転生者だからな。俺たち転生者にとって学院の授業は正直、そこまでレベルが高くない。実技の方も今のミリアなら余裕で高得点が取れるだろう。


「余裕ってほどじゃないけど。私は普段から勉強しているし、授業も真面目に受けているから問題ないわよ。実技の方もアリウスのおかげで自信があるわ」


「アリウス、俺も問題ないぜ。留学生の俺には試験の成績なんて関係ないからな」


 バーンの『問題ない』は別の意味だな。王国の貴族が家督を継ぐには学院を卒業することが必須だけど。バーンはグランブレイド帝国の皇子だから関係ない。だけど帝国の皇子が学院を卒業できなかったら、問題になるんじゃないのか?


 ソフィアは試験の手ごたえについて何も言わないけど、真面目で優秀だから問題ないだろう。

 ノエルは魔法以外の実技全般が苦手だけど。みんなと朝練をするようになって身体の動かし方が解って来たみたいだから、単位が取れないほどじゃないだろう。


「ねえ、アリウス。これからみんなで試験の打ち上げに行かない?」


 ミリアに誘われて、ソフィアとノエルも期待するように俺を見ている。


「悪いけど、俺はこれから予定があるんだよ」


 勿論、行き先は三番目の最難関トップクラスダンジョン『冥王の闘技場』だ。

 今日の午後から土日と月曜は学院をサボって、俺は三日半泊まり掛けで『冥王の闘技場』を攻略するつもりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る