第375話:二人目の異世界転移者


 一週間後。俺はブリスデン聖王国の聖都ブリスタに来ている。


 エリクとアリサに異世界転移者について探って貰って、俺も自分が付き合っている情報屋から情報を集めた結果。やっぱりシリウスが言っていたように、ブリスデン聖王国が一番多くの転移者を囲い込んでいることが解った。


 『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』で姿を隠したまま、『索敵サーチ』で上空から王宮の様子を探る。


 『索敵サーチ』のレベルを極限まで上げると、個々の魔力が持つ性質の違いが解るようになる。異世界転移者の水原七瀬みずはらななせの魔力は少し異質だから、七瀬に似ている魔力を探して当たりをつける。


 『短距離転移ディメンジョンムーブ』を発動して王宮に潜入。とりあえず、異質な魔力を持つ奴の中で、一番魔力が強い奴のところに向かう。


 来客用の広めの部屋にいるのは、10代後半の男子。身長170cmくらいで、眼鏡を掛けた地味な感じの奴だ。


 だけど『鑑定アプレイズ』したから解る。こいつき752レベルで、七瀬と同じ『成長加速レベルアップブースト』と、俺の知らない『扇動アジテイション』ってスキルを持っている。


「なあ、勝手に部屋に入ったことは謝るけど。俺と少し話をしないか?」


 いきなり声を掛けると、眼鏡男子は反射的に跳び退く。動きは悪くないな。

 俺の方は『認識阻害』と『透明化』を解除して、外に声が聞こえないように『防音サウンドプルーフ』を発動済みだ。


「貴方は……誰ですか?」


「ちょっと事情があって、名前は言えないけど。おまえに危害を加えるつもりはないよ」

「仮面姿で人の部屋に侵入するとか、どう考えても怪しいでしょう!」


 眼鏡男子が指摘したように、今の俺は顔全体を覆う白い仮面を着けている。『変化の指輪シェイプリング』で姿を変えると、誰が来たか解らない・・・・・・・・・からな。


 ブリスデン聖王国の連中とも話をするつもりだけど。状況次第で、後日になる可能性もある。だから俺が来たという決定的な証拠は残さないけど。俺が来たと思って警戒させるために、わざと杜撰ずさんな変装をした。


「自覚はあるから気にするなよ。俺はおまえたちと同じ世界から来た。異世界転移じゃなくて、この世界に転生したんだけど」


「異世界転生って……リアルな話ですか!」


 なんか滅茶苦茶興奮しているんだけど。俺が証拠としてゲームやアニメの話をすると、眼鏡男子はさらに興奮する。


「見た目は全然日本人ぽくないし、異世界転生したって本当なんですね……じゃあ、仮面を取ったらイケメンとか? 異世界転移も全オタク男子の夢ですけど。イケメンに転生するとか、羨まし過ぎる!」


 勝手にイケメンだって決めつけているけど。確かにアリウスは『恋学コイガク』の攻略対象のイケメンだから間違いじゃない。


「俺が知りたいのは、おまえが異世界転移したときのことだ。どうして転移したのか、憶えていることを教えてくれないか?」


 眼鏡男子は教えてくれたけど。突然、光に包まれて、気がついたらこの世界にいたというだけで。誰が何の目的で転移させたのか、何の情報も得られなかった。


 他に解ったのは、こいつのレベルが高いのは一番古株だからってこと。1年ほど前に異世界転移したそうだ。『扇動』ってスキルのことも知りたいけど、いきなり訊くと警戒されるから止めておく。


「おまえは自分がブリスデン聖王国の連中に利用されるって自覚はあるか?」


「当然ですよ。僕だって馬鹿じゃありません。異世界から来た僕を保護したのは、異世界転移者の力を取り込むことが目的ですよね」


「だったら戦争の道具にされても構わないってことか?」


「そんなの嫌に決まっていますけど……突然、何も知らない異世界に来た僕に、他に選択肢はなかったですし。一応、これまでお世話になった訳ですから、簡単に裏切ることはできませんよ」


 こいつは話が通じるし、結構良い奴だな。


「おまえの事情は解った。なあ。自分が名乗らないのに悪いけど、おまえの名前を訊いて構わないか?」


「貴方が名前を言わないのは、何か事情があるんですよね? 名前を教えるくらいは構いませんよ。僕は佐藤誠さとうまことです」


「なあ、誠。俺は方法を知っている訳じゃないし、方法があるかも解らないから、変な期待をされると困るけど。おまえは元の世界に戻りたいのか?」


「そこは微妙なところですね……元の世界には両親と妹がいますので、帰りたい気持ちもあるんですが。貴方なら解りますよね……異世界ってオタク男子の夢じゃないですか!」


 まあ、気持ちは解る。


「あと、もう一つ訊きたいんだけど。もしブリスデン聖王国の奴らが納得するなら、誠は戦争に協力したくないんだよな?」


「勿論です。異世界で自由に生きることができれば最高ですけど……この国の人たちが僕を解放するなんて、あり得ないですよ」


 誠は諦めた顔をする。


「あり得ないなんてことはないよ。俺がそのために来たんだからな」


「え……それって、どういう意味ですか?」


 俺のことを知らない誠が理解できないのは当然だろう。


「まだ諦めないで、ちょっとは期待しろってことだよ。なあ、誠は『恋愛魔法学院』って乙女ゲームを知っているか?」


「通称『恋学コイガク』ですね。当然、知っていますよ! 僕が知らないゲームなんて存在しませんから! 結構前のゲームですけど、累計販売数は確か――」


 誠は何故か胸を張る。こいつはガチだな。


「そんなオタクのおまえに朗報だ。この世界は――正確に言うとこの世界の一部は『恋学』の世界なんだよ」


「え……ここって、リアルにゲームの世界なんですか!」


 誠がさらに興奮する。鼻息が荒いんだけど。


「まあ、俺たちにとっては現実だけどな。だから誠も諦めないで、この世界で自由に生きることを考えておけよ」


「異世界ってだけでオタクの夢なのに、ゲームの世界だなんて……」


 完全に自分の世界に入った誠は、俺の話をもう聞いていない。


「じゃあ、俺はそろそろ行くからな」


「あ……スミマセン、なんか勝手に興奮しちゃって……もう帰るんですか?」


「いや、他の異世界転移者の話も訊こうと思って。だから悪いけど、俺と会ったことは黙っていてくれると助かるよ」


「はい、解りましたけど……他の転移者に会うなら、武原道治たけはらみちはるって人には気をつけてください。あの人は僕たち・・・とは違って不良っぽいですし、何を考えているのか解らないので」


 俺もオタク認定されたみたいだけど、誠は親切心で言っているみたいだからな。


「ああ、気をつけるよ」


 それだけ言って、俺は再び『認識阻害』と『透明化』を発動する。


「消えた……え? 魔法を発動したの?」


 誠が驚いているけど。俺はそのまま『短距離転移』で、次の異世界転移者の元に向かう。


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