第381話:二度目
※異世界転移者視点※
「異界の者よ、ようこそ我がマバール王国へ。私はマバール王国の国王ロドニー・マバールだ」
赤い絨毯の先にある玉座に座る国王と、傍らに立つ2人は王女か? 1人は20代後半の凛々しい感じの美人で、もう1人は20代前半のお淑やかな感じの美人だ。
絨毯の左右には鎧姿の騎士たちが立ち並ぶ。如何にもファンタジー世界って感じの光景だけど、俺にとっては
俺は
それから直ぐに衛兵がやって来て、この城に連れて来られた。
「この世界に俺を召喚したのは、あんたたちなのか?」
「いいえ、そうではありません」
お淑やかな方の王女が口を開く。
「理由は解りませんが1年ほどの前から突然、貴方のような異世界転移者が世界各地に出現するようになりました。この世界のことを知らない転移者はトラブルに気巻き込まれることが多いので、私たちが保護したのです」
どこまで本当のことを言っているのか解らないが。一国が善意だけで保護する筈はないから、異世界から来た俺を利用しようってことだろう。
「あんたたちは俺に何をさせたいんだ? 魔王討伐か? それとも敵国と戦わせるつもりか?」
「貴方は聡明な人のようですね……名乗るのが遅れましたが、私は第3王女のエルザです」
エルザ王女は真っ直ぐに俺を見る。
「正直に言います。各国が異世界転移者を取り込んでいる状況ですので、貴方にはマバール王国の力になって欲しいと思っています。ですが、こちらから他国に戦争を仕掛ける気はありませんし、ましてや魔王と戦うなど一切考えていません」
「魔王と戦うつもりがないって、どういうことだよ?」
エルザ王女が説明する。この世界にはアラニス・ジャスティアという強大な力を持つ魔王がいるが、魔王アラニスは人間と戦う気がないらしく。魔族と人間は交易をするくらいの友好関係を築いているらしい。
「この世界でも、かつては人間と魔族は互いを敵視し、長い間争いを続けて来ました。しかし状況は変わりました。今でも遺恨は残っており、魔族を敵視する人間も多くいますが。魔族と戦争しようなどと愚かなことを考える者は稀です」
魔王アラニスが強過ぎて、戦うことを諦めたってことなのか? だけど街で見掛けた人たちや、この城にいる者たちも悲壮感があるようには見えない。
「魔族と人間の争いを止めたのは『魔王の代理人』であり、今では人間と魔族が共存する『
俺の疑問を見透かしたように、エルザ王女が何故か誇らしげな顔で応える。もう1人の王女もドヤ顔をしている。
だけどエリザ王女が言ったことが全部本当だとしたら、俺は何のために
俺は高校2年生のとき、こことは違う別の異世界に勇者として召喚された。3年ほど掛けて魔王を倒して、元の世界に戻ったのが2年前だ。
元の世界に戻っても勇者の力は残っていたから、俺は目立たないように暮らしていた。勇者の力があることがバレると、普通に生活できないと思ったからだ。
そこで突然、2度目の異世界召喚だ。以前とは違う異世界だし、誰が何のために召喚したのか解らないが。この世界でも勇者の力は失われていないし、ステータス画面を見ると『異世界転移者特典』という謎のスキルが増えていた。
エリザ王女に悪意があるようには思えないが、以前の異世界では人を信用し過ぎて痛い目にあったからな。判断するには、もっと情報が必要だ。
「エルザ王女には悪いが、直ぐにマバール王国の力になるとは言えない。返事をするのは、もう少しこの世界について調べてからだ」
「貴様、こちらが下手に――」
ロドニー国王が何か言おうとすると。
「父上は黙っていてください!」
「そうですよ、お父様。私たちに任せてくださいと言いましたよね?」
2人の王女に止められて、ロドニー国王が口を閉ざす。いや、あんたが国王だろう?
「聡明な貴方ならそう言うと思いましたが……そろそろ、貴方の名前を教えて貰えますか?」
「ああ、悪い。俺は藤崎冬也。冬也と呼んでくれ」
「それでは冬也様は、これから何をされるつもりですか?」
「まずはアリウスって魔族と話がしてみたい。アリウスが支配する『自由の国』はどこにあるんだ?」
「冬也様は勘違いしているようですが。アリウス陛下は人間で、ロナウディア王国という大国のジルベルト宰相の御子息ですよ」
『魔王の代理人』なのに人間で、しかも大国の宰相の息子だって? 人間を裏切って、魔族の側についたのか? だけど『自由の国』では人間と魔族が共存しているって話だ……情報量が多過ぎて、訳が解らないな。
「とにかく、俺はアリウスって奴に会ってみるつもりだ。エルザ王女の話だと『魔王の代理人』だからって、いきなり俺を殺そうとするような奴じゃないんだろう?」
「勿論だ! アリウス陛下は決してそのような人ではない!」
もう1人の王女が興奮気味に応える。
「キシリアお姉様の気持ちは解りますが……少し落ちついて下さい」
「そうだな、済まない……冬也殿、失礼した。私は第2王女のキシリア。訳あって詳しいことは話せないが、アリウス陛下は心の広い素晴らしい人だ。冬也殿も会ってみれば直ぐに解る筈だ」
エルザ王女が嬉しそうにうんうんと頷く。どうやら2人の王女はアリウスに何か特別な感情を懐いているようだな。
「でしたら私がアリウス陛下に連絡して、冬也様を『自由の国』に案内します」
「いや、エリザは政務のためにマバール王国を離れる訳にはいかないだろう。ここは私が冬也殿を――」
「キシリアお姉さまにも、王国騎士団を纏める重要な任務がありますよね? こういうときだけズルいです!」
2人の王女が口論を始めるが、ロドニー国王は諦めた顔で何も言わない。マバール王国の実権は、この2人が握っているってことか。
結局、どっちが俺を『自由の国』に案内するか決まらなかったが。どうやらアリウスって奴は、相当な女たらしのようだな。
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