第366話:平穏な日々とは


「今日はお父さんと一緒に空を飛んだんだ。すごく速くて、気持ち良かったよ!」


「そのあと魔族の人のことを悪く言う人たちに会ったんだ!」


「アリサさんも呆れていたけど。その人たちは魔族だから敵だって言っていたわ!」


「だからお父さんが『転移魔法テレポート』で追い返したんだよ!」


「僕たちも一緒に『転移魔法テレポート』して、知らない場所に行ったんだ!」


「おとうさん、かっこよかった!」


 子供たちが興奮しながら、今日あったことをエリスたちみんなに話している。


 俺は6人の子供と一緒に風呂に入ってから。みんなで一緒に夕飯を食べている。

 子供が6人いると騒がしいけど、こういうのも悪くない。


「みんな、アリウスと一緒で楽しかったみたいね。鍛錬をしに行くって言っていたのに、そんなことがあったの?」


 エリスがアリオンとエストに左右から話し掛けられながら、悪戯っぽく笑う。


「子供たちを勝手に連れ出して悪かったよ」


「あら、私は別に責めている訳じゃないわよ。アリウスが一緒なら心配要らないから」


「そうね。むしろ私も一緒に行きたかったわ」


 ミリアがエリオの頭を撫でながら、俺の肩に頭を乗せると。


「アリウスが子供たちと一緒にいてくれるのは嬉しいわ」


 ソフィアもフィアの頭を撫でながら、反対側の肩に。ミリアとソフィアは本当に昔から仲が良いよな。


「そうだよ、アリウス君。今日はみんなを連れて行ってくれて、ありがとう」


「みんな、お父さんにお礼を言いなさいよ」


 ジェシカの言葉に、子供たちが笑顔で俺を見る。


「「「「「「お父さん(おとうさん)、ありがとう!」」」」」」


 エリスたちみんなは、6人の子供たちを分け隔てなく接している。みんなも仲が良いし、子供同士もそれぞれ性格は違うけど仲が良いからな。


 勿論、喧嘩をすることもあるけど。喧嘩をした子供たちの話を訊いて、何が悪かったのかキチンと話し合って。悪い方が相手に謝って仲直りする。みんな素直だし、それで喧嘩はお終いだ。


 子供たちは家族とだけ接している訳じゃなくて。城塞にいるアリサやシン、『クスノキ商会』のメンバーたちや、他のみんなとも顔見知りだ。子供たちだけで勝手に行動させるのは、さすがに迷惑だから。俺たちの居住スペースから出るときは、俺たちの誰かが一緒について行く。


 城塞の外に出て『自由の国』の街に出掛けることも多い。街の人たち、特に他の子どもたちと接する機会は多い方が良いだろう。自分たちとは違う考え方や性格の人がいることを知って。その人たちとの接し方を憶える。


 だけど正直なところ、うちの子供たちは早熟過ぎて。同じ年齢の子供と対等な関係を築くのは難しいだろう。街でできた友だちも年上ばりみたいだし。俺もそうだったからな。


 まあ、そんな感じで。俺たちは穏やかな日常を送りながら、子供たちは平穏無事に成長している。もう少ししたら、また家族が増える・・・・・・けど。俺もみんなも子供たちも、それを楽しみにしている。


※ ※ ※ ※


 『自由の国』の街から約1kmの地点に迫る大量の魔物の群れ。その数は2万を余裕で超える。


 規模としては完全にスタンピードクラス。魔物群れを率いているのは、魔族と人間の共存を絶対に認めない魔族の氏族ゲオルドだ。


「アリウス……貴様の戯言など、俺は絶対に認めんぞ!」


 ゲオルドの氏族長グエン・ゲオルドは1,500レベル超えと魔族の中でも猛者だ。これが穏やかな日常だなんて、大半の奴は思わないかも知れないけど。


「アリウスはん。うちらに任せてくれれば、全部仕留めて見せるわ」


 アリサは自信たっぷりに言う。今のアリサと『クスノキ商会』の実力なら、グエンと対等以上に渡り合えるだろう。


「アリサ、お主は欲張り過ぎじゃ。グエンはわしの獲物じゃろう」


 そして、ここには元SSS級冒険者1位のシンもいる。シンは何歳なのか解らないけど、今でも現役バリバリだ。


「アリウス。私の獲物も残しておいてよね」


 SS級冒険者上位のジェシカは、いつもの青いハーフプレートとバスタードソードというスタイルで。魔物の群れを待ち構える。今のジェシカの実力は、SSS級冒険者に匹敵する。


「みんなには悪いけど、俺はグエンたちを殺すつもりはないからな。だから、ここは俺に任せてくれ」


 人間との共存を絶対に認めない魔族たちを殲滅したら負けた気がするからな。俺の周囲に魔力を集束させた球体が無数に出現する。


 この3年間、俺も遊んでいた訳じゃない。むしろ、体感的にはその数倍の時間を『神たちの領域』に創ったダンジョンを攻略することで過ごして来た。


 勿論、戦うときは魔力操作の精度を上げることを常に意識している。魔法やスキルの仕組みを分析して考える時間も『神たちの領域』にいれば十分あったから。俺の魔力操作の精度は、この3年間で明らかに上昇している。


 魔力を集束させた無数の球体は、魔物たちの上に高速で移動すると。それぞれの球体が魔力の光を放って、魔物だけを狙い撃ちにする。2万体を超える魔物は数秒で全滅した。


「グエン。まだ戦うなら、俺が相手になるよ」


 別にイキるつもりはないけど。グエンが仕掛けて来るなら、殺すしかないだろう。


「……全軍、撤退だ!」


 グエンたちゲオルドの魔族たちが撤退して行く。これで殺す必要はないな。


「アリウス……お主は相変わらずだのう」


 シンは呆れた顔をしているけど。


「まあ、アリウスはんやからな」


「アリサも解っているじゃない。これがアリウスよ」


 アリサは満更でもない感じだし。ジェシカは何故か胸を張っていた。


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