3-3話


「アリウス、私の質問にも答えてくれないか。君は人間なのに勇者と敵対しているようだが、君の目的は何だ?」


「俺は別に勇者アベルと敵対するつもりはなかった。向こうから勝手に絡んで来たんだ。だけどアベルの目的を知った今は、向こうが手を引かないなら敵対しても構わないと思っているよ」


 アベルの目的は魔王アラニスを倒すことで勇者の力を示して、勇者の力で世界を征服することだ。アベルがアラニスに勝てるとは思わないけど、手段を選ばない奴だから、放置すれば俺の知り合いや家族を危険に晒すことになりかねない。


「アリウスは勇者同盟軍が『魔族の領域』に侵攻する目的を知っているんだろう?」


「ああ。奴らの本当の目的は魔王アラニスを倒すことじゃなくて、『魔族の領域』に眠る膨大な資源を手に入れることだ。アラニスは奴らが侵攻して来たら叩き潰すのか?」


「彼らが魔族の国ガーディアルまで侵攻して来たらね」


 魔族の国ガーディアルは『魔族の領域』の一部で、魔族の大半は氏族単位で『魔族の領域』に点在して暮らしている。


「ガーディアルの魔族たちは、そもそも人間のような弱者に興味はない。人間が侵攻して来るなら、群がる虫を叩き潰すだけの話だ。

 だが魔族も人間と同じように、皆が同じことを考えている訳じゃない。特に人間の国に近い場所で暮らしている魔族の中には、人間を敵視して侵攻を繰り返すような輩も多い。そんな者たちがどうなろうと、私が手を差し伸べる必要があると思うか?」


 アラニスが本気で言っていることが何となく解る。


「魔族の方から侵攻したんだから、侵攻されても文句は言えないって理屈は理解できる。だけど勇者同盟軍が殺す魔族の中には、侵攻とは無縁な奴もいるだろう。そいつらのことも見殺しにするのか?」


「アリウス、君は私を何だと思っているんだ? 私は魔族の国ガーディアルの国王だから、ガーディアルの魔族を守る義務がある。だが魔王が人間を滅ぼす存在だと言っているのは君たち人間だろう。そんな魔王が弱者なら誰でも救おうとする頭のおかしい偽善者だと思っているのか?」


 アラニスが鼻で笑う。アラニスが言っていることが正しいのは解る。全てを救えると思うなんて驕り以外の何でもないだろう。


「魔族のことを良く知らない俺が何を言っても説得力がないし、アラニスに力があるからってガーディアル以外の魔族を救う義務があるなんて思わない。だけど俺は何もしないで、アベルと勇者同盟軍の侵攻を放置するつもりはないよ」


 俺は魂を削るようなギリギリの戦いが楽しくて堪らないから、自分が強くなりたいから最難関トップクラスダンジョンばかり攻略していた。

 だけどアベルと勇者パーティーに関わったことで、俺の知らないところで勝手にトラブルに巻き込まれることや、放置すれば知り合いや家族まで危険に晒すことを知った。


 だから俺は自分のやり方で世界に関わると決めた。もしアベルと勇者同盟軍が何の罪もない魔族を殺そうとするなら、俺は止めるつもりだ。


「アリウス。君の発言は、まるで自分が魔族のようだね。君に魔族を守る理由なんてないだろう?」


「理由ならあるよ。魔族の中にアラニスのような奴がいることを俺は知っているし、世界は繋がっているからな。勇者同盟軍に殺された魔族の恨みから、俺の知り合いや家族が危険に晒される可能性はあるだろう。それに、そもそも俺は何の罪もない奴が殺されるのは納得できない」


「それこそ頭のおかしい偽善者のような台詞だね」


「俺は別に偽善者と言われても構わないよ。自分がやりたいことをやるんだからな」


 できるかできないかじゃない。やりたいからやるんだ。

 このとき。突然、アラニスが腹を抱えて笑う。馬鹿にしているのかと思って、俺が憮然とすると。


「いや。失礼……アリウス、やっぱり君は面白いね。わずか一五歳の君が今のレベルに到達した理由が解った気がするよ」


 アラニスが面白がるように笑う。


「アリウスの覚悟は解った。そこで一つ提案があるんだけど。勇者同盟軍と正面から戦うなら、その姿は不味いだろう。もう手遅れかも知れないけど、君の知り合いや家族が勇者同盟軍の標的になりかねない」


 俺はイシュトバル王国でアベルをボコボコにしたから恨みを買っている。その上、魔王アラニスと一緒に消えたから魔王の関係者だと思われているだろう。だけど誰も殺していないから、アウト寄りのギリギリセーフってところか?


「だからアリウスは魔族の姿になって戦えば良い。君ならそれくらい簡単にできるだろう? 魔族のことを知るために接触するにも、その方が都合が良い。何なら私の名前を出しても構わない。そうだな……名前を訊かれたら『魔王の代理人』と名乗ったらどうだ?」

 それって思いきり、アラニや魔族の国ガーディアルを巻き込むことになるだろう。


「俺が『魔王の代理人』と名乗って、本当に構わないのか?」


「ああ。アリウスはそれに相応しい実力を見せたからね。誰にも文句を言わせないよ」


 アラニスの性格が何となく解った気がする。こいつ、最強のツンデレなんじゃないか?

「アリウスは何か失礼なことを考えているみたいだが、それは間違いだ」


 俺の思惑を見透かしたようにアラニスが笑う。アラニスに隠しごとはできないみたいだな。

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