第390話:永遠の記録学派


 魔王アラニス曰く、『永遠とわの記録学派』とは1,000年以上前から続いているらしい・・・魔術士による組織のことで。この世界のことわりを解き明かすために、世界に起きた事象を全て記録している。


「私が知る限りは、魔法そのものよりも知識に対して強欲なカルト集団だ。知識を得るためなら手段は厭わない、そんな連中だね」


 魔王アラニスは300年前の勇者と戦ったときに『永遠の記録学派』の魔術士たちに出会った。彼らは観測者の立場だと言っていたが、魔王アラニスのことを執拗に探ろうとした。あまりにも邪魔だったから何度か警告した後、排除したそうだ。


「『永遠の記録学派』について、一つだけ褒められることがあるとすれば、記録が正確だということだよ。彼らの記録には300年前の戦いで、勇者ではなく私が勝ったことが明確に記されていたからね」


 魔王アラニスの怒りを買った『永遠の記録学派』は拠点を失い、拠点いた学派の魔術士たちは皆殺しにされた。

 だが拠点に残された魔導具と魔導書から『永遠の記録学派』の魔術士たちが、遠距離から事象を観察することに長けていることが解った。


「私は魔法を無効化するのが得意だからね。『永遠の記録学派』の連中は私の記録を取るために、近づくしかなかったんだろう。本来の彼らであれば、相手に気づかれることなく観察を続けられるんじゃないか」


 魔王アラニスに近づいた連中が『永遠の記録学派』の全てとは限らないし。元々姿を隠して世界を観察していたなら、今も同じことをしている可能性が高いだろう。

 そしてもう1つ気になることは、奴らが執拗に探ろうとした魔王アラニスが、転生者だということだ。


「私もその可能性は気づいていたが、誰が私を転生させたなどに興味はないからね。アリウスだって自分を転生させた相手を、探そうとしなかっただろう?」


 俺は自分とミリア、今の勇者のフレッドを転生させた奴に興味がない訳じゃない。だけど優先順位の問題で、誰がどんな目的で転生させたとしても、俺の生き方は変わらないし。アリウスに転生した俺が元の世界に戻ったとして、何かできる訳じゃないからな。


「アラニス、ありがとう。『永遠の記録学派』の連中が異世界転移に関わっている可能性があることは解った。だけど奴らの居場所までは解らないし。一度も会ったことのない連中を探し出す手段は……いや、そんなことはないか」


「アリウスも気づいたみたいだね。『永遠の記録学派』が今も活動を続けているなら、アリウスは観測対象の1人だと思うよ。私は魔族の国ガーディアルにいるから、人間である『永遠の記録学派』の連中が入り込む余地はないが。アリウスの周りに『永遠の記録学派』の連中がいても、記録しているだけなら怪しまれることはないだろう」


 そいつが『異世界召喚の力』を持っていたら『鑑定アプレイズ』すれば解る。だけど『鑑定アプレイズ』は普通に存在するスキルだから、向こうもそこまで間抜けじゃないだろう。


 魔法やスキルの構成が知識系に偏っていて、素性の怪しい奴を探ってみるか。

 ミリアとアリサも転生者だから、観測対象の可能性があるけど。ミリアはロナウディア王国の諜報部を辞めて『ー自由のフリーランド』では、ほとんど俺と一緒にいるし。アリサが気づいていないってことは、監視するようなレベルで観察している訳じゃないんだろう。


 だけど条件を絞り込めば、アリサやエリクなら該当する奴を探ることは、そこまで難しいくないだろう。

 フレッドは勇者だから、あいつの周りにも観測している奴はいる筈だから。俺たちの周りをアリサに、フレッドの周りをエリクに探って貰うか。


※ ※ ※ ※


 俺たちの周りとフレッドの周りで。魔法やスキルの構成が知識系に偏っていて、素性の怪しい奴を探り始めてから1週間が経った。

 対象はある程度絞り込めたけど、相手は観察しているだけだから特定するのは難しい。


 絞り込んだ相手全員に精神支配系の魔法を使えば、見つけるのは簡単だけど。さすがに、そこまで乱暴なことはできないし。そんなことをしたら『永遠の記録学派』に警戒させることになる。


 結局、絞り込んだ相手全員を監視して、尻尾を出すのを気長に待つしかない。そいつが『異世界召喚の力』を持つ奴に接触したら手っ取り早いけど。そんなに上手く行く筈がないからな。


 異世界転移者たちも『永遠の記録学派』の観測対象の可能性があるから、『自由の国』にいる転移者たちはアリサが一緒に周りを探って。

 藤崎冬也ふじさきとうやはキシリアとエルザに頼んで、ブリスデン聖王国の転移者たちはジョセフに周りを探らせている。だけど状況は同じようなモノだ。


 そんなとき。異世界転移者たちに動きがあった。『自由の国』の街に飛空艇が接近していると、アリサから『伝言メッセージ』が来た。空を飛んでいるなら、俺の『索敵サーチ』の効果範囲よりも、視認できる距離の方が長いからな。


 街の外壁の上でアリサに合流する。2隻の飛空艇が真っ直ぐこっちに向かって来る。


「すでに『自由の国』の領域内やから領空侵犯やな。中の連中が武装していたら明確な敵対行為やで。問答無用で撃ち落としても構へんけど、どうするんや?」


「俺たちがいるから、向こうが乗り込んで来ても問題ないけど。わざわざ待つ必要はないだろう」


「だったら警告して、無視するなら撃墜やな」


 アリサの指示で『飛行フライ』を発動した『自由の国』の衛兵たちが飛空艇に向かう。警告も『拡声ラウドボイス』を使って、これ以上進むなら撃墜すると伝える。


 すると2隻の飛空艇は地上に降下していく。衛兵たちも飛空艇を取り囲みながら、一緒に降下する。


「地上に降りたら、ここからじゃ視認できないし。ちょっと様子を見て来るよ。アリサは残って、何かあれば対処してくれ」


 2隻の飛空艇が降りた地点に直行すると、中から武装した連中が降りて来る。髪を染めている奴もいるけど、どう見ても日本人の顔だ。


「おい。俺たちはアリウスって奴に用があるんだ!」


「さっさとアリウスを出せよ! じゃないと、痛い目を見ることになるぜ!」


 年齢は10代後半から20代前半ってとろこで、全部で50人ほど。全員、異世界転移者ってことか。


「おまえたちは、俺に用があるんだろう」


「みんな、こいつがアリウスだ!」


 各地の転移者と話をしに行ったから、俺の顔を知っている奴がいて話は早かったけど。


「俺たちは騙されないぞ!」


「おまえは魔王と手を組んで、世界を滅ぼそうとしているんだろう!」


「そんなこと、俺たちが絶対に許さないからな!」


 転移者たちが一斉に武器を抜く。こいつらの武器は全部、結構なレベルのマジックアイテムだ。


 だいたいの状況は解ったけど。正直に言えば、また面倒臭い連中が来たなと俺は思っていた。


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