第365話:教えること


「ルード教皇とは派閥が違うのです。教皇が何と言おうと、我々は東方教会の信徒のために戦います! アリウス陛下、どうか考えを改めて、我々を街に入れてください!」


 東方教会の司教バリー・ラウズが言う。

 東方教会の関係者全員がテロリストと言う訳じゃない。まあ、自分が手を下さないだけで、テロリストの活動を容認している時点で同罪だけどな。


「だったら、まずは『自由の国フリーランド』に移住する目的を言えよ」


「勿論、東方教会の教義を『自由の国』に広めるためです!」


 訊くまでもなかっけど。これで追い返すことは決定だな。


「ねえ、おとうさん。どうして、いれてあげないの?」


 6人の子供の中で一番小さい1歳になったばかりのエストが、円らな瞳で首をかしげる。


「こいつらは、魔族は全員敵だと言っているんだよ。エストはどう思う?」


「まぞくがてき? トリスタおにいちゃんはいいひと!」


 トリスタは魔族の『流浪者はぐれもの』だったバトリオとイメルダの子供で。2人と一緒に『自由の国フリーランド』に移住して、今では『自由の国』の衛兵として働いている。うちの子供たちとも顔見知りだ。


「魔族の人にも、良い人はたくさんいるよ」


「それに人間にだって悪い人はいるわ」


「魔族だから敵なんて言うのはおかしいよ」


 子供たちの言葉に、バリーが顔をしかめる。


「アリウス陛下、子供の言うことを真に受けないでください!」


「じゃあ、おまえたちは一緒に暮らすために『自由の国』に移住したいのか?」


「無論ですとも。たとえ隣人に汚らわしい・・・・・魔族がいようと、心が広い我々は存在すること・・・・・・を許します・・・・・


 バリーの言葉に衛兵たちが憮然とする。トリスタたち以外にも『自由の国』の衛兵には結構な魔族がいて。そいつらがどういう奴か、解っているからな。


 だけどバリーは衛兵たちの様子の変化に気づかないで続ける。


「アリウス陛下、貴方は騙されているのです! 今は大人しくしているかも知れませんが、魔族は人類の敵であることは紛れもない事実・・・・・・・です。いつか必ず、裏切るでしょう。我々は東方教会の教義を広めて、貴方たちを救いに来たのです!」


 自分が正しいと思い込んでいる奴は、ここまで馬鹿になれるんだな。


「これ以上、話をしても無駄みたいだし。おまえたちは強制送還だな。ストラダー、おまえの目的も東方教会の教義を広めることか?」


 バリーの勢いに飲まれて、ストラダーは途中から完全に空気と化していた。


「アリウス陛下、私はこの者たちに頼まれて同行しただけです。私はフランチェスカ皇国の伯爵として、陛下に協力を申し出に来たのです」


 バリーと違って、ストラダーは少しは空気が読めるみたいだけど。


「却下だ。おまえの協力なんて必要ないからな」


 3年前。ストラダーはカサンドラの計略に乗せられて、グランブレイド帝国とフランチェスカ皇国の戦争を起こすために利用されるところだったけど。

 バーンが身体を張ってカサンドラを止めたことで、カサンドラはストラダーを切り捨てた。


 情報収集は冒険者の基本だからな、俺はストラダーがその後どうなったか知っている。

 何故・・か、ストラダーがグランブレイド帝国の内通者だという噂が広まって、ストラダーは勢力を失った。


 カサンドラに騙されたと言ったところで、伯爵に過ぎないストラダーをルブナス大公のカサンドラが取引相手に選ぶとは誰も思わないからな。


 ストラダーと繋がりがあった私掠船も、不幸な事故・・・・・で沈没。一気に没落したストラダーだったが、腐ってもフランチェスカ皇国の伯爵だと東方教会が接触。


 自分たちだけでは『自由の国』に入り込めないと判断したバリー司教が、大金を見返りに払うからと、ストラダーに協力を求めたってところだろう。


「アリウス陛下、私は大国フランチェスカ皇国の貴族です。私の口添えがあれば『自由の国』とフランチェスカ皇国の友好関係が築ける筈です!」


 ストラダーはフランチェスカ皇国のライアン天帝やルーク皇子が、裏で俺と魔石の取引しているたことも知らないのか。

 カサンドラもあまり頭が回るよりも、こういう奴の方が使いやすいと思って利用したんだろう。


 俺はストラダーを無視して『転移魔法テレポート』する。


 次の瞬間、俺と6人の子供たち。そしてストラダーと東方教会の奴らは、フランチェスカ皇国にあるストラダーの所領にいた。


「ここって……ねえ、お父さん。今発動したのは『転移魔法』だよね?」


 子供たちが興奮している。転移を経験したのは初めてだろう。


「後で説明するから。おまえたちは少し待っていろよ」


 俺はストラダーとバリーの方に向きに直ると。


「次に、おまえたちが『自由の国』に来たら。これくらいじゃ、済まさないからな」


「ま、待って――」


 ストラダーが言い終える前に、再び『転移魔法』を発動。俺は子供たちを連れて『自由の国』に戻る。


「アリウスはん、難儀やったな」


 戻って来た俺たちのところに、アリサが上空から降りて来る。


「あいつらの話は、訊くだけ時間の無駄やし。子供たちの教育にも良くないからな」


「俺もそう思うけど。あの程度の奴らなら俺に確認しなくたって、アリサの判断で処理して問題ないだろう?」


 今回の件で一番疑問なのは、アリサが俺にわざわざ確認したことだ。普段アリサなら、自分の判断で片づけて事後報告するところだろう。


「それはな……」


 アリサは俺の耳元に口を近づけて。


「アリウスはんの子供たちに、アリウスはんが働いとるところを見せるためや。ずっと家にいたらニートみたいやから、うちも気を遣ったんやで」


 小声で囁いて、揶揄からかうように笑う。


 いや、ニートって――確かに、俺は『自由の国』の城塞で、子供たちに魔法や剣術を教えたり、家事をしたりしているけど。働いているところを見せたことはないな。


 今は、そんなことを思わなくても。もう少し大きくなったら、自分の父親は働いていないと思うかも知れないか。


「アリウスはん。これからは、もう少し『自由の国』のために働いて貰うで」


 アリサがどこまで本気で言っているのか解らないけど。子供たちの教育のために、もっと父親らしいところを見せないとな。


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