3-5話
アラニスから魔族の姿になって戦うように勧められたことと、『魔王の代理人』と名乗る許可を貰ったことをエリクに伝える。
「アリウス、君は魔王アラニスに随分と気に入られたようだね。だけど魔族の姿になって戦えと勧めるくらいだから、向こうも
俺もアラニスに提案された時点で気づいていた。ガーディアルの魔族は人間の姿になって情報を集めている。
アラニスが最初から俺のことを知っていたのも、都合が良過ぎるタイミングでイシュトバル王国の王宮に現れたのも、これで納得できる。
「どうやら僕たちが想像していた魔王と現実の魔王アラニスは、随分と乖離しているようだね。だけど一つ疑問なのは、それだけの力を持った魔王アラニスが三〇〇年前に、どうして勇者に敗れたのか? 先代の勇者は魔王アラニスすら凌ぐ力を持っていたのか。それとも復活したことで、魔王アラニスは更なる力を手に入れたのか」
「先に言っておくけど、これはあくまでもアラニスが言っただけで、俺も半信半疑ってところだ。古い文献とか調べて、本当かどうか情報の裏を取る必要があるからな」
そう前置きした上で、俺はアラニスから聞いたこと説明する。
「アラニスが言うには、そもそも三○○年前の戦いで勇者が勝ったという話が間違いで、本当に勝ったのはアラニスの方らしい。そして勇者を殺したことで、
アラニスの実力を知らなかったから、俄かに信じられる話じゃない。だけどそう考えれば、幾つか腑に落ちることがある。
三○○前の戦いで魔王を倒した勇者は、ほとんど相討ちのような形で命を落としたと言われている。だけど『
そして勇者同盟軍は三〇〇年前の戦いの後、早々に『魔族の領域』から撤退している。勇者同盟軍も被害が大きかったから撤退を余儀なくされたって話だけど。敗退して逃げ帰ったのに、自分たちの都合の良いように結果を捏造したとも考えられる。
「つまり三〇○年前の戦いでも、魔王アラニスは自分の方から戦いを仕掛けるつもりはなかった。だけど勇者と同盟軍が侵攻して来たら撃退して、役目を終えたから魔王を辞めて逃げた同盟軍は放置。同盟軍は魔王が姿を消したのを良いことに、自分たちが勝ったと吹聴したということだね」
「まあ、そんな感じだな。エリクは理解が早いから助かるよ」
「僕は以前から三〇〇年前の勇者の勝利を疑っていたからね。それらしい文献が幾つか残っているから、あとでアリウスにも見せるよ」
すでに情報の裏を取っているのか。さすがはエリクだな。
「そしてアベルが新たな勇者に覚醒したから、アラニスは魔王に復帰した。魔族の国ガーディアルが『魔王復活』って宣言したのは、魔王が死んだことになっていることを知っているから、いちいち否定する気がなかったって話だ」
この話も実際にアラニスに会ったから、アラニスらしいと思う。アラニスは人間がどう思おうと興味がないからな。
「アリウスの説明で僕の疑問は解けたよ。それで君が勇者同盟軍の侵攻を止めるという話だけど、僕も協力させて貰うよ。ロナウディア王国が表立って動く訳には、さすがに行かないけど。そんなことをしたら、同盟軍に参加する国に敵対することになるからね」
魔王が人類を滅ぼす存在で、魔族が人間の敵というのは、この世界の常識だ。だから勇者と敵対すれば、世界中を敵に回すことになる。
ロナウディア王国は昔から魔族に対して中立的というよりも、親魔族に近い姿勢を貫いている。それでも同盟軍の侵攻を武力で止めれば、世界から孤立することになるだろう。
「僕なら同盟軍に関わる国の情報を掴んで、
「エリクが協力してくれるなら助かるよ。エリク、ありがとう」
「勇者アベルは勇者の力を使って、世界を支配するつもりなんだろう? 僕も馬鹿げた妄想としか思わないけど、それはロナウディア王国に対する敵対行為でもあるからね」
アベルが俺に話したことも、エリクには当然伝えてある。イシュトバル王国の方は、俺やアラニスのことを一切公表していない。アベルがどう動くか、そっちについても情報を探る必要があるな。
「アリウス、これから面白くなりそうだね。魔王を倒すとか、世界征服とか、馬鹿なことを言っている連中に一泡吹かせるのが楽しみだよ」
エリクはこの状況を楽しんでいる。エリクは本当に良い奴だけど、それだけじゃなくて、絶対に敵に回したくない奴だ。
突然、部屋の外が騒がしくなる。
「皆様、お待ちください! エリク殿下から誰も入れるなと言われております!」
「ごめんなさい、先に謝っておくわ!」
サロンの扉が開いて現れたのは、ミリアとソフィアだ。
「二人とも、久しぶりだな」
王家の別荘から戻った後。俺はアベル対策として、二番目の
「久しぶりじゃないわ! ずっと学院をサボって、アリウスは何をしていたのよ?」
「アリウスがまた無茶なことをしていると思って……心配していたんだから!」
まあ、そんな言い訳は置いておいて。本気で心配していたことは、二人の顔を見れば解る訳で――泣いている二人に抵抗するつもりはない。
俺はエリク以外に自分がSSS級冒険者のアリウスだってことや、アベルや勇者パーティーについて話していない。だけど王家の別荘で高レベル『
「ミリア、ソフィア……心配させて悪かったな。とりあえず、解決したから問題ないよ」
「アリウスが何をしていたのか、全部話してとは言わないけど……」
「私たちにできることがあったら言って。私もアリウスの力になりたいの……」
ミリアとソフィアは本当に良い奴だな。だけど俺は今日学院に来ることをエリク以外に伝えていない。
「二人が心配していることは僕も知っていたからね。アリウスが来ることを伝えるのは当然だろう」
エリクが見透かしたように言う。そう言えば、二人が入って来る前にエリクは何か言い掛けていたな。
「僕の用件は急ぐ訳じゃないから、また今度にするよ」
俺の思考を再び先取りしてエリクは応えると、俺たちを残してサロンを出で行く。
学院の授業が始まるまで、あと三○分ってところだ。このタイミングでミリアとソフィアが来たのもエリクの計算のうちだろう。
「ミリア、ソフィア。二人とも、ありかとう。これからは俺も二人に相談させて貰うよ」
「アリウス……約束だからね」
「アリウスは約束を守るって信じているから……」
察しが良過ぎるエリクに心の中で苦笑しながら、俺は二人が泣き止むまで一緒にいた。
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