3-4話
魔都クリステアを出た後、『|伝言(メッセージ)』を送ってグレイとセレナに合流する。
|顎鬚(あごひげ)を生やした|野生(ワイルド)系イケメンと、黒髪に黒い瞳のミステリアス美人。グレイとセレナの姿は、俺が五歳のときに出会った頃とほとんど変わっていない。
「グレイ、セレナ、駆けつけてくれてありがとう。イシュトバル王国の王宮にも、来てくれていたよな」
俺が勇者アベルと戦ったときもグレイとセレナは近くにいた。二人が動かなかったのは、俺のことを信頼してくれているからだろう。
だけど魔王アラニスと戦ったときに二人が動かなかったのは、俺とアラニスが一対一で戦っていたからだ。あのとき二人が動いていたら、周りにいた魔族たちが参戦していただろう。
アラニスは最初から俺を殺すつもりがなかったみたいだけど、他の魔族が同じとは限らない。それに乱戦状態になったら戦いはどう転ぶか解らないから、最後まで見守ってくれた二人の判断は正しいと思う。
「アリウスが無事で何よりよ」
「結局、俺たちの出番はなかったが」
俺は二人にアラニスと話したことを説明する。
「なるほど、魔王アラニスはそういうスタンスか。少なくとも今のところは、魔王アラニスが敵に回ることはなさそうだな」
「『魔王の代理人』ね、面白そうじゃない。アリウスは本気で勇者同盟軍の侵攻を止めるつもりなのよね? だったら魔族の姿で戦う方が、確かに都合が良いわ」
セレナが目配せするとグレイが頷く。二人は視線だけで会話ができるくらい、お互いを理解しているからな。
「アリウス、今回ばかりは俺たちも動くからな。何か情報を掴んだら直ぐに教えろ」
「勇者同盟軍が『魔族の領域』に侵攻することを、私たちだって許すつもりはないから。アリウス、私たちに変な気を遣ったら承知しないわよ」
そう言うとグレイとセレナは早々に立ち去る。勇者同盟軍を止めるために、二人も何か手を打つってことだろう。二人が参戦してくれるなら心強い。俺は自分にできることをやるだけだ。
※ ※ ※ ※
※グレイ視点※
「おい、セレナ。アリウスのレベルを見たか?」
「ええ。ニ八〇〇レベル超えって……私たちのパーティーを抜けてから三ヶ月ちょっとよね。その間に、アリウスはいったい何をしていたのよ?」
アリウスと別れた後、俺とセレナは移動しながら話をする。
イシュトバル王国の王宮に行った時点で、アリウスの魔力が大きくなっていることには気づいていた。だが直接会って『
「まあ、アリウスのことだからな。何をしていたかなんて、だいたい想像がつくが……あいつはホント、俺たち以上に頭がイカれていやがるぜ!」
思わず笑みがこぼれる。弟子の成長ぶりが嬉しいってのもあるが、それ以上にアリウスが本物の戦闘狂だと再認識して、強くなったあいつの姿を見て思う――俺もヌルいことなんて、やってられねえぜ!
「グレイ、私たちも負けていられないわね。この年で弟子のアリウスに追い抜かれたら、目も当てられないもの!」
セレナが獰猛な笑みを浮かべる。セレナは自分が戦闘狂だって絶対に認めないが、自分の顔を鏡で見てみろって話だ。おまえも間違いなく戦闘狂だからな。
「セレナ、俺も同感だが。とりあえず、今は俺たちにできることをやらねえとな」
「ええ、解っているわよ。勇者同盟軍と戦うってことは、下手をしたら世界中を敵に回すことになるわ。孤立無援なんて最悪な状況にならないために、こっちも味方を増やす必要があるわね」
俺たちは冒険者だから
※ ※ ※ ※
翌日。学院の授業が始まる一時間ほど前に、俺はエリクのサロンに来た。
「アリウスが手も足も出ないなんて……魔王アラニスの実力がそれほどとはね」
イシュトバル王国と魔族の国ガーディアルで起きたことは、エリクにも『
「それでも魔王アラニスは全然本気じゃなかった。アラニスの強さは文字通りに次元が違うんだよ。配下の魔族も凄腕揃いで、アラニスの他に『
「それだけ聞くと魔王アラニスを人類の脅威だと言う連中も、あながち間違っていないことになるね」
「だけどアラニスは、まだ何もしていない。勇者アベルとは一悶着あったけど、結局一人も殺していないからな。自分たちよりも強いから脅威だって戦争を仕掛けるなら、グランブレイド帝国とも戦争するかって話だろう」
俺の言葉にエリクが頷く。
「敵対する可能性もあるから、魔王アラニスの脅威に備えておく必要はある。だけど、こっちから戦争を仕掛けるのは話が違うからね」
「まあ、アラニスが本気になったら、勇者同盟国軍は一方的に蹂躙されるだけだ。俺は勇者アベルとも戦ったから実力は解っているけど、アベルじゃアラニスの相手にならない。勇者パーティーの奴らが束になって掛かっても全滅は必至だ。そんな状況になったら、アリサは何かと理由をつけて逃げ出すに決まっているけど」
勇者パーティーのサブリーダーで、イシュトバル王国軍参謀総長を兼任するアリサ・クスノキと俺は取引をした。アリサがアベルと勇者同盟軍の情報を流す代わりに、俺は情報料を払って、アリサたち勇者パーティーのメンバーには手を出さない。
アリサが要求した情報料は法外だけど、情報の価値を考えれば決して高くない。
「それより問題なのは勇者同盟軍が『魔族の領域』に侵攻して、魔族の国ガーディアルに辿り着くまでに出る被害の方だな。勇者同盟軍は自分から仕掛けたから自己責任だけど、魔族の方は一方的に侵攻されて殺されることになる」
アラニスが言っていたように、人間を敵視して人間の国に侵攻を繰り返している魔族もいる。そいつらは反撃された訳だから自業自得と言えるだろう。だけど人間と関わりのない魔族が殺されるのは話が違う。
「俺がアリサと手を組んだのは、アベルの手の内を知りたかったのもある。だけどもう一つの理由は『魔族の領域』への侵攻を止めるためだ。俺一人の力で戦争を止められるなんて己惚れるつもりはないけど。自分たちの欲望のために戦争を始めるなんて、どう考えても間違っているからな。俺は自分にできることをするよ」
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