第364話:懲りない奴ら


「こうして化物の子供は、化物に育つって訳やな。みんなの将来が末恐ろしいで」


 中庭で鍛錬をしている俺と子供たちのところに、アリサがやって来る。


 白いの髪と金色の瞳。小動物のように可愛らしい顔立ち。初めて会ってから10年以上経つけど。アリサの外見は、ほとんど変わっていない。


「アリサ、俺の子供を化物なんて言うなよ」


「アリウスはん。化物っていうのは、褒め言葉やで。なあ、みんなも解っているやろ?」

「「「「「うん、アリサさん!」」」」」


 子供たちはアリサと毎日接しているから、アリサに懐いている。アリサから悪影響を受けなければ良いけど。人と関わることも大切な勉強だから、あまり過保護にするつもりはない。


「それで。アリサ、俺に何か用があるんだろう?」


「わざわざアリウスはんに、出張って貰うほどのことやないけどな。また東方教会の奴らが『自由の国』に移住させろと来ているんや。相手には貴族もいてな。力ずくで追い返して構へんか、アリウスはんに一応確認しておこうと思うてな」


「どこの国の貴族だよ?」


「フランチェスカ皇国のストラダー伯爵や」


 アリサがニヤリと笑う。ストラダー伯爵と言えば、3年前にカサンドラの計略に乗せられて。フランチェスカ皇国の私掠船に、カサンドラが同乗しているグランブレイド帝国の商船をわざと襲わせて。2つの大国同士の戦争を起こそうとした奴だ。


 フランチェスカ皇国には東方教会の信徒が多いけど。伯爵であるストラダーが東方教会の連中と一緒に移住しようとするとか。当然、何か裏がありそうだな。


「解った。俺が相手をするよ」


「お父さん。僕たちの鍛錬は?」


 6人の子供たちが円らな瞳で俺を見つめる。


「用件が片づいたら続きをしよう。それまで待っていてくれ」


「お父さん。私も一緒に行きたいわ。ダメ?」


 ソフィアと俺の子供、銀色の髪と紫紺の瞳の2歳の女の子フィリアが言うと。他の子供たちも、じっと俺を見る。

 うちの子供たちは母親のみんながしっかりしているから、そんなに我がままを言わないけど。自分がしたいことはハッキリ言う。


「解ったよ。アリサ、悪いけど。子供たちを一緒に連れて行くからな」


「うちは別に構へんで。アリウスはんなら、自分の子供を守るくらい余裕やろ」


 俺は『飛行フライ』を発動すると。子供たちと一緒に空を飛んで、アリサの案内で『自由の国フリーランド』の街の南側の門に向かう。


 初めて空を飛んだことに、子供たちは喜んでいる。正確に言えば、最初に生まれたエリスとの子供のアリオンは、もう『飛行』を憶えているけど。城塞の外で『飛行』を使ったことはない。


 三重の外壁に囲まれた『自由の国』の街は、今では人口2万人を超えて。そのうち約2割が魔族だ。

 人間と魔族の交流を深めるために、移住者を広く募った結果だけど。その分、こうしてトラブルも増えた。


 街の門の外側には、東方教会の祭服を着た一団がいる。全部で100人くらいか。その中に金糸で刺繍した祭服を纏う奴と。その隣りに、如何に貴族って感じの服を着た男がいる。


「貴様らのような下っ端では話にならん! 私はフランチェスカ皇国のストラダー伯爵だぞ! ツベコベ言わずに、我々を街の中に入れろ!」


 ストラダー伯爵が怒鳴りつけても衛兵たちは平然としている。

 『自由の国』の人間・・の衛兵は、元冒険者や傭兵、騎士とか経歴は様々で。アリサが伝手を使って声を掛けたり、自分から『自由の国』に移住して来た奴らだけど。


 魔族とのトラブルもあるから。全員、俺やアリサが厳選したメンバーだ。だから貴族に怒鳴られたくらいで、尻込みする奴はいない。


「『自由の国』は東方教会の関係者を一切受け入れない。それくらいは、おまえたちも知っているだろう?」


 6人の幼い子供を連れて空を飛んで来た俺に、ストラダーと東方教会の奴らが唖然としている。ちなみにアリサは上空で様子を窺っている。


 衛兵たちが俺に気づいて何か言おうとしたけど、視線で止める。


「貴様は何者だ? 余計な奴がて出て来おって! しかも子供連れだと? ふざけた真似を!」


 今の俺はシャツ1枚にズボンという、いつものラフな格好だから。偉い奴に見えないのは解るけど。『自由の国』に来るなら、俺のことをもっと調べて来いよ。


 6人の子供たちも、ストラダーに睨まれても泣くことはなく。どこ吹く風って感じだ。。


「俺はアリウス・ジルベルト。一応、『自由の国』の国王だけど」


「な……あ、貴方がアリウス陛下ですと?」


 ストラダーは慌てて、衛兵の顔を見て反応を探るけど。衛兵たちは呆れた顔をしている。


「し、知らぬこととは言え、大変失礼しました! 私はフランチェスカ皇国の伯爵ルイス・ストラダーです」


 ストラダーの態度が急変する。相手によって態度を変える奴って、俺は嫌いなんだよ。


「そういうのは、どうでも良いよ。さっきも言ったけど、東方教会の奴らを『自由の国』に入れるつもりはないからな。話はこれで終わりだ。さっさと帰れよ」


「い、いくらアリスウ陛下とはいえ。そのような横暴が通ると思っているのですか?」


「そうです。これは東方教会の信徒に対する弾圧ですぞ!」


 これまで黙っていた高そうな祭服の奴が口を挟む。


「申し遅れました。私は東方教会の司教を務めるバリー・ラウズと申します。アリウス陛下は、これまでも我々東方教会の移住者を頑なに拒まれて来ましたが。我々が何をしたというのです?」


 何を抜け抜けと言っているんだよ。東方教会は大陸東部を中心に、たくさんの信者を持つ教会組織だけど。裏では邪魔な奴を力で排除するテロリスト集団だろう。


「何とでも好きに言えよ。だけど、ここは俺たちの国だからな。おまえたちを入れるつもりはない。東方教会の教皇ルード・マクラハンとは話がついているからな」


 俺が『自由の国』を創る前から、東方教会とは色々あったからな。教皇ルードには、こっちから何度も・・・・・・・・話をしに行っているし・・・・・・・・・・。ルードも、そこまで馬鹿な奴じゃないけど。


「ルード教皇とは派閥が違うのです。教皇が何と言おうと、我々は東方教会の信徒のために戦います! アリウス陛下、どうか考えを改めて、我々を街に入れてください!」


 まるで自分が正義だと言うかように、バリーは宣言した。


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