第369話:転移者の事情
異世界転移者の
俺とミリアはエリクと一緒に、エリクの私室に移動する。
俺たちに紅茶を入れてくれるのは、エリクの侍女の藍色の髪のベラと、亜麻色の髪のイーシャだ。
学院に通っている頃からエリクの侍女兼護衛をしている2人の役目は、エリクが結婚してからも変わらない。
奥さんのカサンドラも、ベラとイーシャのことを認めているってことだな。
「七瀬さんが
情報収集は冒険者の基本だからな。調べて解ったことだけど、1年ほど前から突然出現するようになった異世界転生者には共通点がある。異世界転移時に与えられた能力が覚醒することで、レベルやステータスが跳ね上がるらしい。
この1年間に出現した異世界転移者は、確認できているだけでも100人を超える。だけど実際の数は、100人どころじゃないだろう。
初めの頃は覚醒した転移者が、この世界の人間と争いになって殺された例もあるけど。今は多くの場合、転移者の有用性に気づいた国が戦力として囲い込んで秘匿している。
さらに悪い情報として『RPGの神』が転移者に接触している。転移者に強力な武器を与えるためだ。
この世界に勇者は1人しか存在できない。『神たち』が決めたルールだからだ。だけど武器を与えるだけなら、『神たち』のルールに抵触しないからな。
『RPGの神』はこの世界に直接干渉することはできないけど。神託として声を聞かせて人を操ることはできる。だから人を使って強力な武器を転生者に与えることは、難しいことじゃない。
俺は『RPGの神』に、他のやり方でゲームを楽しむ方法を見つけろと言ったけど。転移者を利用することにしたようだな。
「七瀬の件は幸運というか、異世界転移させた奴の意図を感じるけど」
これまで少なくとも100人以上の転移者が現れたけど、ロナウディア王国に現れたのは
七瀬が初めての例で。グランブレイド帝国と『
『魔族の領域』の場合は、気づかないうちに魔族や魔物に殺された可能性もあるけど。転移者が現れる場所に、これだけ偏りがあると、転移させた奴に何か意図があるんだろう。
大量の転移者を出現させているのが、俺たちをこの世界に転生させた奴と同じ可能性はあるけど。そもそも、そいつの正体も目的も解らないからな。
「とりあえず、今は転移者を囲い込んでいる可能性が高い国の動向を探ることと。転移者が出現したら、可能な限り保護するしかないな。下手な奴らが戦力をため込むことも、転移者が利用されることも避けたいからな」
「あとは転移者の実力も把握したいところだね。これまでに集めた情報だと、転移者は勇者のような凶悪な能力を持っている訳じゃないみたいだけど。僕たちは転移者に、ほとんど接触できていないから。できれば七瀬さんにも協力して貰いたいね」
『
『
「ところで、全然話が変わるけど。エリクは国王になっても、良い意味で全然変わらないな」
エリクがロナウディア王国の国王に即位したのは、2ヶ月前のことだ。エリクの実績を考えれば、いつ国王になっても、おかしくなかったけど。
エリクの父親で前国王のアルベルトに、何かあった訳じゃなくて。エリクの実力が認められたってことだ。
「これまでも僕はロナウディア王国を代表するつもりで行動してきたつもりだからね。国王になったからと、態度を変えるつもりはないよ。僕としては、ようやくアリウスと肩を並べられる立場になったという感じだよ。アリウスが立場なんて気にしないことは、勿論解っているけどね」
大国であるロナウディア王国と『自由の国』と比べれば、俺の方が肩を並べたとは言えないと思うけど。そんなことは俺とエリクにとって、些細なことだからな。
「君たちに直接会うのは、僕の戴冠式以来だよね。せっかく来たんだから、ルミナスとレオンにも会ってくれないかな?」
「ああ、勿論だよ」
エリクは一旦退室すると、2人の子供を連れて来る。赤い髪と瞳の10歳の女の子と、金髪碧眼の8歳の男の子。エリクとカサンドラ長女ルミナスと長男のレオンだ。
「アリウスさん、ミリアさん、お久しぶりですね」
「お二人とも、いらっしゃい。アリウスさん、今度僕にも剣を教えてください」
ルミナスとレオンは顔立ちも、フレンドリーなところも、エリクに良く似ている。年齢の割に大人びているのは、エリクとカサンドラ2人の影響だろう。
ちなみにカサンドラは、所用で出掛けているそうだけど。また何か計略を仕掛けるつもりかも知れないと思うのは、俺の邪推だと良いけど。
ルミナスとレオンも交えて、俺たちは互いの近況など他愛のない話をする。
今度は俺たちが子供たちを連れて来るか、ルミナスとレオンが『自由の国』に遊びに来るという約束をして。この日はお開きになった。
――――――――――――――――――――
10月30日マイクロマガジン社より2巻発売! https://gcnovels.jp/book/1743
各種情報をX(旧Twitter) で公開中です!
https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます