第359話:黒鷲号


 皇太子であるバーン専用の飛空艇『黒鷲号』は、グランブレイド帝国軍に所属する軍用仕様だ。

 ちなみにバーンとメイアが『自由の国フリーランド』に来たときは、軍用じゃない普通の飛空艇で来た。


 分厚い鋼鉄の装甲で覆われた『黒鷲号』の黒い船体には、魔力の砲弾を撃ち出す『魔導砲』が装備されている。重い船体を動かすのにも『魔導砲』にも結構な魔力が必要だから。『黒鷲号』には一般的な飛空艇の約5倍の魔石が使われている。


 勿論、こんな情報は当然、軍事機密だけど。俺は『黒鷲号』を『解析アナライズ』したからな。


 『解析』は第10階層魔法で。魔法やスキルの効果と構造を詳細に解析することができる。

 飛空艇も魔導具の一種で、魔導具は魔法やスキルを応用したものだがら。飛空艇を『解析』することは可能だ。


 勿論、『解析』にも欠点があって。効果範囲が狭いから、間近で魔法を発動する必要があるし。発動中の魔法とスキルしか解析できない上に、解析するに時間が掛かる。


 それでも魔導具や魔法の研究者にとって、『解析』は垂涎の魔法だけど。そもそも習得するのが難しい魔法で。実用的なレベルまで精度を上げるのは、さらに難易度が高い。だから別に自慢する訳じゃないけど。『解析』を使いこなせる奴は、ほとんどいないって話だ。


 バーンはカサンドラの計画を阻止するために『黒鷲号』で、カサンドラが乗船しているという商船の元に向かうつもりだ。

 バーンの奥さんのメイアは、今回同行しないらしい。メイア本人は同行するつもりだったけど。子供がお腹の中にいるからと、バーンが説得したそうだ。


 カサンドラが乗船している商船が航行しているのは、フランチェスカ皇国の領海内だから。グランブレイド帝国軍に所属する飛空艇で向かうのは不味いと思うけど。『黒鷲号』には船体を偽装する魔導具が装備されているから、普通の飛空艇に見せ掛けることができる。


「じゃあ、アリウス。カサンドラの姉貴が乗っている商船を発見したら『伝言メッセージ』で連絡するぜ」


 俺が協力するって言ったから、バーンは情報を共有するつもりみたいだけど。


「いや、行動するなら早い方が良いだろう。俺がカサンドラさんの居場所を見つけて来るよ。バーンたちは少し待っていてくれ」


 俺は『転移魔法テレポート』を発動して、フランチェスカ皇国に転移すると。エリクの情報を元に、高速で移動しながらカサンドラが乗っている商船を探す。


 今の俺の移動速度は音速の5倍を余裕で超えているし。『索敵サーチ』の効果範囲は半径10km以上。

 カサンドラには何度も会っているから、俺は魔力の色でカサンドラを識別できる。


 まあ、色というのは比喩で。魔力は人によって微妙な性質の違いがあって。『索敵』のスキルレベルを限界まで上げると、魔力の性質の違いを見分けることができるようになる。俺は1度会った相手の魔力の性質を忘れないからな。


 俺は1時間ほどでソードマスター城の飛空艇発着場に戻る。


「カサンドラさんの居場所は解ったよ。近くに転移ポイントを設置したら、今なら直ぐに向かうことができるけど。バーン、どうする?」


「アリウスが『転移魔法』で連れて行ってくれるってことか? さすがに、そこまでして貰うのは悪いが。早く行動した方が良いのは確かだからな」


「あの……バーン殿下。イマイチ、状況が理解できないんですが。つまり俺たちは留守ってことですか? アリウス陛下が一緒なら、問題ないんでしょうが」


 ガトウとジャンたちグランブレイド帝国の騎士たちは、カサンドラの居場所が解ったという話も半信半疑のようだ。まあ、普通に考えたら、こんな短時間で居場所を突き止められる筈がないからな。


 それでもバーンが決めたことには従うつもりらしく。同行する気満々だったから、自分たちが一緒に行けないと思って、ガッカリしているけど。


「何か勘違いしているみたいだけど。俺は『黒鷲号』ごと転移させるつもりだからな。バーンは自分でカサンドラさんを止めるつもりなんだよな? だったら、俺がいきなりカサンドラさんのところに乗り込むのは、話が違うんだろう」


 このタイミングでバーンが『黒鷲号』で乗り込んだら。カサンドラのことだから、俺の仕業だと疑うだろうけど。俺はバーンたちを運ぶだけだから問題ないだろう。


「アリウスは、そこまで俺のことを考えてくれるのか……さすがは俺の親友だぜ!」


 バーンが感激して抱きつこうとするけど、当然躱す。


「バーン、そういう暑苦しいのは止めろよ。カサンドラさんだって、護衛を連れていない筈がないし。ガトウやジャンたちも、護衛の相手をする必要があるだろう。とりあえず、俺の役目はおまえたちを連れて行くだけだからな」


「いや、疑う訳じゃありませんが。アリウス陛下は本当に、飛空艇ごと転移させることができるんですか?」


 付き合いの長いバーンは、俺の言葉を疑わないけど。ガトウたちは飛空艇を転移させるなんて、信じられないみたいだな。


「説明するより、実際にやって見せた方が早いだろう。早く飛空艇に乗り込めよ」


「そうだな。おまえたちは『黒鷲号』の配置に着け」


 俺はバーンたちの準備が済むのを待ってから、『黒鷲号』ごと『転移魔法』で転移させる。


 転移した先はフランチェスカ皇国近海の上空。突然景色が変わったことに、ガトウたちが驚いている。


「このまま進めば、カサンドラさんが乗っている商船が直ぐに見えるよ」


 『黒鷲号』が空中を移動すると、海上を進む帆船が見えた。


 カサンドラが私掠船に襲わせるために、わざと国旗を掲げていないけど。あれがカサンドラが乗っているグランブレイド帝国籍の商船だ。


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