第392話:声
「ま、待て! アリウスに騙されるな! あの男は『魔王の代理人』だぞ!」
東方教会の司祭は慌て
「おまえたちが俺のことを疑っているなら、『
「私……行ってみようかな」
「私も……安全は保証するって言っているし……」
「貴様ら、アリウスの甘言に乗るな!」
司祭の態度が明らかに変わった。東方教会の連中が武器を構えて、転生者たちの前に立ち塞がる。
こいつらが転生者たちを抱え込んだのは、戦力として使うためで。ここで嘘がバレて出て行かれたら、全部台無しになる。だけどこれは完全に悪手だな。
「どうして、こんなことを……」
「私たちは街に行くだけなのに……」
「司祭さんだって、『自由の国』の街に行くって言っていたじゃない?」
転移者たちが『自由の国』の街で俺の知らないスキルを使ったら、大混乱が起きただろう。それが東方教会の連中が転移者たちを連れて来た狙いだ。
そんなことは俺が絶対にさせないけど。
俺は東方教会の連中を強制的に転移させて1ヵ所に集めると、『絶対防壁(アブソリュートシールド)』の中に閉じ込める。
「この光の壁は何だ? 私たちをここから出せ!」
『絶対防壁(アブソリュートシールド)』の中で東方教会の連中が騒いでいるけど
魔法とスキルを禁止しても、使う馬鹿な転移者がいると思う。だけど街の中はアリサが監視しているし、こいつらの魔力は憶えたから、何か問題が起きてもすぐに対処できる。
「じゃあ、街に向かうから。来たい奴はついて来てくれ」
『自由の国』の街に向けて歩き始めたとき。
『アリウスはん、空を見てや。新手が来たで』
アリサの『|伝言(メッセージ)』に視線を上げると、高速で空中を駆けて来る奴がいる。
黒いロングコートを着た若い男。年齢は20代半ばってところか。音速を余裕で超える速度で、真っ直ぐこっちに向かって来る。
「おまえたちは、ちょっと待っていろよ」
転移者たちに声を掛けると、俺は加速してロングコートの男の方に向かう。向こうが来るのを待っているのは悪手だからな。
「次々と現われて、おまえも俺に何か用があるのか?」
ロングコートの男は立ち止まって、空中に立つ。短く切った白い髪と赤い目。こいつは他の転生者たちと漂う雰囲気が明らかに違う。
装備も使い慣れた感じの黒で統一した不揃いの一式。
「おまえがアリウス・ジルベルトか? おまえを倒せば元の世界に帰すと『
「いや、俺はそいつの声も聞いたことがないんだ。どんな奴か、多少は心当たりがあるけど、正体と目的を探っている最中だ。ところで、おまえは誰だよ? 話している内容から、おまえも異世界転移者みたいだけど」
「俺はアルジャルス・ベルドナギア――元の世界の名前は捨てた。俺は異世界
異世界転生者が元の世界に戻ったって? まあ、異世界転移できるんだから可能だろうけど。
「他人事だと面白そうな話だけど、確かに笑えない冗談だな。それで、アルジャルス。おまえは俺と戦うのか?」
「いや……俺は『声』の言葉を鵜呑みにした訳じゃない。俺を無理矢理召喚した奴の言葉なんて、簡単に信じるかよ。ここに来たのは真偽を確かめるためだ。おまえはこの世界の魔王と結託して、世界を滅ぼそうとしているらしいが、どうもそんな雰囲気じゃないし――今の俺じゃ、勝てそうにないぜ」
アルジャルスは初めから俺を警戒していた。そんな素振りは一切見せないけど、巧妙に魔力を隠しているのがその証拠だ。
「俺も無駄な戦いは避けたいからな。アルジャルスが
「そうか。だがアリウス、おまえの言葉も鵜呑みにできないからな。おまえと戦うにしても、もっと情報を集めてから考えるぜ」
「だっから良かったら、情報提供しようか? 俺はこの世界に転生してから28年経つし、情報収集は日常的に行っているからな」
「いや、おまえのフィルターを通した情報を聞いても意味がないだろう。俺は自分で情報を集める。おまえと戦うとしてもその後だな」
そう言うとアルジャルスは立ち去る。『|鑑定(アプレイズ)』したから解るけど、アルジャルスのレベルは10,000を余裕で超えていた。
それに俺の知らないスキルと魔法をたくさん覚えていて、『異世界転移者特典』を発動していない。
とりあえず、アルジャルスの魔力は憶えた。隠していたけど魔力を完全に消していた訳じゃないから、アルジャルス特有の魔力の性質は解っている。
これで、もしアルジャルスが敵になっても、対処できるだろう。
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