第358話:バーンの覚悟


 翌日。今度は俺がバーンに会いに、グランブレイド帝国の帝都に向かう。


 エリクに教えて貰ったカサンドラの計画を、バーンに伝えるためだ。


「そうか。やっぱり、カサンドラ姉貴はそんなことを……」


 皇太子であるバーンの部屋。部屋の中にいるのは俺とバーンとメイアの3人だけだ。


「バーンはどうするつもりだよ?」


「勿論、カサンドラ姉貴を止めるぜ。これまでの周辺国との戦争とは訳が違うからな。グランブレイド帝国とフランチェスカ皇国が全面戦争になれば、他の国まで巻き込んで大きな被害が出る。そんなことを、させてたまるか!」


 メイアはじっとバーンを見つめている。メイアもバーンと一緒に戦うつもりだな。


「バーン。だったら俺にも協力させてくれ。俺も戦争なんて御免だからな」


「ああ、親友。恩に着るぜ。だがカサンドラの姉貴を止めるのは俺の役目だ。身内の姉貴すら止められないようじゃ、皇帝を目指す資格なんてないからな」


 バーンは父親のグランブレイド帝国皇帝ヴォルフ・レニングに、カサンドラの計画を話して。この件は自分が止めると宣言する。


 まあ、カサンドラは自分の計画が、わざと伝わるように仕向けた訳だから。ヴォルフ皇帝も当然、カサンドラの動きを掴んでいる。

 それでも動かなかったのは、カサンドラの意図に気づいているからだろう。


「バーン。カサンドラを止めるなら、おまえの兵だけでは足りないだろう。必要な戦力を貸してやろうか?」


 皇太子のバーンは直属の部隊を持っているが。ルブナス大公であるカサンドラの戦力と比べれば、心もとないし。カサンドラ個人の実力もSSS級冒険者に匹敵するからな。


「いや、親父。それには及ばないぜ。俺はカサンドラ姉貴と戦う訳じゃなくて、止めに行くんだからな」


「バーン、おまえは甘いぞ。カサンドラを言葉で説得できるなどと思うな。あいつを止めるには、力ずく以外の方法はないぞ」


「親父、俺もカサンドラ姉貴の性格は解っているつもりだぜ。親父に借りた兵を使って止めるなんて、そこそカサンドラ姉貴に笑われるだけだ。それに身内の争いで帝国の戦力を消耗する訳にはいかないからな。俺は自分自身の力で、正面からぶつかるつもりだぜ」


「そうか……良かろう。バーン、おまえの骨は私が拾ってやる」


 ヴォルフ皇帝が豪快な笑みを浮かべる。


 だけどバーンの実力じゃ、カサンドラには絶対に勝てない。バーンが無謀な戦いを挑むことを、カサンドラは望んでいるのか?


 ヴォルフ皇帝の元を後にして。俺とバーンは皇帝の居城であるソードマスター城内にある飛空艇発着場に向かう。


 防衛の観点から、グランブレイド帝国でも飛空艇が帝都に乗り入れることは禁止されているけど。皇族の飛空艇だけは特別だ。


「なあ、バーン。皇帝として必要なモノは個人的な強さよりも、上に立つ者としての人望や人を動かす能力だろう。自分の力だけでカサンドラさんを止める必要はないんじゃないか?」


「アリウス。俺にはカサンドラ姉貴を力づくで止める実力も、人を動かす人望や政治的な力も全然足りないことは解っているぜ。今は全部勉強中だが、将来的にもカサンドラの姉貴やエリクに勝てるようになるとは、とても思えない。だがそれでも俺は立ち向かう必要があるんだ」


 バーンは諦めているんじゃなくて。現実は現実として受け止めた上で、抗おうとする強い意志を感じる。


「血を流すことを厭わないカサンドラ姉貴のやり方を、俺は認めることができない。だからカサンドラ姉貴を全力で止める。俺にできることはそれだけだぜ」


 完全に脳筋なセリフだけど、バーンの覚悟は解った。バーンはカサンドラに負けても絶対に諦めずに、何度でも挑むつもりなんだろう。


「バーン殿下。自分に人望がないみたいなことを言わないでくださいよ」


「そうですよ。俺たちは殿下に一生ついて行くつもりですから」


 長髪と短髪の2人の騎士が近づいて来る。長髪の方がガトウで、短髪の方がジャン。2人はバーンが学院に通っているときから護衛を務めていて。今でもバーンの腹心の部下らしい。


「おまえたちは俺に甘いからな。俺だって自分が力不足なことくらい解っているぜ」


「俺たちだって、バーン殿下の実力が凄いなんて思っていませんが。少なくとも殿下に一生ついて行こうって奴は、俺たちだけじゃありませんよ」


 飛空艇発着場に着くと、飛空艇の前で騎士たちがバーンを待っていた。全部で50人くらいか。


「こいつらだって、バーン殿下が皇太子だら従っている訳じゃないですよ。バーン殿下になら命を預けられる。本気でそう思っているんですから。なあ、みんな?」


 ガトウの声に騎士たちが歓声を上げる。バーンは暑苦しいけど。相手の実力を素直に認める良い奴だし。皇帝を目指して努力もしている。

 ここにいる騎士たちも、そんなバーンを見ているから。心から慕っているんだろう。


「おまえら……さすがに恥ずかしいから止めろって!」


「へー……バーンでも恥ずかしいことがあるんだな」


「なあ、親友。おまえは俺を何だと思っているんだ?」


「白い歯を見せて笑う暑苦しい奴。それにしても暑苦しい奴の分も、暑苦しくなるんだな。俺はおまえたちのノリについて行けないよ」


「アリウス。おまえは、本当に俺の扱いが悪いよな」


 まあ。一応・・、冗談だけど。


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