第376話:相談


 その後。俺はブリスデン聖王国の王宮にいる、異世界転移者全員の様子を見て回る。


 佐藤誠さとうまこと以外に、王宮にいた異世界転移者は11人。全員が日本人で、、年齢は10代半ばから20代前半ってところ。性別は男子と女子が半々だ。


 誠が気をつけろと言った武原道治たけはらみちはるって奴が誰か、見た目から解ったけど。そこまで警戒するほどの相手じゃないだろう。


 俺は『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動したまま、転移者たちの様子を窺っただけで。まだ誠以外の奴と話していない。


 だけど誠が協力してくれたのは幸運で、他の奴が俺のことを喋る可能性があるし。七瀬ななせも誠も突然異世界転移しただけで、何も情報を持っていなかったから、他の奴も同じだと予想できる。もし何か知っている奴がいても、後で話を訊けば良いだけの話だ。


 ということで――


「よう、ジョセフ。久しぶりだな」


「ゲッ……アリウス・ジルベルト……」


「何だよ。人の顔を見るなり、汚い声を出すなって」


 俺はブリスデン聖王国の王弟ジョセフ・バトラー公爵の私室に『|短距離転移(ディメンジョンムーブ)』した。ジョセフがいる場所は魔力で解っていたからな。


「今日、俺が何の用で来たかは解っているよな。ブリスデンが異世界転移者たちを取り込もうとしているのは、おまえの仕業か? ビクトルが直接やっているなら、あいつのところに話をしに行くけど」


「……この私が進めていることだ。だが貴様に話すことではなかろう」


「おまえは自分の立場が解っていないようだな。おまえたちがフレッドに何をさせようとしたか。フレッドを解放して、傷つけようとした奴らから守ったのは、おまえたちがしたことを考えれば当然のことだろう」


 ジョセフたちは『RPGの神』の計略に乗って、フレッドが新たな勇者のスキルに覚醒するように強制した。もしフレッドが最後の勇者のスキルに覚醒していたら、勝手に狂戦士化して大量虐殺を始めて、魔族との戦争の火種になるところだった。


「俺はおまえたちを許した覚えはないからな。だけど今のところは・・・・・・、そこまで事を荒立てるつもりはない。物は相談だけど、ブリスデン聖王国が抱え込んでいる異世界転移者の中で、本人が希望した奴だけで構わないから解放しろよ」


「それは内政干渉では――」


「なあ、ジョセフ。俺は相談だって言ったよな? 事を荒立てるつもりなら、俺はそれでも構わないけど」


 俺が睨みつけると、ジョセフが青い顔で震え上がる。俺はこいつの腕を切り落としたことがあるし、岩山を消滅させるところを見せたからな。


「フレッドの件が済んだから、異世界転移者を大量に抱え込んでも、俺が何もしないと思っていたのか? ジョセフ、おまえも大概だな。異世界転移者たちを利用して、何をするつもりだったんだよ?」


「ぐ、軍備を増強するのは、当然のことであろう……それに異世界転移者たちとて、路頭に迷うところを我々が手を差し伸べたのだ。何の文句もあるまい? むしろ我々は感謝されるべきだ」


「保護するだけで、戦争に一切関与させないならな。おまえたちは相手の弱みにつけ込んで、利用しようとしただけだろう。そうじゃないと言うなら、異世界転移者たちを解放しろよ。保護するために掛かったコストくらいは、俺が補填してやる」


 俺は『|収納庫(ストレージ)』から2番目の|最難関(トップクラス)ダンジョン『魔神の牢獄』の魔物の魔石を取り出す。


 ジョセフがゴクリと唾を飲み込む。このクラスの魔石でも、普通は滅多に手に入らないからな。


「……解放するのは、異世界転移者本人が望んだ者だけで構わぬのだな?」


「ああ。ただし、俺が直接話を訊くからな」


 ここまでするなら、異世界転移者が俺のことを喋っても問題ないと思うだろうけど。転移者が騒げば、俺が潜入したことが王宮の兵士たちにもバレる。


 だけど、ここにいるのは俺とジョセフだけで。ジョセフが自分で異世界転移者を解放したことにすれば面子は潰れない。これが交渉って奴だ。


 ジョセフが聖王ビクトルに話を通す必要があると言うので、俺は一緒にビクトルの居住区画に向かう。


「ジョセフ、貴様という奴は……突然、報告があるなどと『|伝言(メッセージ)』を寄越して。私は暇ではな――」


 聖王ビクトルが俺を見て凍りつく。


「ビクトルも久しぶりだな。一応、言っておくけど。ジョセフがおまえに話すことがあるって言うから、俺はついて来ただけだ」


 ビクトルがジョセフを思いきり睨みつける。まあ、そういうことは俺のいないところでやってくれよ。


 ジョセフがビクトルに俺が出した条件を説明する。俺がわざと見えるように魔石をチラつかせると。


「良かろう……アリウス殿、私も話が解らぬ老人ではない。ブリスデン聖王国に保護されることを望まぬ異世界転移者がいるとは意外だが。もしそのような者がいるなら、聖王の名に於いて解放しよう」


 言質は取ったからな。ビクトルに王宮にいる異世界転移者全員を広間に集めさせる。


「これって……どういうこと?」


「チッ……俺が知るかよ」


 突然の招集に、転移者たちは不満そうな顔をするけど。


「何か文句があるなら、俺に言えよ。俺は『自由の国フリーランド』の国王アリウス・ジルべルト。おまえたちがいた世界で死んで、この世界に転生した転生者だ。だから、おまえたちの事情も理解しているつもりだ」


 異世界転移者たちが注目する。誠が驚いているから、俺が自分の部屋に侵入した奴だって気づいたんだろう。


「一度しか言わないから良く聞けよ。ブリスデン聖王国に利用されたくなくて、自分の力で生きる覚悟のある奴は手を上げろ。覚悟がある奴は、この国から俺が連れ出してやる」


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