第383話:敵意


「さあ。みんな、挨拶するわよ」


 ミリアの合図で、6人の子供たちが一斉に言う。


「「「「「「キシリアさん、エルザさん、こんにちわ!」」」」」」


 俺たちはマバール王国の王宮に来ている。王女のキシリアとエルザに呼ばれて、異世界転移者に会うためだ。


 一緒に来たのは子供たち6人と、ミリアたちみんな全員。7年前にエルザが俺に求婚したことを話しているからか、みんなは絶対に一緒に来ると言って。みんなの予定が会うタイミングに合わせたんだよ。


「ま、まあ! み、みんな、凄く可愛いお子さんたちですね!」


「ア、アリウス陛下に似ていて、ほ、本当に可愛いです!」


 エルザは俺に求婚したときに愛人でも妾でも構わないと言って。キリシアの方は元々そういう風に・・・・・・俺を見ていない筈だけど、結構ショックを受けているみたいだな。


「どうやらアリウス殿は噂通りの種――」


 途中まで言ったロドニー国王の言葉が途切れたのは、キリシアとエリザが口を塞いだからだ。


「お父様は気分が悪いようですね。皆さんには申し訳ありませんが、ここで失礼させて頂きます」


「ほら、早くしないか父上。これ以上余計なことを言ったら……どうなるか解っていますね?


 エリザとキシリアは笑顔だけど、目が笑っていない。マバール王国の騎士たちもロドニー国王じゃなくて、2人に従っている感じだ。

 騎士たちに拘束されて、口を塞がれているから文句も言えないロドニー国王が哀れだな。


 キシリアとエルザが騎士たちを広間から下がらせる。


「これで邪魔者――いいえ、気分が悪くなった国王陛下と騎士たちがいなくなりましたから。ゆっくり話ができますね」


「その通りだ……コホンッ。アリウス陛下、大変失礼しました」


 エルザとキシリアの本音がダダ洩れだ。


「いや、俺は別に構わないけど。キシリアは喋り方が変わったんだな。それに陛下とか言うのは止めてくれ。俺は堅苦しいことが嫌いだからな」


 7年前のキシリアは、エルザと同じような口調で喋っていた。それに2人のことは認めているから、陛下なんて呼ばれたくない。


「アリウス陛下……いえ、アリウスさんは気づいてくれたんですね。私はエルザを支えるために王国騎士団を纏める役目に徹しようと思いまして。騎士団を率いる者なら、男のような口調の方が相応しいと思ったんです」


「キシリアが自分で決めたことなら、俺はどうこう言うつもりはないよ。おまえとエルザがマバール王国のことを真剣に考えているのは知っているからな」


「アリウス様……ありがとうございます。7年前に伝えた私の気持ちは本物です……今でも愛人でも妾でも構いませんので、アリウス様のお傍にいたいと思っています!」


 エルザの目が熱を帯びる。


「この人……本気で言っているわね」


「そうね。だから私たちも真剣に考えないと」


「だけどアリウス君が決めることだから……私は何も言えないよ」


「ノエルが引くことはないわ。ノエルだってアリウスと子供たちが一番大切だって想っているんでしょう?」


「勿論、そうだけど……私はみんなのことも大切だから……」


 ノエルの言葉にミリア、ソフィア、ジェシカの3人がノエルを抱きしめる。


「だったらノエルが気にすることはないわ。あとはアリウスに任せるわよ」


 エリスが自信たっぷりに言う。俺のことを微塵も疑っていないな。


「エルザには悪いけど、俺の気持ちは変わっていない。俺はエリスたち以外に、愛人や妾を作るつもりはないよ」


「そうですか、解りました。ですが私とキシリアお姉さま・・・・・・・・・・は一生諦めるつもりはありませんので」


「おい……エルザは何を言っているんだ?」


「キシリアお姉さまも、自分に正直になりましょう。今でも結婚していないのは、アリウス様をお慕いしているからですよね?」


 エルザの言葉に、キシリアが真っ赤になる。


「なあ……俺は何を見せられているんだ? あんたたちは俺のことを完全にを忘れているだろう?」


 ここまで黙って見ていた奴が声を上げる。短く切った黒髪に黒い瞳。20代前半のイケメン――俺は『鑑定アプレイズ』したから解るけど。こいつが最近マバール王国に出現した異世界転移者だ。


「おまえには悪いことをしたと思っているよ。だけど、おまえだって最初から俺のことを睨んでいたよな?」


「ああ、そうだ……俺は女たらしのあんたが気に食わねえ」


 異世界転移者は敵意を隠そうともしない。


「そう……貴方って、良い度胸しているわね」


「私たちの前でアリウスに喧嘩を売るなんて……どういうつもり?」


「私だってアリウス君を悪く言う人は許さないから!」


「これでも私はSS級冒険者よ――あんたを許すつもりはないからね」


 ミリア、ソフィア、ノエル、ジェシカの4人が取り囲んで。


「「「「「「僕(私)(わたし)たちだって、お父さんを悪く言う人は許さないから(わ)!」」」」」


 6人の子供たちが睨む。


「という訳で……アリウスに謝らないなら、私たちは容赦するつもりはないわ」


 みんなを取り纏めるエリスが脅しじゃなくて、本気の殺意を込めた冷徹な視線を向ける。


冬也とうや殿、悪いことは言わない……誠心誠意謝ってくれ!」


「そうですよ、冬也様……この状況で、貴方の命の保証をできません」


 みんなの本気に気圧されて、キシリアとエルザが青い顔をする。


「アリウス、あんた……いったい、何者なんだよ?」


 冬也が唖然としている。俺は堂々と宣言する。


「俺はアリウス・ジルベルト。5人の妻と6人の子供がいる転生者だ」


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