第377話:選択
「一度しか言わないから良く聞けよ。ブリスデン聖王国に利用されたくなくて、自分の力で生きる覚悟のある奴は手を上げろ。覚悟がある奴は、この国から俺が連れ出してやる」
覚悟のない奴に、手を差し伸べるつもりはない。異世界転移者全員が、勝手に転移させられたと思う。だけど俺のせいじゃないから、無条件で面倒を見てやるほど甘くない。
聖王ビクトルと王弟ジョセフ公爵が渋い顔をしているけど、この条件なら文句はないだろう。
「え……どうする? 私はこれ以上、魔物と戦いたくないんだけど……」
「魔物ならまだマシだわ。だけどここにいたら、いつか戦争に駆り出される」
「え? 戦争って、どういうことだよ? 俺は聞いてねえぞ!」
異世界転移者たちは混乱している。ブリスデン聖王国が自分たちを保護する意味が解っている奴もいれば、そんなことを全然考えていない奴もいるみたいだな。
「ねえ……みんな、落ち着いて! ブリスデン聖王国が僕たちを利用しようしているのは本当のことだよ。嫌なら自分で生きる覚悟を決める必要がある!」
「何だ、てめえは……転生者だか何だか知らねえが、いきなり出て来やがって。勝手なことを、ほざいているんじゃねえ!」
俺に文句を言っているのは、髪を赤く染めた身長180cm超の男子。誠が気をつけろと言った
「聞く気がない奴は失せろよ。馬鹿の相手をするつもりはないからな」
「なんだと、てめえ……俺を舐めやがって!」
いきなり剣を抜いて、俺の知らないスキルを発動する。『
「ちょっと! 武原君、止めなよ! その人は敵じゃない!」
「うるせえ、オタクは引っ込んでいろ! 俺は人より弱え奴の言うことを聞く気はねえんだよ!」
剣が激しい焔を纏う。スキル発動の前動作だな。道治は真っ直ぐ突っ込んで来て剣を振り被る。
「『
『爆裂斬』は片手剣用上位スキルだ。剣が当たった瞬間に激しい爆発を起こす。だけどこんな単純な動きで、当たる筈がないだろう。俺は最小限の動きで躱す。
「てめえ、避けるんじゃねえ!」
「おまえ、何を言っているんだよ?」
道治に手刀を叩き込んで意識を狩り取る。結局、馬鹿の相手をさせられたな。
「え……今、何かしたの?」
「あいつ、もしかして無茶苦茶強いんじゃないか……」
異世界転移者たちが騒いでいる。一番レベルが高い誠が752レベルだから、こいつらには俺の動きが見えなかったんだろう。
「アリウス・ジルベルト、貴様は……」
ブリスデン聖王国の聖騎士団副団長ロザリア・オースティンが、ジョセフ・バトラー公爵を庇うように身構える。隣りにいるのは学院でアレックスのお目付け役をして、フレッドに戦い方を教えたゼスタだ。
「こいつが勝手に突っ掛かって来たんだからな。俺は何もしていないだろう?」
「アリウス陛下、うちの副団長を煽らないでくださいよ。あとであれたちの鍛錬がきつくなりますから」
「ゼスタ、黙れ!」
ゼスタが空気を弛緩させる。良い仕事をするよな。
「おまえらさ、俺も暇じゃないんだよ。覚悟を決めた奴は、早く手を上げろ」
手を上げたのは誠と2人の女子。1人はピンクブラウンのセミロング。もう1人は黒髪ショート。
「あの……うちらの住むとことか、あるんだよね? あーし、こっちの世界のお金とか持ってないんだけど」
セミロングの女子が言う。異世界転移者が勝手に行動しないように、ブリスデン聖王国の奴らは金を渡していないのか。
「生活に必要なモノは、とりあえず用意してやるよ。だけど何もしない奴に只飯を食わせるつもりはないからな。こっちの世界での生き方を自分で決めるんだな」
「うん! 人に指図されるとか冗談じゃないから、あーしはそっちに行くよ!」
黒髪ショートの女子が緊張した顔で頷く。
他の異世界転移者たちは決めて兼ねている感じだな。初めて会った俺を簡単に信用できないし。今は生活に困っていないから、リスクを取りたくないってところか。
いきなり異世界に来て、自分で選択させるのは酷かも知れないけど。こいつらを一生面倒見るつもりはないし。俺たちが元々いた世界でも、自分で決める必要があるのは同じだからな。
「じゃあ、ビクトル。この3人を連れて行くよ」
俺は『
「え……いきなり、景色が変わったんだけど? あそこいるのって……もしかして魔族? どういうこと?」
2人の女子は戸惑っている。『転移魔法』で逃げられると面倒だから、ブリスデン聖王国の奴らはこいつらに教えていないってことか。
「今のって、テレポートしたんですよね! 凄い! 如何にも魔法って感じじゃないですか!」
誠だけは無茶苦茶興奮しているけど。2人の女子がドン引きしているな。
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書籍版2巻 魔王アラニスのイラストをX(旧Twitter) に掲載しました!大人の女性って感じで、私的にはメッチャ好きです!https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA
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