4-2章 グランブレイド帝国(改訂版)

3-1話

スミマセン。ここからは書籍版3巻向けの再構成になります。Web版本編と同時に書くのは厳しいため、どうかご容赦ください。

書籍版を読まれていない方のために、Web版と書籍版の違いを大まかに書くと以下です。


・ヨルダン公爵戦の前に学院で武術大会があって、その練習のときにジーク、サーシャ、ノエルを含めて、みんなが仲良くなる。バーンはこの時点でステータス頼りの戦い方をしていると指摘されて、自分の戦い方を見直す。ジークも自分の不甲斐なさに気づく。


・武術大会でバーン、ジーク、ソフィアを含めてみんなが実力を発揮。特にミリアとエリクはweb版よりもかなり強くなっています。


・ヨルダン公爵戦で、アリサが黒幕として暗躍。みんなもそれぞれ活躍する。マルスとバーンは旅行自体に参加しません。


・勇者アベルとの初見で、アリウスとアベルのバトル。この時点でアリウスは二番目の最難関ダンジョンまで攻略済みで、アベルもWeb版より強い。


・アリウス対アベルはアリウスが勝つが、そこに魔王アラニスが乱入。アリウスを魔族の国に連れて行く。


大筋はこんなところで、3-1話はその続きです。書籍化するときには、さらに修正しますので現時点の構想と考えて頂けますと。とりあえず、最初の5話分は全部書き直しと言いますか、Web版には無かったシーンです。

――――――――――――――――――――


 巨大な石柱に支えられた五〇mを超える高さの天井。まるで最難関トップクラスダンジョンのような広大な空間。ここは魔族の国ガーディアルの王宮だ。


「アリウス・ジルベルト。せっかくだから、私と手合わせしようじゃないか」


 艶やかな黒髪に漆黒の瞳。滑らかな白い肌を包むのは、黒い天鵞絨ビロードのドレス。客観的に見れば『恋学コイガク』の主人公ヒロインを完全に食ってしまいそうな物凄い美人。魔王アラニス・ジャスティアが面白がるように笑う。


 イシュトバル王国で俺と勇者アベルが戦っているとき。突然現れた魔王アラニスは俺を連れてガーディアルに転移した。イシュトバル王国に残せば面倒なことになるから、俺を連れて来たと言ったけど。どう考えても、今の方が面倒な状況だよな。


 周囲を囲む魔族たちが俺たちに注目している。一人一人が強大な魔力を放つ一〇〇〇人を超える魔族たち。一〇〇〇レベルを超える奴がゴロゴロいるし、『鑑定アプレイズ』してもレベルが解らないのはアラニスだけじゃない。


 そして当然のようにアラニスは『転移阻害アンチテレポート』を発動済みだ。


「俺に断る余地はないってことか?」


「別に断っても構わないよ。だけど人間の君が魔族の国ガーディアルで平穏に過ごしたいなら、実力を示す必要がある。ここでは実力が全てだからね。先に言っておくが、最初から全力で掛かって来てくれ。私は君を殺したくないから」


 アラニスの濃密な魔力が広間全体を覆う。


 俺を殺したくないと言ったことが、脅しじゃないのは解っている。『鑑定アプレイズ』してもレベルが解らない時点で、アラニスの方がレベルは上。だけどアラニスから感じる圧倒的な魔力はその程度・・・・じゃない。魔力だけで比べても、俺にとってアラニスは絶対的強者だ。


 だけど俺はこの状況を楽しんでいる。魔王アラニスのような絶対的強者と戦える機会なんて滅多にないからな。勿論、俺だって簡単に殺されるつもりはない。


「じゃあ、遠慮なく行かせて貰うよ」


 『収納庫ストレージ』から黒と青の二本の剣を取り出す。どちらも五番目の最難関トップクラスダンジョン『精霊界の門』のラスボスのドロップアイテムで、俺が持っている中で最強の武器。装備もアベルと戦ったときのままの本気モードだ。


 『絶対防壁アブソリュートシ―ルド』を多重展開すると、二本の剣に魔力を集束させる。俺は一気に最加速して、的を絞らせないように『短距離転移ディメンジョンムーブ』を繰り返しながら距離を詰める。


 全力で魔力を込めた渾身の二連撃を、アラニスはアッサリ躱す。


「なるほど。アリウスの動きは悪くないね」


 アラニスが魔力の波動を放つ。それだけで多重展開した『絶対防壁アブソリュートシ―ルド』を全部貫通して、俺のHPは半分以上削られる。近づくだけでダメージを受ける魔物には最難関トップクラスダンジョンで慣れているけど、この威力は反則だろう!


 痛みを無視して『短距離転移ディメンジョンムーブ』で距離を取り、『完全回復パーフェクトヒール』と同時に『絶対防壁アブソリュートシ―ルド』を再展開する。


「君の実力はこんなモノじゃないだろう?」


 だけど次の瞬間、アラニスが目の前にいた。魔力の波動が『絶対防壁アブソリュートシ―ルド』ごと俺のHPをゴッソリ削る。ダメージを防ぐには距離を取るしかないけど、今の俺が遠距離から魔法を放ってもアラニスには通用しないだろう。


「期待に沿えるか解らないけど、俺にできることは全部やらせて貰うからな!」


 『完全回復パーフェクトヒール』と『絶対防壁アブソリュートシ―ルド』を連続発動しながら、俺はアラニスの懐に飛び込む。

 こんな魔法の使い方をしたら無駄撃ちも多いし、MPの消耗が激しくて長くは持たない。だけど今の俺がアラニスとやり合うには、こうするしかない。


 削られると同時に回復しながら全力で魔力を込めた剣を加速させて、一○○分の数秒毎に連続で訊き込む。


「そのスピードで攻撃・防御・回復を同時に行って、しかも攻撃は正確で巧みにフェイントを入れて来る。アリウス、君は本当に強いね」


 それでもアラニスは涼しい顔で俺の攻撃を全部躱し続ける。しかも全然本気じゃない。アラニスは魔力の波動を放つだけで、まだ一度も攻撃していないからな。


「そろそろ私も攻撃させて貰うよ」


 内側で闇が渦巻く無数の黒い球体が、アラニスの周囲に出現する。

 『索敵サーチ』に反応した魔力に冷たい汗が流れる。こんなモノが一発でも直撃したらアウトだ。だけど――絶対的強者との戦い、こうでなくちゃな!


 超高速で飛来する無数の黒い球体を『短距離転移ディメンジョンムーブ』で躱す。だがアラニスは当然予想していて、俺が転移した先に再び黒い球体を放つ。


 脳が焼き切れるほど思考を加速させて、高速移動と『短距離転移ディメンジョンムーブ』を繰り返して躱し続ける。黒い球体はギリギリ躱せるけど、アラニスが放つ魔力の波動は躱しようがない。


 黒い球体のせいで使える空間が狭くなり、アラニスは俺の動きを予測して執拗に迫る。一瞬でも反応が遅れれば即死。加速した思考の加中で、俺は思わず笑ってしまう――絶対的強者との戦いって、こんなに楽しいのか!


 回復すると同時にHPを削られる痛み。背中合わせの死を感じる。とっくに限界なんか超えている。勝てる見込みもない。それでも俺は諦めない。アラニスに一撃だけでも食らわせてやる――


※ ※ ※ ※


「正直、ここまで持つとは思わなかったよ」


 俺はボロボロになって床に転がっている。MPは枯渇して、HPはレッドソーン。生きているのが不思議なくらいで、もう一歩も動けない。

 俺が生きているのは、アラニスに殺す気がなかったからだ。


「……よく言うよ……結局、俺の攻撃は一発も当たらなかったし……おまえは全然本気じゃなかっただろう?」


 アラニスが本気なら、俺に接近したときに魔力の波動以外の攻撃もした筈だ。


「私を本気にさせたいなら、もっと強くなることだね。だけどアリウス、君は今でも十分に強いよ。その年齢でここまで辿り着くとは……私の部下たちも君の実力を認めたようだね」


 首だけ動かして周りを見ると、魔族たちの俺を見る目が変わっている。そこにあるのは敵意じゃなくて賞賛と畏怖だ。


「おまえたちも良く解っただろう。アリウス・ジルベルトはガーディアルが客人として迎えるに相応しい強者だ。人間だからと仇なす者がいれば、おまえたちが始末しろ」


 アラニスの言葉に魔族たちが一斉に片膝を突いて、深々と頭を下げる。


「「「「「「「「「「御意!」」」」」」」」」」


 いや、どう考えても大袈裟だろう。


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