第382話:情報交換


 俺は再びロナウディア王国の王宮を訪れている。エリクと異世界転移者について情報共有するためと、『自由の国フリーランド』に移住した転移者たちと水原七瀬みずはらななせの顔合わせをするためだ。


 と言っても、俺に同行したのは佐藤誠さとうまこと小鳥遊優里亜たかなしゆりあだけだ。

 小野寺小百合おのでらさゆりは宿屋の仕事を休めないと言って来なかったし。新たに『自由の国』に来た2人の転移者にも声を掛けたけど、ダンジョン攻略で忙しいと断られた。


 同じ転移者だからって、特に仲間意識はないみたいだし。『異世界転移者特典』で強くなって、ダンジョンを攻略するのが楽しい気持ちも解るからな。転移者たちに協調性がないとか言うつもりはない。


 今回、子供たちはミリアたちと一緒に留守番だ。エリクは構わないと言ったけど、毎回子供たちを連れて来ると世話を掛けることになるからな。勿論、午前中は子供たちと一緒に鍛錬した。


「アリウス、久しぶりね。この2人も転移者なの?」


 エリクを通じで七瀬には事前に話をしている。七瀬と誠と優里亜は、お互いに自己紹介をして、それぞれのこれまでの経緯を話している。


 3人は直ぐに打ち解けた。七瀬と優里亜は少しタイプが違うけど、2人ともギャル系だから相性は悪くないんだろう。

 誠はオタク系だけど自分の意見はハッキリ言うし、相手が言うこともキチンと聞くから、話してみれば意外とコミュ力が高いんだよな。

 

「という訳で。七瀬っぴも、あーしらと一緒にダンジョンに行くことになったから。七瀬っぴのこともアリウスが『|転移魔法(テレポート)』で『自由の国』まで運んでくれるよね?」


「優里亜さん。いきなり、そんな話をしてもダメですよ。まずは七瀬さんを保護しているエリク陛下の許可を貰わないと」


「えー! マコっちは固いなあ。こういうのはノリっしょ!」


「優里亜とマコっちって、ホント仲良いよね」


「七瀬さんまで『マコっち』って呼ばないでください! それに僕と別に優里亜さんは仲良くなんか……」


「あっ! マコっちが照れてる! そういうとこ、可愛いよね!」


「だから『マコっち』って言うな!」


 3人のやり取りにエリクが笑っている。


「七瀬さんが行きたいなら、僕は構わないよ。異世界転移者の情報について、七瀬さんには十分協力して貰ったし。アリウスがいる『自由の国』なら安心だからね」


 転移者に関する情報は、ほとんど得られなかったけど。七瀬はロナウディア王国の騎士と一緒に鍛錬したり、ダンジョンを攻略しながら、レベルやステータスの変化を『|鑑定(アプレイズ)』で調べることに同意した。


 それほど長い期間じゃないけど、転移者が持つ『成長加速レベルアップブースト』の効果を実際に測定できた。この世界に1年以上いる誠たちも協力してくれたから、転移者特有のスキルについても、ある程度は把握した。


 成長が早い転移者たちが、今後脅威になる可能性もある。だけど戦闘経験に乏しい転移者がレベルほど強くないことも解った。

 『成長加速』とは別に転移者が持っている俺が知らないスキルの方も、勇者のスキルほど凶悪じゃないようだし。本人に自制心さえあれば、そこまで危険視する必要はないだろう。


 自制心がない転移者がスキルを使ったら問題になる。だけど俺も全ての転移者を把握している訳じゃないし、何もしていないうち拘束する訳にもいかないだろう。俺は各地にいる転移者たちをできるだけ把握して、トラブルに対処するしかない。


 スキルを発動した状態で『解析アナライズ』しないと正確な効果は解らないけど。『|鑑定(アプレイズ)』でスキルの名前を知るだけでも、ある程度効果を予想できるからな。


 七瀬も『自由の国』に来ることになったから、優里亜と誠は荷造りの手伝いをすることにした。優里亜が誠に七瀬の下着をわざと見せて、真っ赤になった誠を2人の女子が揶揄からかっている。


 そんな3人を残して、俺とエリクは話をするためにエリクの私室に向かう。

 エリクの侍女兼護衛のベラとイーシャが紅茶とお菓子を用意してくれるのは、いつもの光景だ。


「異世界転移者の数が多いから、問題は少なからず起きているようだね。最近でも、いきなり犯罪に走った転移者が処刑された例もあるよ」


 『異世界転移者特典』で得た力で暴走する馬鹿はいるってことだ。勝手に異世界転移させられた被害者だとしても、暴走した馬鹿に同情する気はない。


「俺の方はマバール王国に新たに現れた転移者に会うことになったよ。マバール王国の2人の王女と以前に知り合いになって『|伝言(メッセージ)』で連絡が来たんだ」


「ああ。アンデッドの大群がローアン地方を襲った事件のときだね」


 7年ほど前。『RPGの神』に力を与えらた始祖級ヴァンバイアが1万体を超えるアンデッドの大群を率いて、マバール王国の東部にあるローアン地方を襲った。

 だけどマバール王国はローアン地方を治めるトーリ伯爵が親魔族派だからと、東方教会の圧力に負けて捨て石にしようとした。


 冒険者ギルドに討伐依頼も出ていないから、勝手に討伐すると内政干渉になる。だけど俺は姿を隠してたままマバール王国に潜入して、アンデッドを殲滅した。


 まあ、そんなことをする奴は限られているし。マバール王国の第2王女のキシリアは元冒険者で、その前にも別の国で俺がグレイたちと一緒にスタンピードを殲滅したところを見ていた。だから俺がやったと直ぐに気づいたらしい。


 マバール王国のロドニー国王はキシリアから話を聞いて、第3王女のエルザを俺と結婚させて取り込もうとした。当時、すでにみんなと結婚していたから、俺のことを相当な女好きだと思ったんだろう。


 そんなロドニー国王に失望したキシリアは、俺とロドニー国王の交渉の場をぶち壊した。

 その後、何故かエルザに気に入られて、本人から求婚されたけど。勿論断って、その代わりに今後マバール王国と交渉するときは、キシリアとエルザとすることにした。2人ならマバール王国を変えられるかも知れない思ったからだ。


 俺はこの話をエリクにした憶えはない。だけどエリクなら当然知っているだろう。


「キシリアとエルザは『自由の国』に来るって言っていたけど。こっちが動いた方が早いから、俺がマバール王国に行くことにしたよ」


「アリウス。これは確かな情報じゃないし、君なら直接会えば直ぐに自分で気づくと思うけど。今回、マバール王国に出現した転移者は特別みたいだよ。何しろ、突然空中に現れたそうだからね」


 情報が早いのは、さすがエリクってところか。だけど本当に空中に出現したなら、確かに普通の転移者じゃないだろう。


 転移者は『異世界転移者特典』ってスキルを発動させることで力に覚醒する。だけど初めから転移者特有のスキル以外が使える訳じゃない。『成長加速』の効果で魔法やスキルを覚えるのが早いだけだ。


 空を飛べる転移者特有のスキルの可能性もある。だけど異世界転移で本当に空中に出現したとしたら、地上に落下する前に『異世界転移者特典』と空を飛べるスキルの2つを発動したことになる。勿論、普通に地上に出現して、スキルで空を飛んでいるところを発見された可能性もあるけど。


 まあ、エリクが言ったように、実際に会えば解ることだけど。


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